一般社会でのPOSはpoint of saleの頭文字で、スーパーマーケットやコンビニエンスストアなどで、商品名・価格・数量・日時などの販売実績を収集し、商品を販売した時点での情報を管理する、コンピュータを用いた経営手法の意味で用いられています。
商品単品の仕入れ先毎のデータ集計を容易に行うことができるほか、仕入時の過不足を低減して、商品仕入れの精度を向上することができることは、ご存じのとおりです。大手チェーンなどではさらに、通信回線を使用して本社の大型コンピュータに接続し、全国の在庫や販売の管理を行っています。
医療の領域でもPOSと呼ばれるシステムが使われていますが、患者さんは同じ病気でも、示す病態、治療経過はまったく多様です。規格化された商品の集合ではありませんから、スーパーマーケットで使われているPOSのように、単品として扱うわけにはいきません。それでも内容が多様な診療録の記載を一定の方式に定めて、論理的に整理された、読んで理解しやすい診療録にするよう、工夫されたのがカルテにおけるPOSなのです。
POS (Problem-Oriented System) システムは、日本診療録管理学会、日本医師会などが推奨しているカルテの記載方式です。これまで手書きのカルテの時代にも推奨されてきたのですが、わが国では広く普及するには至らず、普及のためのチャンスとして、電子カルテにはPOSの採用が求められています。
POSは、問題指向型の解決方針をとる診療録です。基礎医学者から見たかつての臨床医のカルテは、記載が充分でなく、論理性に欠け、共通な一定の方式で書かれてはいないものでした。この問題を改善すべく、臨床医のための診療録記載様式として提唱されたのがPOSです。現在では医師の診療録の記載方式にとどまらず、すべての医療者が協調して診療にあたる、チーム医療のための診療情報の根幹をなす記載方式となっています。
基礎データとして現病歴、既往歴、現症などを記載し、基礎データから患者さん固有の問題点をプロブレムとして抽出、プロブレムごとに診断方針、治療方針を立て、その診療経過を記載していくものです。
プロブレムは、主訴でも、症状でも、何についての記載かが明確であればよく、単純な病状であれば、患者さんのプロブレムを病名一つに絞って、単一のプロブレムで記載します。プロブレムの内容はS(Subjective)、O(Objective)、A(Assessment)、P(Plan)に分けて記載していきます。
Sは患者さんの主観的な病状の記載で、Oは検査データを含む医療者の捉えた客観的な病状を記録します。AはSとOをもとに、医師をはじめ医療スタッフが下す診療上の判断です。Pは患者さんに対する診療計画です。
従来、診断確定までの経緯や治療方針の立案は、医師の内的な思考に属し、必ずしもカルテに記載しないでよいと云う考え方がありました。POSでは、主治医の思考過程、判断の根拠を重視し、A、Pで明確に示すことを求めています。主治医のアセスメント、診療計画が明示されていると、診療に協力する医療スタッフに、主治医の意図が明確に伝わるからです。
POSは問題点に絞って記載していく方式ですから、病状の変化や治療に変更があった場合に、簡潔明瞭に、記載していきます。変化のないときの患者さんの所見や診療行為を、毎日、すべて繰り返して記載すると、かえって変化を捉え難くなります。
カルテが電子化されて、診療記録が読める字に代わり、POSで記載方式が統一されたことで、医療スタッフ全員による患者さんの診療情報の共有は、格段に向上しました。これでこそすべての医療者が、それぞれの専門を活かして、チーム医療に参加できるようになるのです。
このことは、また、患者さんにとっても、カルテが読んで理解できるにようになったことを意味します。今では医療者任せではなく、患者さん自身もインフォームドコンセントを与えることで、ご自分の医療に参加しなくてはならないのですから、理解ができるカルテの存在は貴重です。
電子カルテは、当初、メーカーによって、それぞれのコンピュータ言語で作成されてきましたが、診療録記述の共通言語や、画像の標準規格を採用することが決まり、各病院間での情報交換も工夫されるようになりました。
デジタル化された電子カルテでは紙の病歴と違って、これまで病院を悩ませてきた保管場所の問題はありません。古い病歴を探し出すのに、四苦八苦する必要もありません。これからは、生まれてから一生涯の個人の医療記録をすべて保存し、必要に応じて参照することも容易になります。
将来的には診療所における電子カルテ化も進み、日本全国どこででも個人の医療記録が参照できるようになるでしょう。また、医療記録だけでなく、介護の記録など健康福祉にかかわる個人の情報も、すべて統一されて保存され、相互に利用ができるようになるでしょう。
21世紀は電子カルテの時代です。