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歳を取らないと分からないことが人生には沢山あります。若い方にも知っていただきたいことを書いています。

新円切替

2018-08-22 06:12:20 | 日記

我が国が第二次世界大戦に敗れた翌年の1946年昭和21年)2月16日夕刻、幣原内閣が突然発表した新紙幣の発行と従来の紙幣の流通停止、それに伴う金融緊急措置令などの総称を「新円切替」と呼んでいます。

我が国は敗戦直後に物資不足に伴う物価高や、戦時中の金融統制が外れた後の預金引き出しの増加、政府が軍発注物資の代金精算を強行に実施したことなどから、市中の金融流通量が膨れ上がりインフレが発生していました。

発表翌日の2月17日より預金の引き出しが封鎖されましたが、16日は土曜で事実上は即時の預金封鎖でした。従来の紙幣は強制的に銀行へ預けさせられる一方、旧紙幣が市場で使えるのは3月3日までに限られ、新円引き出し額を一所帯当たり1か月500円とする現金保有制限が実施されました。

硬貨や小額紙幣は切替の対象外で小銭が使われずに少額の流通経済に支障をきたし、期限までに手持ちの旧円を使おうとして消費が増大しました。新しく発行された新円との交換レートは1対1でしたが、新円の引き出し制限で国民が戦前から持っていた現金資産はほぼ使えなくなりました。

旧円と交換する新円の用意は十分でなく足りない分は旧円に証紙を貼って流通させ、政府は新円切替を「インフレ抑制のための通貨供給量の制限」と説明しました。当時の日本はGHQの支配下で国民はなんらの苦情も云い得る状況にはありませんでしたが、インフレ抑制効果は実際には認められませんでした。

 

新円

 

証紙付旧円

新円切り替えから70年後の2015年2月16日、NHKの「ニュースウオッチ9」で「預金封鎖もうひとつのねらい」という特集が組まれ、当時の大蔵大臣の渋沢敬三氏と大蔵官僚の福田赳夫氏(後の総理大臣)の証言記録が公開されました。

長らく国民は新円切替はインフレ抑制のためと思わされて来ましたが、福田氏の「通貨の封鎖はインフレ抑制のためか」との質問に対して、渋沢大臣は「そうではない。財産税を課税する必要からだった」と明確に否定しています。半世紀後に明らかにされた新円切替の真相は、財産税法施行のための国民の資産の把握と凍結だったのです。

戦時中の1944年に日本国債の発行残高は国内総生産の2倍に達し、償還が不能になっていました。政府は敗戦翌年の1946年に最後の手段として、資産課税で国債を償還することにしたのです。

政府が財政破綻しても個人や法人に政府に対する請求権は生じませんが、政府は個人や法人への徴税権を発動出来ます。1946年2月17日の新円切替発表から2週間後の3月3日、個人の財産全額を対象とする財産税が課税されました。

財産全額への課税ですから銀行預金だけでなく、株式、不動産、金等も含まれました。3月3日の課税当日までに課税対象の銀行預金が減らないよう、預金を封鎖したのです。この預金封鎖は1948年6月まで続きました。

世帯主で月額300円、世帯員1人につき100円までの出金制限は、当時「500円生活」と呼ばれました。500円は現在の貨幣価値に換算すると25万円前後で十分な金額にも見えますが、インフレが急激に進行しており1946年の物価上昇率は300%強でした。

NHKの番組に先立つ2013年8月に「昭和財政史 終戦から講和まで」(東洋経済新報社)等の記録を基にして、新円切替の実態を明らかにした日本総合研究所河村小百合氏の詳しい論考があります。

1945年の終戦当時わが国の財政は軍事支出によって大きく拡大し、財政運営の継続はすでに困難に陥っていました。国債と借入金を含めた政府債務残高の規模(対国民所得比)は、1944年度末時点で267%に達していて、戦時補償債務や賠償問題があり、敗戦時の国民のもつ財産・資産は現預金しかない状態でした。

昭和初期の我が国の国債の約4分の1は外国債が占めていましたが、戦時中の1942年(昭和17年)からは外国債の利払いが停止され、対外債務不履行は1952年まで続きました。終戦の時点では内国債が残高の99%を占め、そのほとんどを日本銀行と預金部(政府)が引き受ける状況になっていました。

極めて切迫した財政・経済・金融状況を抱え、1945年9月頃から大蔵省内部で具体的な対応策が検討されました。翌1946年度(昭和21年度)予算は歳入120億円に対し、歳出は172億円で内78.3億円が臨時軍事費借入金利子や補償金利子を含めた国債費でした。

大蔵省内では官業および国有財産の払い下げ、財産税等の徴収、債務破棄、インフレーション、国債の利率引き下げが選択肢に上り「取るものは取る」「返すものは返す」という対策が決定されました。

