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日々の恐怖 4月14日 廃村

2014-04-14 18:57:08 | B,日々の恐怖



   日々の恐怖 4月14日 廃村



 俺はオフロードバイクでツーリングするのが趣味だった。
連休には良く一人で遠出する。
 お盆休みに、九州の南端目指して三泊四日の予定でツーリングに出発した。
もちろん、高速道路をひたすら走って目的地に着いても面白くない。
途中に絶景ポイントや美味しそうな林道を絡めつつ走る。

 一日目は主に高速を走る。
福岡の友人宅に泊まる。
 二日目、主に下を走る。
途中温泉に入ったりしつつマイペース走行。
阿蘇で写真も沢山撮った。
 だが、少し寄り道し過ぎたらしい。
目的地にはまだだいぶあるが夕方になってしまった。
このとき、熊本と宮崎のちょうど真ん中辺り。
予定では鹿児島に入ってるはずだった。
 別に宿を予約している訳でもないから急ぐ必要もないと林道へ向った。
峠を下り切った所で一服。
川が涼しげに道の向こうを流れている。
 と、その川に小さな橋が架かっている。
先には小ぢんまりとした神社。
そして、神社の脇に向かいの山へと続く砂利道だ。
 まだ日はある。
俺はゴーグルを下げ全開で走り出した。
 だが夢中で走っていたらいつの間にかオーバーペースになっていたようだ。
しまったと思う前に、俺は空中に放り出された。
頭の上を飛び越え、逆さまに地面に叩き付けられる愛車が見えた。

“ やっちまった。”

幸い路面に沿って投げ出されたお陰で木や岩に突っ込む事はなかった。
 しかし、さすがにあちこち痛む。
ゆっくり起き上がる。
骨に異常はないみたいだ。
 ふらつきながら先の方に転がっているバイクに近付く。
ウィンカーやミラーは脱落し、メーター周りは粉々だ。
それでも一応エンジンを掛けようと試みたが、予想通り無反応。
 辺りは既にかなり暗くなって来ていた。
携帯はもちろん圏外。

「 仕方ない歩いて下るか。」

バイクを邪魔にならない場所に引きずり込み、リュックを背負う。
絶望的な気分で懐中電灯の明かりを頼りに歩き始めた。

“ もう3時間歩き続けている、おかしい。”

時間的に、あの神社のある場所に出ても良いはずだった。
右手に夜空、左手に山の斜面を見続けて歩いているのだから間違いないはず。

“ もしかして、気付かないうちに脇道に入ったか?”

地図を広げてみたがもはや何の役にも立ちそうになかった。
 暗い。
雲が出ているのか月の明かりすらない。
懐中電灯がなかったら谷底へ転落してもおかしくない。
 少し休もうと思い腰を下ろしタバコに火をつけた。
近くで川の流れる音が聞こえるが入口にあった神社は見えない。
やはり間違ったルートを下った様だ。
 しかし、どのみち今夜は野宿だ。

“ もう歩きたくない。
あとは明るくなってから考えよう。
万一クルマやバイクが通っても轢かれる心配のない場所を探して野宿しよう。”

そう考え再び歩き出した。


 しばらくすると急に道が開け、今まで見た事のない風景に出くわした。
そこにいきなり村が現れたのだ。
もちろん明かりの点いた家は全くない。
 廃村だ。
どうやら途中で枝別れしたこの廃村へと続く道を歩いて来たらしい。
 辺りを照らしてみると木造の半壊した建物ばかりだ。
赤錆びた給水塔らしきものも見える。
かなり昔に放棄された村らしい。
不気味ではあったが面白くもあり少し見て周った。
 かなり小さな村のようで、狭い範囲に5~6戸程の小さい民家が斜面に並んでいる。
その殆どがツタに覆われ、壁の一部が崩れ去り部屋の中が見えるような状態だった。
玄関に施錠はされているが意味はなさそうだ。
 集落の中央には石段が通っていた。
井戸が何箇所かあり、蓋が閉じられている。
記念に数枚写真を撮った。
 そして比較的まともな一軒の玄関にもたれ顔にタオルを巻き、虫よけスプレーをかけ寝ることにした。
地面に直に寝転ぶのを考えたら、それでもかなり有り難く思える。
 もうクタクタだ。
すぐに睡魔が襲って来た。

“ ・・・・・?”

何か気配を感じて目が覚めた。
俺が今いる玄関の中からの気配。
いや、気配ではなく音がする。

「 ミシッ・・・、ミシッ・・・。」

ゆっくり何かが中を歩く音。
 最初はただの家鳴りかと考えたが、ゆっくりとしたリズムを刻み床を踏む音が微かに聞こえて来る。
玄関の上半分はスリガラスで中の様子は見えなかった。

“ まさか人がいるのか…?”

この廃墟に人が住むとは考えられなかったが、確かめようと思い寄り掛かったまま玄関に耳を当てた。

「 ミシッ・・・、ミシッ・・・。」

間違いない。
この家の中を歩き回ってる者がいる。
 いつの間にか月が顔を出し、不気味に廃墟群を浮かび上がらせていた。
急に自分の置かれている状況がひどく恐ろしいものに感じられた。
当然だ、こんな時間にこんな山奥の廃墟に人などいるはずがない。
 心拍数が跳ね上がるのが分かる。
得体の知れない何かがすぐそばにいる恐怖。

「 ゴトッ・・。」

今度は少し離れたところから音がした。
 目をやるが何も見えない。
緊張感からか身動き一つ取る事が出来ない。
額から汗が流れる。
緊張からか体が固まって動けなくなった。
 目だけを動かし周りを見渡す。
すると俺の今いる場所の正面、少し低い場所にある家の窓を月明かりに浮かんだ黒い影がスッと横切るのが見えた。
また少し間を置いて横切る。
影が往復しているように見えた。

“ 歩き回っているのか・・・?”

俺の背後の家からも相変わらず音が聞こえている。
 もはや俺の中の恐怖心は耐え難いものになっていたが、なにしろ身体が石の様に固まって動けない。
それに、少しでも動いて俺がいることがバレたら大変な事になる気がする。
 目を動かし様子を窺う。
暗さに目が慣れたのか、先程物音がした方を再び見ると井戸が見えた。
井戸は何故か蓋が地面に落ちていて、その中から目だけを出してこちらを見ている女の顔があった。
 いつの間にか足音は止んでいた。
俺は背後にも何かがいるような気がした。

「 うわぁっ!!」

思わず声が出た。
 その瞬間体が動くようになった。
ヘルメットをひっ掴み全力で来た道を駆け戻る。
懐中電灯を使う事も忘れ月の光を頼りに森を走った。
脇腹が痛くなるまで走り、あとは歩き続け朝になるのを待った。
 とても立ち止まる気にはなれなかった。
東の空が明るくなるのと町に辿り着くのと、ほぼ同時だった。
その日の始発高速バスに乗り帰ることにした。
 バイクは地元の業者に引き上げてもらい廃車になった。
体もあちこち打撲だらけで、まさに呪われたツーリングとなってしまった。
あと、この廃墟を撮影した写真を見ると、そのときは気が付かなかったが、廃墟の後ろの一段高くなった場所に苔むした墓石が何柱かフラッシュに浮かび上がっていた。














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