大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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A,日々の出来事

☆( 1年間366日分の日々の出来事  )

B,日々の恐怖

☆( 日々の恐怖 )

C,奇妙小説

☆(  しづめばこ P574 )                          

日々の恐怖 4月30日 407

2014-04-30 18:58:58 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 4月30日 407



 東日本の有名観光地に実際にあるかなり有名なホテルなんだけど、そこは部屋のナンバープレートを金物で作って飾ってある。
 数年前、502号室に泊まった時、不可解なことがあった。
その左横は501で右横はロビーみたいになってて机と椅子が置いてあって、前の部屋は512とプレートがあった。
まぁ、気にも留めてなかったんだけど何となく見ていた。
それから飯をレストランで食べて、貸しきり風呂で良い気持ちになっていた。
 さて寝ようかと、エレベーターで5階を押して部屋に戻ろうとした。
そこで廊下の突き当たりに(501号室とその前の部屋の間)に、横向きに置いてある絵を見て少しゾクっとした。
 絵が、真っ赤な風景の中に湖の前の家を描いてるようなんだけど、なんか家が火事で燃えてるような感じにとれる。
それで、

“ これホテルには似つかわしくないなぁ・・・。”

と、漠然と思っていた。

 部屋に戻ってからも何故か火事のイメージが強くて結構気になっちゃって、案内書とかで非常階段調べたり、タバコを吸ってたから灰皿に水入れたりしていた。
 それからしばらくして、部屋が乾燥してたからフロントに電話して加湿器を借りた。
ノックがしたので、持ってきてくれたかとドアを開けて加湿器を借り、部屋に設置して、窓の前のカーテンを全部閉めて寝る準備を万端にした。
 寝てて喉が渇いて起きるのも嫌だから、冷蔵庫の中からお茶出して枕元に置いとこうと冷蔵庫を開けたけど、生憎ウーロン茶しかない。
あまりウーロン茶好きじゃないから、部屋の横のロビーの自動販売機でお茶を買うかと、お金もって部屋を出た。
その時は10時30分ぐらい。
 自動販売機で麦茶を買ってお釣りを取ろうとしゃがんで手を伸ばしたときに、後ろの廊下を誰かが歩いている気配がした。
別に気にする事では無いし、わざわざ振り返って挨拶するのも気が引けるから、ちょっと遅めに行動してお釣りを取って振り返ったら、ちょうど誰かがロビーを抜けようとしている後姿が見えた。
 501号室とかの人だと、鍵開けてる最中に顔を合わせるのとかを避けたいから、ドアの音がしてから自分の部屋に戻ろうと思って再度待っていた。
だけど、しばらく待ってもドアが開く音はしない。
それで、顔を上げたら廊下には誰もいない。

“ おお・・・・?”

と思ってキョロキョロしても誰もいない。
 流石に怖くて、急いで鍵を開けようとしてたら鍵を落としちゃって、しゃがんで取ろうとしてたら後方から、

「 ガチャガチャ、ドン!」

ってドアの音がした。

“ さっきまでいなかったから、誰か出てきたのか?”

と思って振り向いたけど誰もいない。
 怖くて、急いで鍵を拾って開けて最後にもう一度廊下を見た。
そしたら、絵に違和感がある。
さっきまでの絵のイメージは真っ赤な風景と家だったのが、それに黒い人影が足されてる。というか、真っ黒な人が家の玄関から這い出てるように見えた。
 その瞬間に、

“ おいおい、火事の絵に見えるんじゃなくて、これって火事になってる家を描いた絵そのものじゃないのか。”

と思った。
 そこでフッと、501号室の前のドアに目が行ったんだけれど、そこだけプレートが剥がれている。
プレートのあった場所だけ白くなっていて、番号が407って薄く残っている。
 ここは5階だからまず4から始まらない。
しかも、ドアを4階から外して持ってこない限りプレート番号の跡は残らない。
 そこで又絵に目が捉われたんだけれど、さっきの黒い影が家の前にある湖に向かって這いずり出してるようにしか見えなくなった。
直ぐに部屋に戻って、

“ 部屋に御札なんか無いだろうな・・・?”

と御札を探したがどこにも無い。
しかし、ふっと時計に目をやったら時間がいやに進んでいる。
横の自動販売機にお茶を買いに行っただけなのに、40分強経ってることに気が付いた。
 恐怖とパニックで部屋中の電気とテレビつけて、面白くもないバラエティー番組を音量上げて流していたら、いつの間にか寝てしまっていた。


 次の日、朝食を食べてチェックアウト。
その際に、

「 5階にある絵、あれは変わってますね。
火事を連想するから、あまり芳しくないのでは?」

と言ってみた。
すると、

「 あの絵は、当ホテルが創立時よりありますので。」

“ 創立時からって、お宅一度火事で全館焼失しましたよね。
建て直して、今のホテルがあるんじゃないの・・・。”

とは、聞けなかった。
 ネットで色々調べてみたけど、別に心霊現象があるとかって情報は無かったけれど、

“ あそこの501号とか512号とかの宿泊者は、横のドアの番号を見たことあるはずなんだけど、気にも留めていないのかな・・・。”

と思った。












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日々の恐怖 4月29日 記憶

2014-04-29 19:52:00 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 4月29日 記憶




 中学二年か三年くらいの頃の夏だったと思います。
その頃は、暑さで寝苦しかったせいなのか、友人関係のことで悩んでいたせいなのか、不眠症のようになっていたのを覚えています。
 必ず明け方に目が覚めるんです。
それで、

“ また目が覚めちゃったな。”

なんて思いながら、暗い部屋の中でじっと天井を見つめているんです。
 ちょっと恥ずかしい話ですが、その時はかなり小さいアパートに住んでいて、親と同じ和室の部屋に布団を敷いて寝ていました。
夏は襖を取り払って隣の部屋とつなげて風通しを良くして使っていました。
 それで、眠れずにじっとしていると、アパートの階段を上る音が聞こえてきて“来たな”
と思っていると、うちの玄関のところでガタンッという大きな音がして、足音が去っていきます。
新聞が郵便受けに入れられた音です。
 四時だか五時だか確認した事がなかったのでわかりませんが、それぐらいの時間に目が覚めていたのだと思います。
初めて配達の人の足音と新聞が郵便受けに入った音を聞いたときは、泥棒が来たのかと思ってびくびくしたのですが、すぐに新聞配達だと気づいたので、いつも、