「取るものは取る」として動産、不動産、現預金等を対象に、最高90%に及ぶ空前絶後の大規模な「財産税」が国民に課せれました。それを原資に内国債の償還が行われ、内国債の債務不履行を回避したのが「返すものは返す」です。

財産税の課税対象としては不動産より預貯金や保険、株式、国債等の金融資産が大きなウエートを占め、課税財産額の合計は昭和21年度の一般会計予算額に匹敵する規模です。

税率は25%から90%の14段階で設定され、1人当たりの課税額は保有財産の多い富裕層で突出しましたが、総額では中間層からの徴税がもっとも多くなりました。貧富の差を問わず国民からその資産を課税の形で吸い上げたのです。

預金封鎖および新円切替は日銀や民間金融機関が極秘裏に準備した上で断行されましたが、預金封鎖を発動した「金融緊急措置令」が公布された2月17日には「臨時財産調査令」も公布されています。

10月19日に「戦時補償特別措置法」が公布され、政府に対する債権者である国民に対して国側が負っている債務金額と同額の「戦時補償特別措置税」が課税されました。国民の財産権の侵害にはならない徴税権の行使で内国債の債務不履行を回避したものの、国内企業や国民に対して戦時中に約束した補償債務を果たさず実質的に国内債務不履行を強行したのです。 

政府の戦時債務の不履行や旧植民地・占領地における対外投資債権請求権の放棄等で、企業、民間金融機関の資産も債務超過となりました。このため同じ10月19日に「金融機関再建整備法」および「企業再建整備法」が公布され、民間金融機関等の経営再建・再編に向けての債務切り捨ての原資として、第一封鎖預金額を超える分を差し押さえた第二封鎖預金が充当されました。

要するに債務超過状態を解消するために、本来であれば国が国債を発行してでも調達すべき民間金融機関に投入する公的資金を、国民の預金の収奪で賄ったのです。しかし政府は国民向けにはインフレ抑制のためと云う説明で通しました。国民から相当な反発があったことが「昭和財政史 終戦から講和まで」シリーズでも明らかにされています。

「財産税法」の公布は11月12日でした。財産税の納付には不動産等の現物納付が認められ、先行して差し押さえられていた一定額を超える第二封鎖預金も充当されました。多額の資産を現金で持っていた人の受けた打撃は計りしれず、戦前の大金持ちの多くがこのために没落しました。

このような国による国民の資産の収奪が、国家としての正式な意思決定に基づく「徴税権の行使」によって行われた点に留意する必要があります。法的には政府による国民の財産権の侵害は回避されていますが、事実上は国が国民の財産を奪ったのです。

以上が第二次大戦終戦直後の我が国の新円切替の実体です。これから明らかになったのは国債が国として負った借金である以上、国内でその大部分を引き受けていて財政運営が行き詰まった場合、最後の調整の痛みは間違いなく国民に及ぶと云う点です。

敗戦で社会全体が混乱のさなかにあった当時と現在とでは状況がまったく異なり、政府債務残高の規模が当時とほぼ並ぶ規模に達したからと云って、すぐに財政破綻するものではないでしょうが、国債の大半を国内で消化するという現在の状況は終戦当時と同じで、現時点で債務の膨張に歯止めがかかる見通しはまったく立っていません。

2016年度の政府債務残高はGDP比で約2.3倍と戦後の預金封鎖時に近い状況です。日本国債の9割以上を日本人が保有しており10年国債利回りが0%近辺で推移している現状をみると、国の財政リスクは顕在化していないとは云えますが、今後の預金封鎖の可能性については議論が生じる下地はありそうです。

我が国の財政再建はなかなか進みません。国内には「リーマンショックや東日本大震災以降、年間40兆円とか50兆円の新発国債を増発して借金残高を増やし続けても、実際には何も起こっていない」と云う安心感があるようですが、このまま国債残高を増やし続けても大丈夫かと云う懸念は当然あります。

今後のわが国が市場金利の上昇等により安定的な財政運営の継続に行き詰まった場合、終戦後に講じたのと同様の政策を、部分的にせよ発動せざるを得なくなる可能性は皆無ではないでしょう。

我が国の戦前、戦中、戦後の歴史は占領軍のGHQによって封殺されましたが、自国の歴史を振り返ることが出来るようになった今日、歴史を教訓に国民一人一人が政府の財政運営をしっかりと見定めるべきであるのは確かでしょう。

 

 

 

 

 

 


