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トランプ新大統領の外交国防戦略【07】 国防国務両長官の現実路線とトランプ氏発言の不一致

2017-01-20 19:41:00 | 国際・政治
■トランプ新大統領間もなく就任
 日本時間であと五時間後に迫るトランプ氏の新大統領就任、稀代のポピュリストとして名を残すか、偉大な変革者となるのか、オバマ大統領は最後の記者会見においてこの点を記者に問われ、アメリカ国民の選択を信じる、と発言しました。

 トランプ氏の掲げるアメリカ第一主義は、わが国はじめアメリカの価値観を共有する諸国からは決して危惧するものではありませんが、アメリカ第一主義を掲げ結果論としてアメリカ弱体化を招くことは困ります。トランプ新大統領の選挙戦時代発言から内向きの国防外交戦略が採られる懸念がありましたが、新国務長官と新国防長官の南シナ海と対ロ政策は現実路線に依拠していました、しかし、大統領方針とは不一致となります。

 ティラーソン次期国務長官、中国の南シナ海政策を痛烈に批判し強硬姿勢を示唆しました。海洋自由原則に基づく交易の自由こそがアメリカを含む世界の経済的発展に不可欠、建国以来の国是で、海洋自由原則の堅持、トランプ新政権の対中政策や対外軍事政策が曖昧だった事から、中国が進める南シナ海人口島建設や西太平洋排他水域化など南シナ海政策への対応が消極化するのではないかとの危惧がありました。

 中国の人工島建設は認めない、レックスティラーソン新国務長官の上院外交委員会指名承認公聴会演説においての発言に対し、中国共産党機関紙人民日報系国際情報紙環球時報英語版は強く反発、アメリカが人工島を封鎖するのであれば大規模な戦争を覚悟するべき、と明示しました。海上封鎖は当然戦争行為ですので、ある意味当然の発言でもありますが。

 トランプ新政権の選挙当時の発言、在日米軍と在韓米軍引き上げの示唆から、西太平洋地域すべてのシーレーンを掌握し勢力下に置けるとの当初の目論見があっさり瓦解しました。外国国防政策では不確定要素は懸念要素に他ならないのですが、オバマ政権時代から新しい対億関係としてハワイ以西の西太平洋を中国の勢力圏に置くよう主張していました中国は選挙時からの目論見が外れた形で、中国政府の混乱が窺えます。

 ジェームズマティス新国防長官も、上院国防委員会指名承認公聴会において西太平洋地域への関与度合いを強化する方策を示しました。強固な同盟国を持つ国は栄えそうでない国は衰える、こうした同盟国重視の発言とともに、中国の南シナ海における人工島に対して、国務省などとともに統合的な政策を練らなければならない、と強固な姿勢を示したかたち。

 マティス新国防長官は重ねて、第一の脅威をロシアとし、ロシアと協力できる分野が減る一方で向き合わなければならない分野が増えているという現実を認識しなければならない、と発言、NATOへの影響度の増大を示すとともに、国防力を、抑止力は決定的に重大な問題でありそのために強力な軍事力が必要だ、との近代化増進を示唆する発言も示しました。国際公序という基本的な価値観に温度差のあるロシアとの政策へ一線を引いた訳です。

 新政権の方針、アジア人口は30億を超え、この地域の成長へアメリカがどのようにコミットするのかが関心事であり、仮にアメリカのポテンシャルが後退すれば、後退した部分を新しい国家アクターが進出する事はオバマ政権時代の中東政策が如実に示していました、新政権の外務防衛閣僚からの一連の発言は、大統領選挙後の重要な方針の明示といえます。

 国防力の増強に関してですが、もう一つの懸案となっていましたF-35について、トランプ氏からの製造費用見直しの要求を受け、ロッキードマーティン社はF-35製造費用の大幅な値下げを決断です、電装品を簡素化し、複合光学監視装置など幾つかの装備をオプションとする事で、費用縮減は可能とも考えられますが、多国間共同開発という実情があります。しかし、これが更なる開発計画の遅延や各国配備影響へと繋がらないとは言い切れず、不確定要素の一つといえましょう。

 アメリカだけの値下げに留まらず、日本を含め世界中へ供給されるF-35についても見直しが為される事となるでしょう、懸念は、性能へどの程度影響が生じるかについてですが、ステルスのみを優位性として考えた場合、他の各社が開発する航空機よりも制空戦闘での優位性は確実で、費用逓減、アメリカ四軍は既にかなりの数のF-35を契約しています一方、続く大量調達を加速化させる事に繋がるかもしれません。

北大路機関:はるな くらま
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