大峰正楓の小説・日々の出来事・日々の恐怖

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日々の恐怖 4月15日 パンク

2014-04-15 17:57:11 | B,日々の恐怖



     日々の恐怖 4月15日 パンク



 今は嫁さんになった彼女と、昔、同棲してた時の話です。
同棲に至った成り行きは、彼女が、父親と大喧嘩して家出した。
彼女の父親は大工の親方してる昔気質だ。
あまり面識はなかったが、俺も内心びびりまくりの存在だった。
 仕方ないから彼女と俺の有り金かき集めて、風呂無しぼろアパートで同棲した。
しかし最悪のアパートで、ゴキブリは出るし、畳は湿気ですぐ腐るし、上の階に住むバンドマン風の若者は、毎晩、大声で歌の練習するし、隣に住む老人は薄気味悪い。
 まぁそんな最悪な環境にも、だんだん適応しながら同棲生活を送り、俺は建築現場でバイト、彼女はカラオケボックスの夜勤で生計を立てていた。
 住み始めて半年くらいして、変なことがおこり始めた。
ある朝、バイトに行くために、自転車に跨ったんだが、違和感を覚えて、タイヤを確認すると、パンクしていた。
 その日は歩いて仕事に行き、休日に、自転車屋に行って、修理してもらった。
その店でのパンクの修理はタイヤに穴が多い程、金額が上乗せされるんだが、確か、5~6箇所は穴があいてたと思う。
 自転車屋に、

「 誰かのイタズラだろうね。」

って言われた。
クギか何かで刺したらしい。
 それから、風呂無しアパートなんで、毎晩、彼女と近くの銭湯に通っていたんだが、自転車の二人乗りで銭湯まで行って、風呂入って、また二人乗りで帰ってくる。
ある日の銭湯からの帰り、二人で銭湯の前に止めてある自転車まで来て、サドルに座ると、また違和感が。案の定、パンクしてた。
後日、自転車屋さんに修理してもらうと、また凄い数の穴があいていた。
 また別の日、彼女が自転車に乗って一人で夕飯の買い物に行った時も買い物中にパンク。重い自転車を押して帰宅。
他にも、二ケツで駅まで行って、自転車を駐輪場に止め、電車で遊びに行った時も、遊び終えて、駐輪場に戻るとパンク。
いずれも、多数の穴。
 そんな事が定期的に続き、パンク修理のしすぎで、タイヤがボコボコになってしまい、買いかえ。
最後の方はもう3台目くらいの自転車になってたかな。
 自転車屋曰わく、タイヤごと外して新品のタイヤに変える作業に費用払うのと、安い自転車買うのとでは、金額的にあまり変わらないって事だったんで、タイヤがボコボコになって乗れなくなったら買いかえていた。

 それにしても無差別のいたずらにしては被害に遭う回数が多すぎるし、ストーキングでもしない限り、こんなに何度も何度も俺たちの自転車を狙えない。
俺も彼女もイラつきのピークだった。
 二階のバンドマン、隣の部屋の薄気味悪い老人、誰もかれも疑って疑心暗鬼。
極めつけが、レンタカー借りて、二人で遠くまで旅行に行った帰り道での事。
高速道路のサービスエリアにあったレストランで夕食を食べた。
食べ終えて、車に乗り込み、

“ ・・・ん?”
と、また違和感を覚えた。

“ 何かこの車、傾いてない?”

 車から降りて、恐る恐るタイヤを確認すると、右前後、二つのタイヤがパンク。
この時ばかりは、彼女も俺も、怒りよりも恐怖を覚えた。
犯人は、俺達の旅行の予定まで知っていて、タイヤをパンクさせる為に高速にまで乗る。
いったい、どんだけ恨まれてるんだよ俺達、と。
 盗聴器を疑い、部屋中のコンセントを分解した事もあったが、それらしき物は何もなかった。

 そんなある日、建築現場のバイト中に、俺は怪我をした。
不注意で、クギを思いっ切り踏んでしまって病院へ。
クギが錆びていた可能性もあるって事で、結構な事態になってしまった。
 家に帰り、彼女に一連の事を話した。
彼女は俺の傷を心配した後に、何かに気付いて急に暗い顔になった。
しばらくして、暗い顔のまま言った。

「 君がもしタイヤだったらパンクしてたね。」

俺もそれを聞いて初めて、この怪我と一連のパンクを結びつけた。
それまで考えてもいなかった。
しかし万が一、俺の怪我も一連のパンクと関係あるとしたら、犯人はもはや人間ではないのでは?
そうなったらもう呪いや悪霊の類だ。
 彼女は今にも泣きそうな顔をしてる。

「 考えすぎだろ。」

と俺は言った。
言ったものの、内心、怖くて仕方なかった。
 嫌な事ばかり考えてしまう。
例えばこのぼろアパートが呪われてるのでは?とか。
けど、一番怖いのは、彼女に被害が及ぶ事。俺は今回、怪我をしたが、幸い彼女の身にはまだ何もない。
 数週間考えて、話し合い、彼女は家出した実家へと戻る事になった。
一人で、このぼろアパートに住むのは怖かったが、俺の実家は遥か地方だし帰れない。新しいアパートを借りる余裕もない。足の怪我で、ろくに仕事もできない。仕方なかった。
 しかし、意外なことに、彼女が実家に帰ってから、なぜか自転車のパンクは全くなくなった。
同棲生活は終わっても彼女との交際は続いていたし、彼女も首を傾げていた。
それからは何事もなく月日が経っていった。


 その後、数ヶ月経って彼女の父親がガンで入院した。
手術の甲斐も無く亡くなってしまった。
それで、その葬式の時に、彼女と彼女の母親と俺の三人で話す機会があり、その席で妙な話を聞いた。
 死んだ父親は、俺の事を相当憎んでいたらしい。
大事な娘を奪った男という認識だったようだ。
彼の仕事は大工だ。
大工という仕事は、木材にクギを打ち付ける機会が多い。
彼は俺への恨みを込めて、木材にクギを打ち込んでいたらしい。
わら人形にクギを打つように。

「 そうすると、気分がスッキリするって、あの人、言ってたわ。」

そう言って彼女の母親は笑った。
ブラックジョークのつもりだったのか?
 彼の行動と自転車のパンクや俺の怪我に因果関係があるとは思えないが、それを聞いてからは、彼の遺影を直視出来なかった。










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しづめばこ 4月15日 P284

2014-04-15 17:56:45 | C,しづめばこ
しづめばこ 4月15日 P284  、大峰正楓の小説部屋で再開しました。


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