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空飛ぶ車

2018-08-08 06:20:15 | 日記

自動車が空を飛ぶのはSFでは古くから出てくる話ですが、これまでに実際に空を飛ぶことに成功している車や、販売開始待ちの車があります。世界一の航空機メーカーのエアバスも「空飛ぶ車」に興味を示し始めました。

空飛ぶ車の多くは1人か2人の搭乗者を想定していて、大都市の地上の交通渋滞を避けて空中を短時間で移動するものか、地方で遠距離は空を飛び地上に降りたらそのまま車として走るものとに分かれるようです。

なにも自動車を飛ばさなくても、人が乗れて空を便利に移動できれば良いと云う発想も当然あります。ドローンはこれまで無人航空機を指していましたが、最近は垂直離着陸が可能な回転翼機を指すようになりドローンに人を乗せる発想や、ヘリコプターとジェット機をコンパクトに組み合わせた構想も登場してきました。

1990年にスロバキアで誕生したAeroMobilは文字通りの「空飛ぶ自動車」です。1993年に初のプロトタイプAeroMobil 1.0を完成させたあと、AeroMobil 2.0、2.5を経て3.0を完成させ、着実に進化を遂げてきました。

 

AeroMobilは航空免許で操縦できるようにFAAの認可を取得し、最も実用化が近いとして注目を集めてきた空飛ぶ自動車です。アメリカ・テキサスで開催された「SXSW 2015」で、AeroMobil 3.0のテスト飛行を公開しました。

 

2017年4月にモナコで開催されたオートショー「Top Marques 2017」では最終プロトモデルのAeroMobil 4.0が公開され、市販バージョンの予約受付を開始しました。

AeroMobil 4.0は、より流線型になったフロント回りで空力面でのブラッシュアップが図られ、ライトは自動車と航空機の両方の基準を満たすものです。ホイールは一般道を走行可能な自動車用のもので、タイヤサイズは165/65/15インチ、リムは4.5Jで芝の上での走行にも配慮されています。 

サスペンションはハンドリング性能を重視した「ロードモード」、滑走路での離着陸に対応する「離着陸モード」、飛行時に空気抵抗を最小限に抑える「飛行モード」に対応します。

胴体に沿って安全に収納できるように計算された主翼と後方のプロペラは、地上走行時には車体内部に収納するデザインで特許取得済みです。ターボ化された2.0Lの4気筒ボクサーエンジンは最高出力300馬力です。自動車状態ではフロントデフは電子制御され、ジェネレーターによってフロントアクセルに搭載する出力80kWのモーターに電力が供給されます。

 

安全性に最大限の配慮がされていて、機体には自動車の衝撃安全性を持たせ、機体全体を安全に回収できるパラシュートを搭載しています。コクピットは飛行機よりも自動車の運転席に近いデザインで、将来的には自動運転機能がオプションとして追加されます。

AeroMobil 4.0は全長5,998mm×全幅2,248mm、翼を広げると8,800mmで、車体重量は960kg、自動車モードから飛行機モードにする時間は3分以内です。最高速は地上走行時が時速160km、空中飛行時が時速360kmで、90Lの燃料タンクを備え最大飛行航続距離は750kmです。AeroMobilは市販モデル限定500機の予約受付を開始しました。

 

AeroMobilの市販モデルの価格は120万ユーロから150万ユーロ(1億4千万円から1億7千5百万円)で、2020年にリリースされる見込みです。将来的にはAeroMobilを使った配車サービスの展開も構想されています。

当初の計画だった2017年の発売には間に合わなかったAeroMobilですが、ヨーロッパでの飛行の許認可は取得済みでアメリカでの許認可も速やかに取得し、ヨーロッパ・アメリカで販売した後に中国市場へも投入する予定です。離着陸には軽飛行機並みの滑走距離を要するため、近くに空いた道路や牧草地があることが必要です。大都会の中での限定使用には向いていませんが750kmの航続距離は大きな魅力で、大平原の各所に点在する地点間の急速移動にはもってこいでしょう。

航空機メーカーとしてボーイング社と世界一を争うエアバス社が、空飛ぶ車のコンセプトを発表しました。将来的にはスマホで予約し、近くの駐車場から相乗りで空へ飛び立って大都市内を移動する「空飛ぶ自動運転バス」の構想を持ちます。 

 

CityAirbusのコンセプトの目玉は炭素繊維で重量を減らし、ドローンのように垂直離着陸ができ、どこからでも呼出せ、時間通りに迎えに来てくれることです。駆動力には電力を用いて環境負荷に配慮しています.

