無人トラックと云っても、人が乗っていない間にトラックが勝手に暴走したと云う話ではありません。人が乗らなくても、人が運転しているのと同様に働くトラックの実用化の話です。
特定の軌道内を走る交通機関は他の交通と競合しませんから、無人運転がすでに実用化されています。「ゆりかもめ」は東京の新橋と臨海副都心を結ぶモノレールで、お台場への交通の主要経路ですが車内に運転士や車掌はいません。1995年に新橋-有明間 11.9 km が開業し、2006年には有明-豊洲間 2.7 km が繫がっています。
他の車両が走っている街なかの道路に無人車を導入するのは、まだ、時間がかかると見られますが、ドライバーが運転しなくても安全に走れる車の実用化は、すぐそこまで来ています。わが国でも最近公道上で運転者がハンドルを握らない、自動走行のテストが行われています。
人や車のいない鉱山では、無人の大型ダンプカーが実用化されています。コマツが誇る世界最大級のダンプトラック930E₋4は、タイヤの直径が4メートル近く、高さは7メートルあって二階建ての一軒家並の大きさです。無人運行システム「フロントランナー」によって複雑な鉱山の地形で290トンの土砂、鉱石を積載して、無人で走行することが可能です。無人でありながら人の思い通りに走り、止まり、曲がり、土砂、鉱石を積み、障害物を感知すれば自在に避けて目的地を目指します。
まるで意思を持ったようなこの動きは高精度GPS位置情報システム、ミリ波レーダ、光ファイバージャイロなどの最先端技術の結晶です。このシステムの導入によって、必要なオペレーターの手が省け、最適な運転による燃料費やメンテナンス費の低減、生産性の向上、安全性向上などのメリットが得られています。
2005年に南米チリの世界最大級の銅鉱山に、コマツの無人ダンプが試験的に導入され、2007年末には本格導入が開始されました。また、2008年末にはオーストラリアの鉄鉱山でも稼動を開始しました。2011年には150台の無人ダンプの追加受注を受けていて、英豪資源大手の腰を据えた未来の鉱山構想が始動しました。
さらに2012年に入ってからは、インドネシアの石炭鉱山向けに超大型の無人ダンプを納入することになりました。これでコマツが無人ダンプを運用する鉱山は、世界で3カ所となります。「技術革新がこのまま進めば、近い将来鉱山ダンプはすべて無人になる。」とコマツ野路社長は述べています。
Autonomous Haulage System(AHS)とは、超大型ダンプトラック930E/830Eをベースとした、無人ダンプトラック運行システムです。高精度GPSや障害物検知センサー、各種コントローラー、モジュラーマイニングシステムズ社の無線ネットワークシステム等を搭載したダンプトラックを、中央管制室で運行管理し完全無人稼働を実現させます。
目標となる走行コースと速度情報は、中央管制室から無線でダンプトラックに自動配信され、ダンプトラックは高精度GPSおよび推測航法で自身の位置を把握しながら、目標コースを目標速度で走行します。
有人車両の油圧ショベルや、ホイールローダー等の積込み機にも、AHSが使われます。高精度GPSが鉱石の積込み場では積込み機のバケットの位置を計算し、ダンプトラックを適正な積込み位置へ自動誘導します。また、積み下ろし場までの走行コースも中央管制室から配信され、所定の場所で安全かつ正確に荷降ろしすることを可能にします。
これらの無人ダンプトラックおよびAHSエリア内で稼動する有人車両は、管制システムによってリアルタイムで群管理され、安全で効率的な協調稼働が実現します。万が一ダンプトラックの走行中に、他の車両等が走行コースに近づいた場合も障害物センサーが検知し、緊急停止することで安全性を確保しています。
コマツが先陣を切った無人ダンプ市場には、ライバルも参入を急いでいます。米キャタピラーも無人ダンプの実用化を着々と進め、米国ナバホ石炭鉱山で数台が試験走行を繰り替えしています。オーストラリアのソロモン石炭鉱山では、2015年までに4台の無人ダンプカーが商業稼働する計画です。
一方、通常の公道上を走る無人トラックの開発も進められています。我が国の新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が、2013年2月下旬に公開した大型トラックの自動隊列走行システムでは、4台のトラックが4mの車間距離を維持しながら、きれいな一列縦隊を乱すことなく時速80㎞でテストコースを駆け抜けました。先頭車がハンドルを切ったりブレーキを掛けたりすると、2台目以降もぴったり追随し、2台目以降の運転手はハンドルすら握らなくていいのです。
このシステムが目指しているのは燃費の削減です。2台目以降の運転を全自動にすることで余分なブレーキ、アクセル操作をなくし、車間距離も4mまで詰めることで空気抵抗を軽減することを狙っています。4台隊列、時速80㎞、車間4mの条件で試算すると、4台がそれぞれ単独で走る場合に比べて燃費を15%削減できるとのことです。
NEDOが今回開発した技術では高規格の高速道路の走行を想定しており、実際に開業前の新東名高速道路で走行試験を実施済みです。NEDOは公道での実証実験などを経て、いずれ実用化への道を探りたいとしていますが、全自動運転や車間距離4mでの高速運転を前提とすれば、道路交通法の改正や全自動運転時に事故が発生した場合の自動車保険の扱いなど、制度面での整備も必要になります。
わが国ではなかなか道路事情が許さないでしょうが、アメリカでは交通量の少ない道路での長距離輸送には自動走行トラックは魅力的です。テクノロジーベンチャーのペロトン・テックは、ロボット技術により自動走行が可能な大型トラック、コンボイの公道での試験走行に成功し、近く本格的運用を開始すると発表しました。
このコンボイは人間の運転手によって走行しているトラックの後方を、一定の車間距離を保ちながら走行することが可能な半自動ロボットトラックです。このロボット技術により複数台のトラックを同時に、一定間隔を保ちながら走行させることが可能だと云われます。
米トラックメーカーのオシュコシュ社は、軍隊用に開発された無人運転トラックのテラマックスを披露しました。無人トラックが担うのは物資の輸送です。現在イラクでは40台のコンボイトラックの運転に80人の兵士が当たっていますが、テラマックスが導入されれば兵士の数は10人で済み、輸送中の襲撃による兵士の死亡の危険が減ると期待されています。
2001年に米政府は、軍用トラックの3台に1台を2015年までに無人運転とすることを義務づける法案を提出しました。これに伴い、国防省はDARPAという研究機関を立ち上げ、2003年からラフな路面でも自動運転の可能な車の開発をコンテスト形式で行っています。テラマックスはDARPA認定テストをパスしたプロトタイプです。
いずれにしても車両の無人化は、コンピュータの進化とその応用の拡大が齎した成果です。人が運転していない車両にはなんとなく心配が付きまといますが、人間の操作とコンピューによる操作のどちらが、より信頼性が高いかの問題です。
宇宙へ飛び出して戻ってくるロケットがコンピュータで制御されているのですから、人の注意力の確かさを頼りにして、コンピュータの誤作動を心配するのは時代錯誤かもしれません。
コンピュータ制御にはプログラムされていない事態に、どう対処できるかの問題は残りますが、不測の事態への対処を除いては人間の注意力より遥かに信頼性は高いのです。注意力が衰え勘違いの多くなった高齢者が、コンピュータ制御の安全な自動車(自ぶんで動く車)に乗れる時代は、すぐそこかも知れません。