【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「海の沈黙」:築地バス停付近の会話

2010-03-10 | ★業10系統(新橋~業平橋)

「歌舞伎座」といえば、古典芸能の殿堂だ。
映画で古典といえば、ジャン・ピエール・メルヴィル監督の「海の沈黙」よね。
そう来たか。
だって、1947年のフランス・モノクロ映画よ。これを古典と言わずして何を古典と言うの?
完成後53年経ってようやく日本公開なんてな。
1942年に地下出版された小説をもとにした対独レジスタンス映画。
対独レジスタンスなんて、いまどきなら「イングロリアス・バスターズ」になっちゃうけど、戦後すぐだとこういう生々しい映画になるっていう見本のような映画。
リアリズムっていう意味じゃなくて、全体から立ちのぼる心情とか気分とかが、いかにも戦後すぐの映画なのよね。
フランスを占領したドイツ軍将校が宿舎として借り上げた家に初老の男と姪が暮らしているんだけど、この二人、ドイツ軍将校とはいっさい口を利かない。
タイトル通り、沈黙を守ることで反抗の意思を示している。
ところが、この将校、実に知的で誠実な男で、もの言わぬ2人に、フランス文化への憧れをとうとうと語る。
フランスが憎いどころか、明らかにフランスに憧れている。ドイツがフランスに進駐したことで、フランスとドイツが融合できないかと無垢な期待さえ持っている。
でも、敵は敵。フランス人の男とその姪はいっさい反抗の姿勢を崩さない。
その姿勢がクライマックスに一瞬崩れる。
たったひとことなんだけど、沈黙が破れる瞬間が来る。
でも、そのひとことが、あふれる感情をすべて表している。
古くは「望郷」のラストのひとことに比肩する、フランス映画史上の名セリフと言っていい。
「望郷」というより、この端正な映画は、たとえば、ジャン・ルノワールの「大いなる幻影」をほうふつとさせるような出来だったな。
敵味方問わず、悲惨な戦争の中でも、己の信念と流儀は守ろうとする人たちの尊い姿。いまどき観られないような腰の据わった映画だ。
完成後すぐに公開されていれば、日本でもベスト10に入ったような貴重な映画なんだけど、残念ながら50年も経つと古典になってしまう。
いまの感覚で観ると正直退屈なところもあるからな。
いまどきは「イングロリアス・バスターズ」だからね。
クリストフ・ヴァルツがアカデミー助演男優賞を獲ったのはご同慶の至りだけどね。
そういえば、彼って、歌舞伎役者顔よね。
そうかなあ。
歌舞伎座に出演しても遜色ないんじゃないかしら。
でも、日本語はできないぜ。
無言で出るのよ。片隅でもいいから。
「隅の沈黙」だな。




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