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酒の感想ばかり

「スネークヘッド」西木正明

2022-02-07 01:17:23 | 読書
昔に買ったことがある。大学の生協で買った。19900618のことだ。初版が19880815なので、2年経ってからのようだ。1990年というと大学に入学した年だ。しかしあまり読んだ記憶がなく、本自体も捨ててしまったかもしれない。今回、ジョン・ローンを思い出し、懐かしくなって電子書籍で再購入。これは「チャイナシャドー」というジョン・ローン主演で映画化されている。原作の本書も映画の方も今は見ることはできない。
中国を専門に取引する商社の社員である北山が、取引のためフフホトを訪れた際、馬頭琴の演奏で歓待された。その老演奏者が夜、突然北山を訪ねてくる。その老人は大林と言い実は元日本人だった。旧帝国軍の兵隊で脱走兵。その後残留孤児の女性と結婚した。息子もできたが、紅衛兵の一員となりやがて指名手配され香港に潜伏しているらしい。それを中国周辺の出張の多い北山に消息を探ってほしいという依頼なのだった。面白そうな展開。掴みはまず引き込まれる。香港がまだ中国に返還される前の話と言うのが感慨深い。
これと平行して、汪光美(ワン・クィン・メイ)の妹探しをする。こちらは香港の闇社会が絡んでいそうで危険だ。
これぞハードボイルド?言ってみれば北山はただの商社のサラリーマンでプロではない。それが、汪光美の妹探しのために中国の危険な闇組織に立ち向かおうとするのだ。
汪光美が行方不明になり、心配になった北山は探し回る。汪のバラックを訪れたら、いきなり頭部を強打され意識を失う。目を覚ますと、行方をくらませていた汪が横にいて手当てしてくれていたのだ。宿泊所のもと警察官であるホイによるとヌンチャクで打たれたのではないかとのこと。そして手加減されていると推察される。
何が何かわからない北山の元に遣いの子供が小包を届けてきた。中は林朱成と呼ばれる人物からの手紙と、書く時間がないということで自分の音声を録音したカセットテープだった。林朱成は何と冒頭に出てきた残留孤児である大林の探している息子その人物だった。北山から奪った手紙を見てカセットを送ってきたのだった。そのカセットテープには林朱成の半生が独白されていた。その長い独白はドラマチックだ。そして林朱成のかつての恋人が光美という偶然。中国から香港へ密出国した朱成と光美。女である光美は体を売りそれでも稼ぐことができたが、男である朱成は仕事を得ることはできなかった。ヒモ状態だ。それをごまかすように文化大革命の再開に備えた。その資金調達のためスネーク(中国からの密入国者)にヘロインを忍ばせようとこころみた。スネークの一人として光美の妹がいたが、聞かされていた計画と異なり、ヘロインを運んだあと始末される運命にあった。光美から妹救うよう頼まれた朱成は、わざと密入国をばらし、妹を逃した。
警察に追い詰められていることを察した北山と光美は、朱成の元に向かう。しかし時すでに遅く、警察に追い詰められ抵抗している場面だった。そして抵抗むなしく、朱成は墜落死する。北山は朱成の姿を見ることはできたが、ついに会話することはできなかった。光美は不法滞在者としてとらえられた。
北山は日本に帰り、日本では戦死したとされた大林の墓のある寺を訪ねた。そこで大林には弟がいることを聞き、弟に会いに行く。そこで見せてもらった大林の日本にいる時の写真をみて、大林の面影が全くないことに気づく。果たして中国であった大林の正体とは一体?それは明かされなかった。
革命に生きる人の情熱や悲哀を文化大革命に描いたものだ。もしかしたら著者も70年代の学生運動に参加し、それを投影していたのかもしれない。
当時の香港の様子を頭に浮かべながら(といっても7~80年代の香港映画の風景だが)読むと、やけにノスタルジックな気分で読むことができた。
 
20220101読み始め
20220206読了

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