“ もうそんな時間なのかあ・・・。”

などと思いながら聞いていました。
 その日も、夜中だか早朝だか分からない時間に目が覚めてぼんやりしていました。
じーっと静かにしていると、足音が聞こえてきます。

“ ああ、もうすぐ朝だ。”

とかいうふうに思って聞いていました。
 足音はうちの前まで来て、ちょっと止まります。
それで、

“ 新聞を入れるな・・。”

なんて郵便受けの音がするのを待ってたんですが、その時はいつもと少し違いました。

「 バンッ!」

というような、床にとても重たいものを思い切り投げつけたような音がしたんです。
私はびくっとして体を硬くしました。
聞こえ方からすると、玄関の横の台所の床に誰かが飛び降りたような感じだったからです。
 台所の流しのところには通路に面して窓があって、そこから今度こそ泥棒が入ったんだと思ったんです。
隣の親を起こそうかとか、気づかれたら殺されるんじゃないかとか、恐怖と緊張で頭が混乱していましたが、そのときの私はとにかく寝たふりで乗り切ろうとしていました。
今考えると馬鹿ですね。
 そうして、体を動かさずに一応薄目を開けて様子を伺っていると、台所のほうを歩き回るシトシトという足音が聞こえてきました。

“ きっと金目の物を探しているんだ、あーやっぱり泥棒なんだ、もう人生お終いかも知れない。”

と私は変な覚悟をしていました。
 でも、泥棒にしては少し様子がおかしいんです。
シトシトと台所をうろつく音は聞こえても、戸棚を開けたり閉めたりする音が全く聞こえてこないんです。
それに物凄く足音が小さいんです。
静かな部屋の中で私が息を潜めてやっと聞こえるくらいでした。
 いくら相手は泥棒で足音を立てないように気をつけているといっても、男の人は足そのものが大きくて体重も重いですから、それなりの重みのある足音になると思うんです。
なのに聞こえてくるのは、体重がかなり軽そうな、足の小さそうな足音でした。
ですが、これはあとになって気づいた事なので、その時は怖くて怖くてたまりませんでした。
 私は隣の部屋側に足を向けて寝ていて、隣の部屋から台所のほうへと通じるドアも開け放してあったので、薄目を開けてそちらを見ていました。
やはり、足音はドアのほうに近づいてきます。
そして今度は隣の部屋で、シトシトと動き回る足音が聞こえてきました。
 私は薄目ながらも必死で目を凝らして探しました。
けれど、目の前で足音はしているのに、全く姿が見えません。
部屋は暗いですけど、カーテンの隙間から月の明かりが入ってきてましたから、真っ暗闇ではありませんでした。
なのに、足音しか聞こえませんでした。
 私は、

“ 幽霊だ!”

と思って息も出来ませんでした。
息をすると幽霊に見つかって襲い掛かってこられると思ったからです。
 その時、ぴたっと足音が止まりました。
そして、若い女の人の声でこう言うのが聞こえました。

「 真っ暗で何にも見えない。」

私は、

“ えっ!”

と思いました。
ほとんど感情のこもっていない、ぼそっとした言い方でした。
それっきり足音はしませんでした。



 何年か経って、私にも彼氏が出来ると、夜遅くまでデートを楽しんだりするようになりました。
その日はどこか夜景でも見て帰ってきたんだと思います。
家に着くと、もう親は寝ているようでした。
 鍵を開けて家に入ると、ヒールの高めの靴を履いて疲れていた私はよたよたと歩いて、暗い中を半分手探りで移動しました。
 そして台所から隣の部屋に入ると、電気をつけようとしたのですが、暗くてスイッチの場所が分かりません。
それで、ぽろっとこぼれるように言ってしまったんです。

「 真っ暗で何にも見えない。」

その時に、

“ あっ!?”

と思いました。
 何年も前の事だったのに、あの夏の夜のことが一編に思い出されて、何もかもつじつまが合いました。

“ あの時に聞いた女の声は自分の声だったんだ。”

そう思うと、妙に納得して、感動して、不思議な気持ちになったのを覚えています。
 他の人からしたら、夢じゃないのって感じかもしれませんが、その町に住んでた頃は不思議な事が家以外でも起きてたので、これは絶対夢じゃないって思っています。













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しづめばこ 4月29日 P289

2014-04-29 19:51:20 | C,しづめばこ
しづめばこ 4月29日 P289  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


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日々の恐怖 4月28日 感謝

2014-04-28 19:25:43 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 4月28日 感謝



 数年前に、東京の某グランドホテルで客室係のバイトをしたときの話です。
ある日の早朝4時くらいに、姿見の鏡を持ってきてくださいとの電話が入りました。
こんな時間になんでだろうと思いつつ、倉庫から鏡を出し、その部屋に運びました。
 部屋では、その日ホテルで結婚式を挙げるお嫁さんとお母さんがお待ちでした。
とても感じのいいお二人でした。
ちょっと衣装のチェックをしたかったからと聞き、合点がいきました。
お嫁さんはとても幸せそうで、それがひしひしと伝わってきました。
 お嫁さんとお母さんのお二人だけのようでした。
姿見を部屋の壁際まで運び、少々のチップをいただいて部屋を出ました。
 部屋を出てから、3部屋ほど進んだところで、突然、男の声で、

「 ありがとうございます。」

と感謝の声を聞きました。
私は、

“ えっ?”

