【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「アンナと過ごした4日間」:竜泉バス停付近の会話

2010-01-06 | ★草63系統(池袋駅~浅草雷門)

ここは、一葉記念館。
どうして、こんなところにあるの?
このあたりは、樋口一葉の名作「たけくらべ」の舞台になった場所なんだ。
ああ、いずれは吉原の遊女となる女と僧侶となる男のすれ違いの恋物語ね。
いつの時代にも、男女の仲というのは、うまくいかないもんだな・・・。
あら、柄にもなく、いきなりもの思いに耽っちゃってどうしたの?
いや、イエジ・スコリモフスキ監督の17年ぶりの新作「アンナと過ごした4日間」もまた、報われない愛の物語だったなあと思ってさ。
報われないもなにも、完全な片思いだからねえ。
ポーランドの寒村に住む中年の男が、近くに住むアンナの部屋を夜な夜なのぞきこむ物語。
って、ストーリーだけを追うと、完全にストーカーの話じゃない。
まあ、まあ。そう言うな。物語だけじゃなく、田舎町の寒々とした風景や、さびれた建物の風情を味わう映画なんだから。
そうなの?こんな、面白味のない風景のどこに魅力があるの?
あれ、この風景の魅力がわからないなんて、お前もまだ若いねえ。
ありがと。
誉めてるわけじゃないんだけど。
百歩譲って、ほとんどセリフもしゃべらない野暮ったい中年男は、アキ・カウリスマキの映画に出てくる男たちみたいで、ちょっとおもしろかった。
そう、そう。俺はそれを言いたかったの。この男、ストーカーというより、世間ずれしていないぶん、愛の表現方法を知らないだけなんだよ、きっと。その証拠に、アンナの寝ている部屋に忍び込んでもそれ以上何もしない。
なんか、異様に肩を持つわね、この中年ストーカーの。ひょっとして、あなたにも思い当たるところがあるんじゃないの?
そう、俺も実は・・・って、そんなわけないだろ。
でも、アキ・カウリスマキの映画には、もう少しユーモアというか、愛すべきところがあるわよ。
それに比べれば、この映画のほうが厳しいというか、容赦ない。そこが、スコリモフスキ監督たる所以かもしれないな。
最後なんて、男の思いを断ち切る衝撃の風景がそそり立つ。
あれは、ドイツとソ連によって翻弄された国、ポーランドの映画だってことを頭の片隅に置いて観ると、また一段と感慨深い光景になってくる。
あ、そういう政治的意図のある映画だったの?
そんなことはないと思うけど、そういう歴史や文化が知らず知らずにじみ出してくる奥の深い映画だったってことさ。どうして、寒々とした風景でないといけないかわかるような気がしないか。
「たけくらべ」のラストのような花一輪ほどの救いも、ポーランドにはないってことかしらね。
ポーランドの歴史をずっと見てきた71歳のスコリモフスキ監督にはそう映るのかもしれないな。
“若い”私には、退屈にしか映らなかったけどね。
あらら。





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ふたりが乗ったのは、都バス<草63系統>
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