「Pop.up」と名付けられたコンセプトカーは3つの部位からなり、炭素繊維製の「乗車用カプセル」の上に「飛行用モジュール」を組み合わせて空を飛び、「乗車用カプセル」の下に「地上走行用モジュール」を組み合わせて地上を走ります。

 

人間が乗車するのは中央の「乗車用カプセル」で、駐車場が充電ステーションになっていて、「飛行用モジュール」で飛行中に「地上走行用モジュール」に蓄電できます。CityAirbusは回転翼でビルの屋上でも垂直離着陸ができますし、道路のない外出先へも飛行用モジュールで迎えに行けます。

CityAirbusの飛行用モジュールは都市空間の短距離飛行で最大4名を運ぶことが出来、駅や空港などの主要な交通ハブに接続することが狙いです。最初のうちはパイロットが操縦しますが、完全な自動操縦への移行を目指しています。

Airbusは固定ルートでの運用を予定しており、最高速度は時速130kmです。航続距離は60kmで電池駆動の乗り物は航続距離の短さが難点で、固定ルートでの運用は問題ないとしても自由なルートを飛ぶには、十分な航続距離の余裕が求められるでしょう。

ドバイでも都市の新しい交通網とするべく、自動操縦で乗客を目的地まで運んでくれる1人乗りの「ドローンタクシー」の試験がスタートしました。2016年のCESで発表された「EHANG184」の後継機種と見られています。この機種は道路を走ることは考えておらず、簡便に人を乗せて空を飛べればよいと云う発想です。

飛行可能距離は40~50km、耐荷重量は最大100kgで、EHANG184の16kmより長い距離の飛行が可能となっています。このドローンタクシーは自動操縦で搭乗者が操縦する必要はなく、各ドローンはコマンドセンターからモニター管理されます。動画を見ると意外にドアが小さくて乗り降りは大変そうです。

 

この他に地上は走れませんが、すでに完成に近い形で空港も滑走路も要らない自家用飛行機があります。グーグルの共同創設者であるLarry Pageと自動運転技術の開発で第一人者のSebastian Thrunがタッグを組んだ、Kitty Hawk社の革新的な電動セスナ「Cora」がニュージーランドで本格テスト中です。

翼幅11mのCoraは両翼の前後に3個ずつ合計12個の離着陸用ファンを搭載し垂直離着陸が可能で、上空でホバリングできる仕様を備えています。離陸すればプロペラを回して時速180kmで飛ぶことができます。

手軽な移動手段とするためにCoraの操縦にはライセンスが不要になるようニュージーランド政府の協力を得て計画を進めていて、ちょいとそこまで誰でも使えるのがCoraが目指す自動操縦飛行機です。

電動のため100kmに満たない航続距離ですが、広い駐車スペースさえあればコンピューターに目的地をセットするだけで自動操縦で運んでくれます。非常時にもコンピューター制御で安全な着陸態勢に導かれ、緊急事態にはパラシュートが開くそうです。2021年の実用化目標が掲げられています。

Liliumは世界で初めて完全電動の垂直離着陸ジェット機のテスト飛行に成功しました。離陸に滑走路を必要としないヘリコプターの利点と、空中飛行ではジェット機並みの高速性能を併せて実現しています。

Lilium Jetは垂直離陸時には下向きにジェット気流を吹き出し、水平飛行には後方にジェット気流を噴き出しますが、これも環境への影響を最小限に抑える乗り物とするために駆動力を完全電動化しています。

 

飛行時のジェット推進はエネルギーの節約に大きな利点があり連続300 kmの飛行と300 km/hの最高速度が可能で、いずれも同程度のバッテリーを使用したローター方式の性能を大きく上回っています。Coraの3倍の距離を飛べる航続距離は魅力です。

 

Lilium Jetは2人乗りのプロトタイプを使って将来の大型化を目指す一連のテストを完了し、5人乗りバージョンのデザインも発表しました。今後の空中タクシーや相乗りサービスを見据えていて、マンハッタンからJFK空港へ行くには車でほぼ1時間ですがLilium Jetなら5分です。航続距離の長い点は実用上大きな強みです。

現在の我が国では、大都市内の移動手段としての空飛ぶ車にそう多くの需要は見込めないでしょう。しかし将来的にはIT化が進んでオンラインで仕事が出来るようになって大勢の社員が集まる大会社が大都市に集中する社会ではなくなり、自然災害対策も含めて大都会の住居は免震構造の高層マンションとなり周辺には離着陸の可能な空き地も出来るでしょう。

庭のある家に住みたい人は自然に囲まれた田舎に移り、都会に出る時は空飛ぶ車に乗って短時間で大都会のど真ん中に至る時代になるかもしれません。空飛ぶ車は個人で所有する移動手段としては高価に過ぎても、当然、シェアリングエコノミーの対象になりますからリーズナブルな交通費での移動手段になるでしょう。そうなってはじめて我が国にも「空飛ぶ車」の時代が到来するように思われます。

 


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