と思い周りを見回したのですが、人の姿はまったくありません。
 天井も見上げましたが、通気口などありません。
テレビの音かなと耳を済ませましたが、朝の4時くらいですし、廊下は暖房の音しか聞こえません。
それで、とにかく自分が立っている場所の部屋番号が203号室であることを確認しました。
少し気味は悪かったんですが、別に怖いという感情はありませんでした。
 事務室に戻るエレベーターに乗っているときに、ふと思いつきました。

“ さっきのお嫁さんのお父さんかな・・・。”

お嫁さんとお母さんの二人だっただけで、勝手にお父さんが亡くなっている思い込みをしたのは失礼ですが、別に謎解きをしようとしてるわけではないのに、なんとなくそう思いました。
そのとき、少しいい気分になったのを覚えてます。


 事務室に帰って、上司に一連の話をしました。
まじめに話を聞いていた上司は、ひとこと断言しました。

「 それ、お父さんの声じゃないね。」
「 えっ、どうしてですか?」
「 声聞いた203号室、昔、自殺があったんだよ、それ以上いえないけど・・。」

お嫁さんのお父さんではないとするんなら、いったい誰なのか、なぜに感謝の言葉だったのか、いまだにわかりません。













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日々の恐怖 4月27日 お~い

2014-04-27 18:38:50 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 4月27日 お~い



 俺の親父は土建屋を経営している。
とは言っても、決して大きい会社では無く従業員は5名ほどだ。
社長という肩書きではあるものの、現場最前線で働いている。
 住んでる所がけっこうな田舎なので、仕事する現場が山中だったりすることも多い。
俺が高校生の時に、夏休みを利用して何回かバイトをさせてもらったけれど、その時も山の中を流れる川の用水工事みたいな仕事だった。

 今までも何回か洒落にならんような出来事はあった。
山の中で仕事していたら、遠~くの方の木々の間に人がチラチラ見えた。
多分、林業の人だろうと思って放置した。
ところが、何日経ってもいるもんだから、おかしいなと思って見に行ったら首吊り死体だったとか。

 それで、数日前のことだ。
いつもより帰りが遅かったんで何かあったのか聞いたら、従業員がテェーンソーで足を切ってしまったから、病院に行っていたとのことだった。
 切り落としたって訳じゃないが、20針くらい縫うことになったって言っていた。
俺が、

「 それは大変やったなぁ。」

と言ったら、親父が、

「 今の現場は、やばい場所かもしれんなぁ・・・。」

とか言い出した。
 詳しく聞いてみた所、今やってる現場もまた山中にあるんだが、変なことが立て続けに起こってるらしい。
 まず、木を切る事を専門にしてる業者を呼んで木を切ってもらっていたら、あるエリアに入るとなぜかテェーンソーが止まってしまう。
 他の場所はなんの問題も無く切れるそうなんだが、なぜかそのエリアに入るとテェーンソー停止。
しかもエンジンが掛からない。
 それで、切った木を重機で集めてたら、ガバッと木を掴んだ時に、圧縮された拍子で枝が跳ねたようだ。
その枝が重機の運転手めがけて飛んできて、重機運転席の窓ガラスが1枚割れた。
まったく同じ事で、木を積むダンプの運転席の窓ガラスも破損した。
 それで、

「 これは何かあるんじゃないのか?」

って従業員と喋ってたら、山の中から、

「 お~い。」

って呼ばれた。
親父が言うには、ちょっと高音でかすれた声だったと。
 その時、現場には自分とこの会社の人間しかいなかったらしく、しかも全員ちゃんと聞こえたそうだ。
仕事を終わらせないといけないので、その声はそのまま放置して、また仕事を再開した。
 ところが、その声が何回も何回も聞こえてくる。

「 お~い。」
「 お~い。」

男とも女とも言えない声だったらしいが、

“ これは、さすがにまずいかも・・・・。”

と思っていた矢先に、テェーンソー足を切る事件が起きたそうだ。
 もちろん、その日の仕事は終わりにして病院に行った。
それで帰りが遅くなったと言う話だ。
 次の日に神主呼んで御祓いをやってもらったらしいが、一応、その後は何も起こっていないらしい。
何かが埋まっていたのか、それとも切ってはいけない木だったのか、真相は分からないままだった。













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しづめばこ 4月27日 P288

2014-04-27 18:38:08 | C,しづめばこ
しづめばこ 4月27日 P288  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


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日々の恐怖 4月26日 院内学級

2014-04-26 18:32:00 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 4月26日 院内学級


 20年以上前の話をします。
某市の駅前で交通事故に遭い骨折した。
救急車で私立病院に運ばれ入院して手術した。
 幸運なことに内臓疾患が過程で見つかり治療することになった。
骨折が直ったあとも長期入院になったので、現住所から某市へ転入し院内学級に通った。
昼間は点滴しながら院内学級で勉強だ。

 季節は夏。
小児科にはたくさんの小中学生が入院している。
怪談程度じゃすぐ飽きる。
当然肝試しなんてものを開催することになる。
 匍匐前進でナースステーションをパスする俺ら。
見回りの時間と時間の間が活動時間。
 目指すは精神科の先にある長い廊下の先、霊安室。
中に仏壇があるのは昼間確認済み。
さすがに一人では怖すぎて行けないので、二人一組で名前を書いたメモ用紙を仏壇に供えるのをミッションにした。
記憶があいまいだが、結構な組が出来上がったと思う。
 全ペアが供え終わり、全員で霊安室に確認に向かった。
そして、恐る恐る中に入る。
ここで霊が激怒したのだろう。
誰も乗っていないストレッチャーが、突然、霊安室の奥から手前の壁に猛スピードで転がり激突。
スゴイ音がした。

速攻で逃亡する中学生。
悲鳴を上げる高学年組。
腰が抜ける中学年組。
盛大にちびる小学年組。
俺も小便を撒き散らしながら退散。

 警備員が登場し、心底ほっとした。
病院中が騒ぎになった。
無表情で俺らを見つめる精神科病棟の患者も怖かった。

 当然ヤキがはいり死ぬほど怒られたが、この体験に比べればなんてことはなかった。
朝までナースステーションで過ごした後、翌日の婦長の話が忘れられない。
怒るでもなく、皆を諭す。

「 本当に危ないところなの。
公式には何もいえないけど、皆怖い思いをしているの。
二度としないで頂戴。」

それ以来、退院までの夜は皆おとなしく過ごすようになった。
枕もとの電気スタンドは消さずに眠るのがルールになった。












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日々の恐怖 4月25日 川遊び

2014-04-25 18:55:03 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 4月25日 川遊び



