
左上はジークリンデ、右上はブリュンヒルデに扮するフラグスタート。 下はクナッパーツブッシュ。
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大学オーディオクラブの友人から手持ち LP の CD 化 第二弾3枚の “自分焼き” が届きました。 全てクナッパものです (クナッパーツブッシュ指揮ウィーン・フィルによる演奏)。 高校生の頃 買い集めた5枚の LP だそうで、よく買えたものです。 もっとも 私も中学生の時に、カラヤン ベルリン・フィルの『ベートーヴェン全集』を買いましたけど (カネが足りなくて 父が半分出してくれました)。
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1枚目が大物で、『ワルキューレ第一幕全曲』__ これは LP 2枚3面で発売されていました。
2〜3枚目はワグナー楽劇からのセレクト集で、伝説のソプラノ歌手 フラグスタートが歌う4曲 (20分)、バス歌手 ロンドンの歌う2曲 (25分)、これも伝説のソプラノ歌手 ニルソンが歌う1曲 (7分) のアリア集、そして オランダ人序曲 (11分)、タンホイザー序曲 (21分)、ワルキューレの騎行 (6分)、神々の黄昏れ2曲 (19分)、トリスタン前奏曲 (10分) の管弦楽もの。
録音は半世紀前の1953〜59年で、いわゆるショルティ指揮による有名な『リング』4部作以前の世代によって制作されたもので、早くいうと クナッパとフラグスタート世代の最盛期を記録したようなものです。
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様々な関係記事を読むと、当初 デッカ社はクナッパによるワグナー4部作を企画していたらしいのですが、録音陣とそりが合わないクナッパの代わりにショルティが起用されたというから、クナッパが録音に協力的だったら、ショルティの出番はなかったのかも。
また 当時のウィーン国立歌劇場監督はカラヤンだったから、デッカ社が彼を4部作に起用しなかったので、当然 カラヤンは面白くなかったらしく 午後にショルティ ウィーン・フィルによる4部作制作セッションがある日などは、午前中のウィーン・フィルとの練習時間をわざと延長してウップンを晴らしていたこともあったそうで、御大も嫌がらせをしたんですね。
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それらはさておき、70年以降にショルティ指揮ウィーン・フィルによる4部作からの管弦楽抜粋盤が発売されるまでは、このクナッパ指揮ウィーン・フィルによる演奏がワグナー管弦楽ものの代表盤でした。 父も1枚持っていたので、「ワルキューレの騎行」だけを繰り返し LP を回して聴いた記憶があります。
さっそく フラグスタートの歌う CD から聴き始めます __ 戦前 大人気だった往年の歌手の声が鳴り響きます。 いかにも聴衆の中に “ヒトラーが鎮座している” ような雰囲気もします (私の想像です)。 最盛期を過ぎたフラグスタートの出せなかった最高音を、シュワルツコップがカバーして歌ったのが1952年 EMI 録音の『トリスタン』ですが、これらは地声なんでしょう。
ロンドンの歌う『ワルキューレ』最後の場面では、管弦楽の伴奏が大時代がかったオドロオドロシイ音に聴こえ、これまた戦前の人気指揮者の味わいとでもいったらいいのでしょうか? そういえば クナッパの風貌は異様というより “容貌怪異” で、この顔でニラまれたら 楽員も普通出ない音を出してしまいソー。
ニルソンのイゾルデは、どの部分を聴いても これまた文句のつけようがない歌唱で、この頃から66年のベームとの『トリスタン』(バイロイト・ライヴ盤) あたり迄が全盛期だったのかも知れません。 自宅で練習しようと 彼女が声を張り上げたら、丁度 隣の部屋で作業をしていた左官屋のお兄ちゃんがびっくりして、バケツを引っくり返して飛び出していったという話し (自伝から) も頷けそうな声ですね。
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管弦楽セレクト集は、さすがに1953年ものはかなり苦しい。 多少 針のパチノイズもするが、全く気になりません。 また 全奏でも音が割れず、よく LP から音が拾えたと思います。「ワルキューレの騎行」は弦楽セクションにとっては、同じフレーズを延々と繰り返しているだけなので 実は詰まらないんだそうです。 けれど人気曲なので弾いてるんですが、美味しいメロディーは管楽セクションが独占しています。 そういう観点で聴くのも面白いですね。
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そして大物の『ワルキューレ第一幕全曲』ですが、同じ57年に『ワルキューレ第三幕全曲』をフラグスタート ショルティ ウィーン・フィルで録音しています。 要するに 往年の名ソプラノ歌手は、クナッパと一幕でジークリンデを歌い、ショルティとは第三幕でブリュンヒルデを歌い分けているのです (これも DECCA CD で保有しています)。
更に58年から ショルティの4部作の第一弾『ラインの黄金』録音がスタート、ここでフラグスタートはフリッカを歌っています。 ロンドンもヴォータン役で参加するなど、66年録音の第二弾『ジークフリート』以降の配役と比べて、一世代前の歌手が参加しており、4部作を聴き比べると 音質も含めて少し古い印象ですね。
彼女は62年に亡くなっていますから、デッカ社は彼女の遺産を制作したのでしょう。 クナッパは65年に亡くなっていますから、同じ意味で『ワルキューレ第一幕全曲』は彼の遺産にもなったのですね。
そうした往年の名ソプラノの得意とした半世紀前のワグナーものが、最高音質とはいえないまでも、そこそこの好音質で聴けることの有り難みを提供いただいて、友人には感謝する次第です。 夕方7時頃 中程度の音量で聴いていると、傍から「音が大きくて ご近所迷惑ですよ」という “悪魔の声” も __
今日はここまでです。