【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「ディア・ドクター」:葛西駅通りバス停付近の会話

2009-07-01 | ★亀29系統(なぎさニュータウン~亀戸駅)

しっかし、お稲荷さんて、日本中どこにでもあるな。
それだけ、無病息災を祈る人が多いってことなのかしら。
お稲荷さんと同じくらい医者も多ければいいのにな。
現実には田舎へ行けば無医村もいっぱい。
だから、笑福亭鶴瓶みたいな医者も出てくる。
「ディア・ドクター」の鶴瓶?
ああ、「ディア・ハンター」とは違うぞ。
わかってるわよ、そんなこと。ロバート・デ・ニーロの映画じゃないんだから。
鶴瓶は高齢化が進む寒村でただ一人の医者として老人たちから慕われているんだけど、その正体は誰も知らない。
偶然が重なって死にそうな人を助けたりするもんだから、村の名医としてますます信頼されるようになる。
そんな男を鶴瓶がいつもの大阪弁で飄々と演じている。
でも、実際は名医でもなんでもないってことが徐々にわかってくる。
人に知れないところでは、冷や汗をかきながら暮らしている。
人懐こい表情と、その裏には何かありそうな二面性が、笑福亭鶴瓶鶴にぴったりの役柄だわね。
ロバート・デ・ニーロには真似できない役柄だ。
あたりまえじゃない。大阪弁なんて話せるわけないんだから。
看護師の余貴美子がまた、彼の秘密を知っているような知っていないような、微妙な役柄を絶妙に演じている。
おくりびと」のあとが看護師なんて、偶然とは思えない配役。
余貴美子って助演ばかりだけど、いちど彼女の主演映画を観てみたいな。
「ディア・ドクター」のスピンオフ映画で「ディア・ナース」とかどうかしら?
いいかも。
そして、都会の医療に疑問を感じてここの病院にやってくる真面目なインターンの瑛太。彼もまた、肝心なところでドライなところを見せたりして、登場人物がみんな裏表の顔を持つというのがおもしろい。
監督は、「ゆれる」の西川美和。
話は全然違うけど、なんかミステリアスな感覚が映画を引っ張っていいるところが「ゆれる」を思い出させるわね。
田舎の人々が繰り広げる人間ドラマなんだけど、監督が人と人の間にサスペンスを求めるから、人情味あふれる映画というより、あかぬけたシャープな映画だっていう印象のほうが強い。
八千草薫演じる胃が悪いおばあちゃんと鶴瓶のふれあいなんて、素朴ないい味わいが出ていたけどね。
そのおばあちゃんの娘が母親の飲んでいる薬を発見する場面。暑くてキッチンにアイスクリームを取りにいったらゴミ箱に薬を発見する。思わずアイスを流しに捨てて薬に見入る。捨てられたアイスが流しの中でゆっくり溶け出していく。そのさりげない描写が不安感をあおる。無理のない展開でアイスクリームに娘の不安を象徴させる。たとえば、そういうところに西川美和の腕前を見ちゃう映画なんだ。
ラストは「ゆれる」と同様にどうとでもとれるような終わり方。
監督自身、あれはなんだ、と明確に決めていない撮り方だ。
それで印象が後を引くともいえるし、中途半端だなあとも感じる。良くも悪くも、いまどきの映画ね。
でも丁寧に仕上がった映画らしい映画だったことはたしかだ。お稲荷さんに祈っちゃおうかな。
何を?
こういう映画がもっと現れますように、って。
なるほど。




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ふたりが乗ったのは、都バス<亀29系統>
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