 うちの母親が小学6年生の時の話です。
ある土曜日、学校の同級生に帰りがけ遊びに誘われたらしい。

「 川に遊びに行かない?」

でも、そこの川は木が鬱蒼と茂っていてあまり雰囲気は良くなかったし、その子は隣の集落の子であんまり親しくなくて、何をして遊んだらいいかわからないから適当に理由をつけて断った。
 昼間は家にいて本を読んで、母の家はお店を昔やってたから、夕方は手伝いをしていて忙しかった。
 夜8時くらいに、ジリリリとベルを鳴らして人がやってきた。
やってきた大人が言うには、隣の集落の家で子供が失踪したらしい。
それで、こちらの集落まで探しに来たんだと。
 ひょっとして、と思ったんだけど、いなくなったのは母と同じ学校の2歳年下の子。
母は殆どその子と面識がなかったから勿論知らなかった。
母の父親は、協力するということで探しに出て行った。
 結局、子供は見つからなかった。
母は父親が帰ってくる前に寝てしまった。


 あくる朝、川に係留されていた転覆したボートの下から、子供の水死体が見つかった。
母はその話を聞いて昨日同級生に、川に行こうと誘われたことを思い出した。
その川は、一緒に行こうと誘われた川だった。
でも、母は怖くてそのことを誰にも言い出せなかった。
結局その子は、一人でボートで遊んでいて死んだということになった。


 翌々日は、学校で朝礼があった。
4年生のクラスの子供が事故で死んだってことを先生が言って、もし何か知ってることが少しでもあったら言ってください、とも言われた。
 母は、その同級生と顔を合わせられなかった。
そしたら休み時間、その子が近づいてきて、母が何か言おうとしたら、

「 結局私も行かなかったの。
あんなことが起こるなんて、行かなくて良かったよね。」

と言われたんだそうだ。
 あと何か言っていたらしいけど覚えていない。
でもその子のなんともいえない、少し弾んだような声、無邪気な顔は一生忘れられないと母は言っていた。
母はそれから体調を崩して3日休んだ。
 その後はその子をなんとなく避けてすごしたらしい。
結局、中学1年生の時、その子は家庭の事情で引っ越してしまった。













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しづめばこ 4月25日 P287

2014-04-25 18:54:39 | C,しづめばこ
しづめばこ 4月25日 P287  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


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日々の恐怖 4月24日 鐘

2014-04-24 19:59:02 | B,日々の恐怖




   日々の恐怖 4月24日 鐘




 あたり一面山だらけ、どこを見渡しても山ばかりという地方の出身です。
小さい頃からお世話になっていたお寺に鐘がありました。
その鐘は不思議なことに布と縄でぐるぐる巻きにされていました。
鐘を撞く丸太もついていません。
 なのである程度の年頃になってアニメの一休さんなどを見るようになり、寺の隅の屋根つきの一角にあるべきものは鐘なんだな、ということがわかるようになりますと、そのぐるぐる巻きの中身は鐘なんだろう、と感じるようになるというくらいでした。
 小学生くらいの時に両親に、

「 なんでぐるぐる巻きなのー?」

と聞いた記憶はあるのですが、両親も特に詳しい由来など言わず、両親が子供のころからぐるぐる巻きであり、ぐるぐる巻きの鐘と呼んでいたとだけ言われました。
 そのときは、

「 ふうん。」

と言っただけで、実際のところ、

“ まあ、どうでもいいや・・・。”

と思って放置しました。


 すっかり時が経ち、私は大学進学のため実家を離れます。
夏休みに帰省をすると、田舎と言えど自分の家の周りにも、多少は開発の手が伸びていました。
 昔自分の部屋であった場所、今は物置となりつつあるのですが、窓際から景色を見てみると昔とは眺めが変わっており、自分の部屋から鐘のお寺を見ることができました。
お寺は山の上のほうにあるのですが、自分の部屋からは裏の里山が邪魔をしていて昔は見えなかったことを思い出しました。
そうか、虫を取ったりアケビを食べたりしたあの山も無くなってしまったか、と寂しがりつつ、窓から寺を見ていました。
 寺は自分の家からだと少々遠く小さく見えます。
夕飯時に、

「 裏山がなくなって寺が見えるようになったんだね。」

という話をしました。
すると両親からは、自分が大学に入った直後くらいに無人化してしまい、法事と祭りの時だけ、別の大きなお寺から僧侶を呼んでいると教えられました。


 ある夜のことです。
一人暮らしに慣れてしまったせいか、自分の部屋だというのに枕が合わないような気がして、なかなか寝付けない日がありました。
そのとき、

“ ぐうん・・。”

と低い低い音が聞こえました。

「 鐘の音?」

と思い窓の外に目をやります。
 満月に近い月の出ている夜でしたが、遠く離れた寺の鐘の様子など肉眼では見えません。
10秒ほど見つめていると、ほんの一瞬だけ人工的な光がチラッと目に入りました。
気になって小学校のときから、使っていた勉強机の引き出しを開けます。
母親が捨てていなければと、そこにあるはずの双眼鏡を探します。
 双眼鏡は昔のまま、そこにありました。
ほこりがついたレンズを覗き込むと、倍率は低いのですが暗がりの中にぼんやりと、動く人のようなものが見えました。
 3名ほどの人間が鐘撞き小屋のところで何かしているようです。
懐中電灯を持っているようですが、覆いをしているのか、時折周囲を照らすだけで様子がはっきりとは見えません。
 見たところ、3人がかりで地面に鐘を降ろしたようです。
先ほどの音は地面に落とした時の音でしょうか。
どうやら鐘撞き小屋から鐘を出せないでいるようです。
 この鐘撞き小屋には、屋根と屋根を支える四方の柱があり壁はありません。
しかし壁の代わりにその四方の柱同士が水平の柱でつながれています。
水平の柱は四方のすべての方向につけられていますので、それが邪魔をして鐘撞き小屋から鐘を出せないようでした。
 当時は金属の盗難が流行する前でしたので何をしているかわからず、私はただその光景を見ていました。
パジャマで双眼鏡のレンズを拭き、暗闇にも目が慣れてきました。
 連中は鐘に巻きつけられた縄に木の棒を通し、2人で棒の前後を持って持ち上げるようです。
鐘撞き小屋から出たか、というところで鐘が落ちました。
2人が耳を押さえます。
私がその光景を見た数秒後、

