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歳を取らないと分からないことが人生には沢山あります。若い方にも知っていただきたいことを書いています。

自主開発

2014-05-28 06:12:52 | 日記

紙の伝票で指示を出し、紙の伝票で結果を受け取るアナログのシステムに代えて、コンピュータ上で指示を出し、コンピュータ上で結果を受け取るデジタルのシステムに変える、病院のオーダエントリシステムの開発が、新設医大を中心に始まったのは30年以上前です。今の時代ならばごく当たり前と思われるこのシステムも、当時、まだ、発想されていなかったのです。

医大の医療情報部のメンバーが開発した、ごく少数のオーダエントリシステムは成果を挙げましたが、医療が分からないエンジニアが開発した、コンピュータメーカーのオーダエントリが出回ると、大不評を買いました。ホストコンピュータを中心に組み上げられたパッケージは、医療の現場でいくら使い勝手が悪くても、直すことができなかったのです。

私が在職していた沼津市立病院では、市当局から院外処方箋の発行を求められた際、読みにくいことのある手書きの処方箋を発行するのには、躊躇がありました。カタカナの並ぶ薬剤名は、1字でも読み違いがおこると、別の薬剤になってしまうからです。

病院側が考えた効率の良い処方オーダは、当時、日本中どこにも存在していませんでした。コンピュータのハードやソフトの進化で、部分的に組み上げることができ、部分的に修正ができる、クライアント・サーバシステムが登場していましたから、SBS情報システムと協同して、処方オーダを自主開発する決断をしたのです。

医師入力の処方オーダには、処方オーダ未経験のお医者さんではなく、使い勝手の悪いシステムで困らされたお医者さんから、大反対がありました。既存の処方オーダでは、前回と同じ処方を出す割合が70%を超えないと、手書きの処方箋よりも能率が悪いと云われていました。

処方箋には患者さんの氏名、年齢をはじめ、薬剤名、分量、用法、投与日数などを記載し、医師の署名か捺印をするのが決まりです。薬剤が決まれば常用量や用法は決まっていますから、投与日数が異なるだけです。新開発の処方オーダでは、薬剤を選ぶだけで常用量、用法、保険で決められた投与日数を一挙に表示させ、必要であれば投与日数だけを変更するようにしました。こうすれば初回の処方でも、手書きより絶対に速いのです。

院内共通の約束処方や、お医者さん各自が常用する処方は、略号で呼び出せるようにして、多用する処方の入力を簡略化しました。略号で処方を呼び出すのは、正に、一瞬です。似たような名前の薬は日本語とローマ字で区別して見間違えのないようにし、麻薬、劇薬等は目印をつけ、配合禁忌の薬剤の組み合わせは、処方できないようにしました。患者さん個人のアレルギーがある禁忌薬剤も、登録しておけば、処方箋が発行できないようにしたのです。

当時は各科別のカルテが使われていましたから、他科と重複して薬剤が出ないように、処方は患者さん個人で一括管理しました。処方オーダ施行以前、お薬の間違いの防止は、医療者の注意力に頼っていたのですが、処方オーダではシステムの上でも完璧な安全対策を講じたのです。

使い勝手の良い処方オーダの成功により、それ以後のオーダエントリの受け入れには、お医者さんの抵抗がなくなりました。臨床検査では、当時、多くの検査機器がすでに、コンピュータ制御によって自動化されていました。折角のオートアナライザーのデジタルの検査結果も,紙にプリントアウトしてアナログで報告していたのです。大量の検査報告書を、紙の病歴に貼る手間は大変なものでした。

医師のオーダを検査機器に伝え、検査結果を医師に戻すためには、オーダのすべてのやり取りを管理する、核となる検査オーダシステムを構築し、個々の検査機器と繋ぐ必要があります。オートアナライザーは、メーカーごとに制御するコンピュータの方式が異なっていましたから、検査オーダシステムと繋ぐのは、容易なことではなかったのです

お医者さんは専門が同じでも、オーダしたい検査項目は独自のものです。たった1項目が異なるような検査セットが医師の数だけ要求され、指示用紙に印刷するセットの数をいかに制限するかが、紙の時代の検査指示の合理化でした。デジタル化されたシステムでは、それぞれのお医者さんが、どんなセットを使おうと勝手です。検査結果も画面上で、時系列で一目瞭然に比較ができます。

当時、開発は無理だと考えられていた注射オーダも、自主開発しました。注射の実態が分からないシステムエンジニアには戸惑いがありましたが、薬剤部の努力で経口投与の薬剤と同じく、注射剤の混合の禁忌や、患者さん個人のアレルギーによる投与の禁止もチェックできるように、安全対策を施しました。

その以前ICUでは、毎日、注射の指示を手書きしていました。指示の内容が変わるからと云って、忙しがっているお医者さんが、日替わりで手書きをするのに疑問を感じていなかったのです。1日分の指示を手書きしてみると、7、8分掛かります。注射オーダでは、同じ処方なら瞬時にオーダが出せますし、一部の変更だけなら、注射の指示に要する時間と手間はほとんどありません。
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オーダエントリシステムは、医療業務の省力化と安全性向上の両面で役立つことが、誰の眼にも明らかになったのです。その後も結果として多くのオーダを自主開発しましたが、部門システムに優れた既成品があれば、マルチベンダーの利用は合理的です。

通信ソフトではサイボウズを選択し、院内の情報交換は飛躍的に改善されました。掲示板、回覧板の閲覧、メールの交換、診療マニュアルの参照などが可能となり、院内スタッフ全員が必要な情報をそれぞれに、いつでも手に入れる機会がえられたのです。

現在、すべての病院でオーダエントリシステムは稼働していますが、電子カルテシステムまでには至らない病院も多いのです。厚生省の電子カルテの研究班は、平成6年に発足しましたが成果を得ず、国としては電子カルテの開発を断念し、平成11年に電子媒体によるカルテの保存だけを認めました。

オーダエントリシステムが電子化されても、診療記録が手書きのままでは病院業務の合理化は達成できません。診療録が電子化され、オーダエントリシステムと一体化して始めて、病院の業務全体が効率化されます。オーダエントリシステムの行き着く先は、必然的にカルテの電子化だったのです。

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