私の前をのろのろと軽トラがゆくのだ。
時速30km、いや、ときおり30kmを切ることもある。
老人の多いこの村でも、そんな人は少数派だ。だが、そんなに珍しいことでもない。
後ろについてしまった私は、しばしの間(前を行くオンちゃんが私に気づくまで)しょうがなくのろのろと車を走らせながら、あることを思い出していた。
20年にはならないだろう昔、いつもとろとろ運転することでちょっと有名なお年寄りがいた。
その人が側溝へ車を落し込んで、にっちもさっちも行かなくなっているのを2回救出してやったことがある。
その2回目のこと。イラついてしまった私(30代後半)は、したり顔して言い放ったのだ。
「オンちゃん、人に迷惑ぜ。もう車には乗らんようにしいや」
今から思えば、何と不遜な物言いだろう(言ったやつの顔が見てみたいもんだ)。
あのオンちゃんも、私の前を走るこのオンちゃんも、私(やアナタ)の未来である。
山あいのこの村では、車を手放すことなどよっぽどのことがなけりゃ出来やしない。この村に限らず、日本全国どこへ行っても、それが田舎暮らしというものだろう。
だからせめて、前をゆくのろのろ車にイラつくことはやめよう。
と思ったのだが、いかんせん、時速30km弱にいつまでもついていけるほど暇ではない。
(やさしく)クラクションを鳴らしながら、「ゆっくり走るのは止めないが、後ろの車には気づいてね」と独りごちるのだ。
(いや、けっして睨みつけたりはしておりません。ハイ)