“ ぐうん・・。”

という音が聞こえてきました。
 鳥が飛び立つ音、犬が吠える声も聞こえます。
窓から見える家のいくつかに灯りがつきました。
そして双眼鏡からは、連中の姿はスッと消えました。


 次の日の朝、といっても私は昼近くまで寝ていたのですが、母親から、

「 昨日の音、聞いた?」

と聞かれました。
 洗いざらいを説明するのが面倒だったので適当に答え、また部屋に戻ると双眼鏡を覗きます。
鐘撞き小屋のところに何人かの人が集まっている様子だったので、何かおもしろいことはないかと、スーパーカブに乗って現場に向かいました。
 境内には白いわナンバーのバンが乗り付けられていました。
そして鐘撞き小屋の一段高くなったところの下に鐘が落ちていました。
警察の検証は終わったようで、犯人は車を捨てていなくなったとのことです。
盗られたものもなく、近隣の警察と寺、自治体に連絡しておく、とのことでした。
 その一方で僧侶の代わりに日ごろの運営をしている村の消防団の人たちが鐘をどうするか、という話をしていました。

「 もう1回かけるか?」
「 もうこのままにしておいたらどうか。」

 その話し合いを遠巻きに見ている人々の中に、A君のおばあさんがいました。
A君は小学生の頃に一家で村から引越していったのですが、おばあさんだけが残っていました。
 自分は既にA君と音信不通でしたが、 おばあさんは孫と同い年の自分に良くしてくれるので、この年になるまでときどき家に遊びにいくという関係が続いています。

俺「 お久しぶりです。」
婆「 俺ちゃんか。泥棒じゃないかって。嫌な世の中だね。」
俺「 鐘なんて売れるんですかね。」
婆「 戦後は鉄くず屋が来て自転車でも買っていったもんだけど。」
俺「 なんでも鑑定団なんかに出そうとしたのかな。」
婆「 ごぜさんの鐘だなんてお金もらっても欲しくないわ。」
俺「 ごぜさんの鐘?」

 おばあさんから教えてもらったことによると、このあたり一帯では昔、盲目の子供が生まれると、男も女もごぜさんにもらわれていったとか。
男はまた別のグループに引き渡され、女はごぜさんとして一生を送ったそうです。
この鐘は遠い昔には普通の鐘として使われていたものが、いつしかごぜさんを呼ぶ合図の鐘として用いられるようになったということでした。


 その日の夕食、両親との会話の中で鐘の話になりました。
私が、ごぜさんの鐘というと両親とも、

「 え・・・・。」

という顔になりました。
 両親の話によると、ごぜさんの鐘とは確かにごぜさんを呼ぶものです。
ただし鐘が鳴るのは盲目の子供が生まれた場合に限らない。
寒村では子供を育てるのに厳しい年もあり、口減らしをしなくてはならないこともあったとか。
 育てられない子供が出てしまった家では、両親が子供の目を潰し鐘を撞いたそうだ。
ごぜさんの旅は辛くとも、娯楽の少ない時代、行く先々では大切にされたそうだ。
そのうち、子供の目を潰すことができなかった両親が鐘撞き小屋に子供を置き、ごぜさんの鐘をついて連れて行ってもらうのを待つようになった。
 当然ながらほとんどの子供は凍死する。
住職は数え切れないほど多くの子供が冷たくなっているのを見つけ、その服を鐘撞き小屋の柱に巻いて弔ってやった。
 そのうち、ごぜさんの鐘の周りで子供の霊を見たとか、遭難したごぜさんの列が歩いているのが見えるとかいう噂が広まり、風の強い日には両手で耳を塞いでもごぜさんの鐘の音が聞こえると言うものまで出た。
これでは、ということで鐘撞き小屋に残されていた子供の服と荒縄で鐘をぐるぐる巻きにして、二度と鐘の音が鳴らないようにしたんだそうだ。
 両親とも、

「 ごぜさんの鐘鳴らすよ!」

という脅しの悪いことをした子供への警鐘と、上のような背景は聞いていました。


 この一件があってからもずいぶん経ちます。
それで、ふと思うことがあります。
 日本から昔のままのごぜさんが廃れて久しいです。
歌や風習を伝える人はいても、本物のごぜさんはもういない。
日本のどこを探しても、ごぜさんが歩く列は見られない。
 あの夜、ごぜさんの鐘を盗もうとした連中がいた。
そして、鐘を落とした連中は警察を恐れて逃げ出したんだろうと思います。
 しかし、こう考えればどうでしょうか。
あの夜、連中はごぜさんの鐘を不注意にも鳴らしてしまった。
そして、遣って来たごぜさんに有無を言わせず連れて行かれた。
連中の姿が双眼鏡からスッと消えたのを見たときは、

“ あ、逃げたな・・。”

と何とも思いませんでしたが、瞬間で連れて行かれたと思えば、思えなくも無いのです。













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しづめばこ 4月23日 P286

2014-04-23 18:13:40 | C,しづめばこ
しづめばこ 4月23日 P286  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


小説“しづめばこ”は読み易いようにbook形式になっています。
下記のリンクに入ってください。(FC2小説)

小説“しづめばこ”



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日々の恐怖 4月23日 建設会社

2014-04-23 18:12:25 | B,日々の恐怖


   日々の恐怖 4月23日 建設会社


 10年前ですが、当時、盛岡の街中の建設会社に勤めていた時の事です
会社は6階建ての事務所ビルの5階にあって、エレベーターが二基有るんですが、夜10時以降は1階に降りてしまって、使えなくなるので夜の出入りは非常階段を使っていました
 また、非常階段からビル内に入るのには専用のカードキーと暗証番号が必要で、会社でも決った人間しか夜間は出入り出来ないようになっていました。
いつもの様に、日中は現場廻りをして夜に図面牽きや積算何かの事務処理をやっていると、深夜2時頃に事務所の入口ドアのレバーが、

