日韓外相の合意以来、日本の保守派に亀裂が走っている。「慰安婦」に日本軍の関与を認めたことに対して、賛否が分かれたのである。明らかに日本にとってマイナスであった。安倍首相への批判が強まることは当然である。それを承知での決断ではなかったかと思う▼忘れてはならないのは、安倍首相はアメリカの圧力に屈せざるを得なかったということだ。誰よりも屈辱を感じているのは安倍首相自身なのである。いかに戦後レジームからの脱却を主張しようとも、そこには限界があるのだ▼江藤淳は『自由と禁忌』において、戦後の日本のマスコミの異常さを指摘した。昭和20年9月27日付のGHQ指令「新聞と言論の自由に関する新措置の件」以来、日本政府は新聞に対して懲罰的な処置を講じられなくなったが、それによって言論の自由を獲得したのではなかった。「新聞は、自国に対する忠誠義務から完全に解放された代償として、直ちに検閲を実施していた占領軍権力への100パーセントの服従を強制されたからである。その結果、日本の言論表現機関、なかんずく新聞は、世界に類例のない一種も無国籍の媒体に変質させられたのである」▼その異常な状態は今も変わらない。無国籍な言論空間は同時に排他的であり、それを検証しようものならば、ジャーナリズムを敵に回すことになる。そしてその背後にいるアメリカも。安倍首相はよくやっていると思うが、日本を取り戻すためには、後一山も二山も越さなければならないのである。
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