「 カチャリ。」

と動く音がして少し開きました。
 最初は誰か社員が帰って来たのかな~と思ったんですが、暫くしても誰も入って来ない。
数秒間、間が空いて、自分が、

「 お疲れ様~。」

とドア側に声を掛けたら、今度はドアが、

「 パタン。」

と閉まったんです。

「 ・・・・・?」

と思い、事務所の外のエレベーターフロアまで出てみましたが、誰もいない。
 ドアが閉まってからものの数秒後で、非常階段の出口から出たとしてもセキュリティのアラームが数秒は鳴っているハズなのに、真っ暗なフロアはシ~ンと静まり返っている。
背筋に何か冷たい物を感じたので、その日は仕事も途中にして急いで帰りました


 翌日、会社の人達に昨夜の事を話したら、最古参の男性社員が言いました。

「 関係あるかどうか解らないけど、そう言えば、隣のビルって井戸をそのまま埋め立てたらしくて、オーナーが変死するんだよな~。
つい最近のオーナーも、ほらっ、この前○○で猟銃自殺した人だよ。」

 おいおい、と思いつつ、何時も通りの仕事に戻ったんですが、結局、ドアが開いたのは一度切りで、何故ドアが開いたかとかは分からず、他の社員で同じ様な経験する人もいなかったのでそのまま分からず終いでした。
 ただ、その後も三回程、仕事が終わって非常階段を降りていると下から警備の人が、

「 たった今、人が上がって来ませんでしたか?」

と、下から上がって来るのに鉢合わせになったことはありました。












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日々の恐怖 4月22日 営業

2014-04-22 18:08:41 | B,日々の恐怖




    日々の恐怖 4月22日 営業




 俺は小売業で、いわゆるバイヤーをやっていた。
簡単に言えば、メーカーから品物を安く仕入れる仕事だ。
仕入れ値が安ければ、その分儲けは多くなる。
 簡単な理屈だが、メーカーも儲けの為にはなかなか仕入れ値は下げない。
そこを何とかあの手この手で下げさせるのがバイヤーの手腕であり、俺も随分メーカーの営業を泣かせてきた。
これだけ仕入れてるんだから、お宅以外にも取引先はたくさんある、この値段で出せないならもう取引停止だ、等などかなり強気にやってきた。
 そんなやり方だったから、俺と商談する営業の中には体を壊したり、精神を壊したりする奴も結構いた。
担当が替わるたび、新しい担当がオドオドした目で俺を見てくるのが不愉快でもあり、苦痛でもあった。
 そんな中、唯一俺の強気な商談にも、いつも調子良く答えてくれるTという営業がいた。
他社が逃げ出すような値段でも、ちょっと考えただけで 、

「 わかりました!」

と快諾してくれるTは、俺にとっても非常に有難い存在だった。
そして、Tとの付き合いは、仕事を離れて飲みに行ったり、互いにお中元、お歳暮など送りあったりと良き付き合いをしていた。

 そんなTが、あるときこんな事を言った。
取引先メーカー内で、俺の存在が日に日に煙たくなっていると。
Tは長い付き合いもあってか俺に同情的だったが、担当がコロコロ替わっている他のメーカーは、俺のやり方にもううんざりしていると。
 俺は、日ごろから言われている事だ、と笑い飛ばしたが、商談の最後にTが神妙な顔で気をつけた方がいいですよ、と俺に言ったのが印象的だった。

 それから程なくして、実害が出始めた。
俺の家に嫌がらせの張り紙や、無言電話がかかってくるようになった。
妻は社内結婚ということもあって、俺のやり方はわかっており、それに対する嫌がらせだということもわかっていたので、張り紙をはがし、無言電話は無視するかすぐ切るという冷静な対応をしてくれた。
 だがある夜帰ると、妻の顔色がすぐれない。
ポストを見てきて、と微かに震えた声で言う。
何事かと思いポストを見ると、血の塊が入っている。
何かの内臓のような肉片だった。
 俺は、嫌がらせにしては度が過ぎると思い、次の日出社すると、片っ端から取引先に電話をした。
営業たちは慌てて否定していたが、犯人がこの中にいることは明白だった。
信頼のおけるTにも内容を話し、取引先同士の横のつながりから、犯人の目星をつけてもらうよう依頼した。
Tも乗り気で、探偵ごっこみたいで楽しそうですね、などとのんきなことを言っていた。
 電話口で、全員に対して犯人扱いをし、金輪際こんな嫌がらせはするな、ときつく言い放った俺だったが、その後も嫌がらせは終わる気配が全くなかった。
毎日のように商談で俺に会いにくるTの方も、手がかりは掴めていないようだった。

 業を煮やした俺は、玄関に小型のビデオカメラを設置した。
植え込みに隠すように設置し、テープの時間目いっぱいまで録画した。
映っていればしめたもの、動かぬ証拠として犯人を呼びつけてテープを見せつけてやるつもりだった。
 そして、カメラを設置した翌日、録画されたテープを再生していた俺は、信じられないものを見た。
顔はよく見えないが、見覚えのあるネクタイが映っていた。
そのネクタイは、その日の商談でTがしていたものだった。
歳の割りに若いデザインで、もう若くないんだぞ、とからかった記憶がまざまざと甦ってくる。
 信じたくない気持ちと、裏切られた気持ちで俺はTとの商談を迎えた。
Tは変わらずいつもの調子で笑いながら、

「 手がかりはまだつかめない。」

などと言っている。
 俺はこらえきれず切り出した。
ビデオカメラを設置していたこと、人影が映っていたこと。
ネクタイに見覚えがあったこと。
 Tはそれらを聞いたあとも、いつもの調子を崩すことなく笑っていた。

「 そうですか」と。

俺はその様子にたまらなく不気味なものを感じ、Tをそれ以上問い詰めることができなかった。
 Tの上司から俺に今回の件についての説明をするように、と言うのがやっとだった。
Tは笑いながら、

「 わかりました。」

と答え、去っていった。


 それから2週間、Tとは音信不通になった。
Tの上司が、後任と思われる若い営業を連れ、菓子折りを持ってやってきたのは3週間後だった。
上司は、俺との挨拶もそこそこに土下座した。

「 大変申し訳ありません。」と。

 俺はまだTに裏切られたショックが癒えず、激昂する気力もなかったので、ただ説明を求めた。
何故Tは俺に嫌がらせをしたのか、毎日のように顔を合わせていて、それなりに信頼関係もあったはずなのに。
そして上司の口から説明をするよう求めたのに、3週間も待たされたのは何故なのか。
 これらの事を話していると、みるみる上司の顔色が変わってきた。
後任の営業も言葉を失っている。
訝しげにその様子を見ていると、上司は、

「 これから話すことは、的外れかもしれませんが・・。」

と前置きした上で話し始めた。
その内容を聞いているうち、俺は気が狂いそうになった。


 そもそも、Tは3ヶ月前に俺の担当を外されていた。
そして後任の営業が決まり、社内での引継ぎも終わり、あとは俺への挨拶だけ、というところまで行っていたが、Tは頑なに後任を俺に会わせようとはしなかった。

「 お前じゃあいつの相手はできない。
あいつは人の皮を被った悪魔だ。」

と、Tは後任に言っていたらしい。
 そしてTは毎日のように無断で外出を繰り返し、2ヶ月前には停職処分となっていた。
停職となった後も、Tは後任に電話をかけ、俺の元に行かないように念を押していた。
後任もTのあまりの気迫と異様な執着を不気味に感じ、俺に会いに来れなかった。
 そして1ヶ月前、自宅で首を吊っているTが発見された。
Tの社内では大騒ぎになったが、俺への連絡は後任に任され、後任は後任でまだ俺への挨拶も済ませていない手前、いきなり、

「 Tが自殺しました。」

と言い出すことができず今日に至ったと。
 Tは担当を外されても何故、俺の元へ毎日のように来ていたのか。
1ヶ月前に死んだTが、何故3週間前に俺の家に嫌がらせをし、翌日の商談に現れたのか。
今ではもう知るすべはない。
 霊なんて信じちゃいないし、例え3週間前に現れたTが霊であったとしても、それは些細な問題だ。
俺が一番怖かったのは、人間の情念と、建前と本音の落差だ。
表面上の付き合いをうまくやれる奴ほど、その反動として裏の顔が凄まじいものになる。
 俺は程なくして会社を辞めた。
今でも最後に会ったときのTの無機質な笑顔をふと思い出す。









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日々の恐怖 4月21日 聖域

2014-04-21 18:18:19 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 4月21日 聖域



 2年ほど前の話です。
その年の夏、俺は大小様々な不幸に見舞われていた。
仕事でありえないミスを連発させたり、交通事故を起こしたり、隣県に遊びに行って車にイタズラされた事もあった。
 原因不明の体調不良で10キロ近く痩せた。
そして何より堪えたのは、父が癌で急逝したこと。
そんなこんなで、

「 お祓いでも受けてみようかな・・・・・。」

なんて思ってもない独り言を呟くと、 彼女(現在嫁)が、

「 そうしようよ!」

と強く勧めてきた。
 本来自分は心霊番組があれば絶対見るくらいのオカルト大好き人間なんだけど、心霊現象自体には否定的で、お祓いが利くなんて全く信じちゃいなかった。
自家用車に神主が祝詞をあげるサマを想像すると、シュールすぎて噴き出してしまう。
そんなものを信用するなんて、とてもじゃないが無理だった。
 彼女にしてもそれは同じ筈だった。
彼女は心霊現象否定派で、なお且つオカルトそのものに興味がなかった。
だから、俺が何の気なしに言ったお祓いに、食いついてくるとは予想外だった。
まぁそれは当時の俺が、いかに追い詰められていたかという事の証明で、実際今思い返してもいい気はしない。
 俺は生来の電話嫌いで、連絡手段はもっぱらメールが主だった。
だから彼女に神社に連絡してもらい(ダメ社会人!)、 お祓いの予約を取ってもらった。
 そこは地元の神社なんだけど、かなり離れた場所にあるから地元意識はほとんどない。
ろくに参拝した記憶もない。
死んだ親父から聞いた話では、やはり神格の低い神社だとか。
しかし神社は神社だ。

 数日後、彼女と二人で神社を訪ねた。
神社には既に何人か、一見して参拝者とは違う雰囲気の人たちが来ていた。
彼女の話しでは午前の組と午後の組があって、俺たちは午後の組だった。
今集まっているのは皆、午後の組というわけだった。
 合同でお祓いをするという事らしく、俺たちを含めて8人くらいがいた。
本殿ではまだ午前の組がお祓いを受けているのか、微かに祝詞のような声が漏れていた。
所在なくしていた俺たちの前に、袴姿の青年がやって来た。

「 ご予約されていた○○様でしょうか?」

袴姿の青年は体こそ大きかったが、まだ若く頼りなさ気に見え、

“ コイツが俺たちのお祓いするのかよ、大丈夫か?”

なんて思ってしまった。

「 そうです、○○です。」

と彼女が答えると、

「 もう暫らくお待ち下さい。」

と言われ、待機所のような所へ案内された。
 待機所といっても屋根の下に椅子が並べてあるだけの東屋みたいなもので、壁がなく入り口から丸見えだった。

「 スイマセン、今日はお兄さんがお祓いしてくれるんですか?」

と、気になっていた事を尋ねた。

「 あぁ、いえ私じゃないです、上の者が担当しますので。」
「 あ、そうなんですか(ホッ)。」
「 私はただ段取りを手伝うだけですから。」

すると、待機所にいた先客らしき中年の男が青年に尋ねた。
どうや、一人でお祓いを受けに来ているようだった。

「 お兄さんさぁ、神主とかしてたらさ、霊能力っていうか、幽霊とか見えたりするの?」

その時待機所に居る全員の視線が、青年に集まったのを感じた(笑)。
俺もそこんとこは知りたかった。

「 いやぁ全然見えないですねぇ。
まぁちょっとは、何かいるって感じることも、ない事はないんですけど。」

皆の注目を知ってか知らずか、そう笑顔で青年は返した。

「 じゃあ修行っていうか、長いことその仕事続けたら段々見えるようになるんですか?」

と俺の彼女が聞く。

「 ん~、それは何とも、多分・・・。」

青年が口を開いた、その時だった。

“ シュ、シュ、シュ、シュ・・・・。”

入り口にある結構大きな木が、微かに揺れ始めた。
 何事だと一同身を乗り出してその木を見た。
するとその入り口の側に、車椅子に乗った老婆と、その息子くらいの歳に見える男が立っていた。
 老婆は葬式帰りのような黒っぽい格好で、網掛けの(アメリカの映画で埋葬の時に婦人が被っていそうな)帽子を被り、真珠のネックレスをしているのが見えた。
息子っぽい男も葬式帰りのような礼服で、大体50歳前後に見えた。
その二人も揺れる木を見つめていた。

“ シュシュシュシュシュ・・・・。”

と音を鳴らして、一層激しく木は揺れた。
 振れ幅も大きくなった。
根もとから揺れているのか、幹の半分くらいから揺れているのか不思議と分からなかった。
その、分からないのが怖かった。

“ ビュン!ビュン!ビュン!ビュン!”

木はもう狂ったように揺れていた。
 老婆と男は立ち止まり、その木を困ったように見上げていた。
すると神主の青年が、サッと待機所から飛び出すと、二人に走り寄った。

「 △△様でしょうか?」

木の揺れる音のため、自然と大きな声だった。
うなずく男。

「 大変申し訳ありませんが、お引取り願いませんでしょうか。
我々ではどう対処も出来ません。」

こちらに背を向けていたため、青年の表情は見えなかったけれど、わりと毅然とした態度に見えた。
 一方老婆と男は、お互いに顔を見合わしうなずき合うと、青年に会釈し引き上げていった。
その背中に青年が軽く頭を下げて、小走りで戻ってきた。
 いつの間にか木の揺れは収まり、葉が何枚か落ちてきていた。

「 い、今の何だったの!?」

と中年のおじさん。

「 あの木何であんなに揺れたの?あの二人のせい?」

と彼女。
俺はあまりの出来事に、言葉が出なかった。
興奮する皆を、青年は落ち着いて下さい、とでも言うように手で制した。
 しかし青年自体も興奮しているのは明らかだった。
手が震えていた。

「 僕も実際見るのは初めてなんですけど、稀に神社に入られるだけで、ああいった事が起きる事があるらしいんです。」
「 どういう事ですか!?」と俺。
「 いや、あの僕もこういうのは初めてで。
昔居た神社でお世話になった先輩の、その先輩からの話なんですけど・・・・。」



 青年神主の話は次のようなものだった。
関東のわりと大きな神社に勤めていた頃、かつてその神社で起きた話として先輩神主が、さらにその先輩神主から伝え聞いたという話しだった。
 ある時から神主、巫女、互助会の組合員等、神社を出入りする人間が、狐のお面を目にするようになった。
そのお面は敷地内に何気なく落ちていたり、ゴミ集積所に埋もれていたり、賽銭箱の上に置かれていたりと、日に日に出現回数が増えていったという。
 ある時、絵馬を掛ける一角が、小型の狐のお面で埋められているのを発見され、これはもうただ事ではないという話になった。
するとその日の夕方、狐のお面を被った少年が家族らしき人たちとやって来た。
 間の良いことにその日、その神社に所縁のある位の高い人物が、たまたま別件で滞在していた。
その人物は家族に歩み寄ると、

「 こちらでは何も処置できません。
しかし、○○神社なら手もあります。
どうぞ、そちらへご足労願います。」

と進言し、家族は礼を言って引き返したという。

「 その先輩は、“神社ってのは聖域だから、その聖域で対処できないような、許容範囲を超えちゃってるモノが来たら、それなりのサインが出るもんなんだなぁ。”って、言ってました。」
「 じゃあ、今のがサインって事か?」

とおじさんが呟いた。

「 多分・・・・、まぁ間違いないでしょうね。」
「 でも、あのまま帰しちゃって良かったんですか?」

という俺の質問に青年は、

「 ええ、一応予約を受けた時の連絡先の控えがありますから。
何かあれば、すぐに連絡はつきますから。」
「 いやぁでも大したもんだね、見直しちゃったよ。」

とおじさんが言った。
俺も彼女も、他の皆もうなずいた。

「 いえいえ、もう浮き足立っちゃって。
手のひらとか汗が凄くて、ていうかまだ震えてますよ。」

と青年は慌てた顔をした。



 その後、つつがなくお祓いは済んだ。
正直さっきの出来事が忘れられず、お祓いに集中出来なかった(多分他の皆も)。
しかしエライもので、それ以後体調は良くなり、不幸に見まわれるような事もなくなった。
 結婚後も彼女とよくあの時の話をする。
あの日以来彼女も心霊番組を見たりネットで類似の話はないかと調べたり、どこで知ったのか洒落コワを覗いたりもしているみたい。
やっぱり気になっているのだろう。
もちろん俺だってそうだ。
 しかし、だからといってあの人の良い青年神主に話しを聞きに行こう、という気にはならない。

「 もしもだけどさぁ、私たちが入った途端にさ。
木がビュンビュンって揺れだしたら、もう堪んないよね~。」

彼女が引きつった笑顔でそう言った。
全くその通りだと思う。
あれ以来、神社や寺には、どうにも近づく気がしない。













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日々の恐怖 4月20日 タバコ

2014-04-20 18:44:22 | B,日々の恐怖



    日々の恐怖 4月20日 タバコ



 去年の夏に残業してた時の話です。
一段落したので喫煙室で一服していたところ、横から手を突き出されて、

「 火、貸してください。」

と言われた。
 ライター出して視線を向けると、まあお約束通り誰もいない。
なんとなく可哀想だったので、タバコに火をつけて灰皿に置いて、俺ももう一本吸った。
ただ灰皿に置いておいただけだったのに、俺が吸い終わるのとほぼ同じタイミングで燃え尽きたので、やっぱりなんかいたんだろうなと思う。
 で、今年に入って会社行ったところ、喫煙室で仲良くなった別会社の人から、

「 最近ここ出るんですよ。」

と言われた。
なんでも、夜遅く喫煙室に入ると横から手が出てきて、

「 タバコください。」

と言われるとか。
 居着いたうえにタカリ度がひどくなってる。
俺のせいなんだろうか・・・。










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