【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「レイチェルの結婚」:四谷三丁目バス停付近の会話

2009-05-09 | ★品97系統(品川駅~新宿駅)

ここ四谷消防署には、女性防火組織があるのよ。
女性防火組織?
そう。四谷消防署管内に住む女性の自主防災組織で、家庭の安全と地域の安全を女性の立場から推進している組織。
じゃあ、レイチェルの結婚式にもぜひ出動してほしかったな。
なんで?
家庭の安全と地域の安全を女性の立場から推進してほしかったから。
まあ、たしかにアメリカ映画の「レイチェルの結婚」は、結婚式を通して家庭の崩壊していくさまをまざまざと見せつけて、誰かに助けに来てほしいほどだったけどね。でも、デザスター映画じゃないんだから、自主防災組織が出動しても役に立たないでしょう。
家庭のゴタゴタは家庭で解決しろってことか。冷たいやつめ。
だから、そういうことじゃなくて、家族の問題は家族でなきゃ解決できないのよ。
だけど、「レイチェルの結婚」は深刻だぜ。姉レイチェルの結婚式に、麻薬依存症で入院中の妹がやってくるんだから。
しかもこの妹は以前、家族にとって取り返しのつかない過ちを犯している。
徐々に明らかになっていく過去の傷、家族の亀裂、深刻な溝。
昔からアメリカ映画が得意とする、濃密な家庭劇の世界。
そうなんだけど、花婿を音楽家に設定するとか、ふるえるカメラがドキュメンタリータッチで俳優の生の表情を捕らえるとか、ジョナサン・デミのシャープな演出がツボにはまっていて不覚にも堪能してしまった。
いちばんの見どころは、お皿を片付ける競争をするたわいのない場面。みんなでなごやかな時間を過ごしていたのに、あるお皿の存在から、その場が一気に凍りつく。
傍から見ると幸せそうな一家なのに、一皮むけば内部にはドロドロを抱えている。そのマグマが一気に噴出する。
壊れていく家庭。いや、すでに壊れていた家族。その負の側面を一心に背負った麻薬依存症の妹を演じるのが、アン・ハサウェイ。
お姫様のようにかわいかったのに、いつのまにこんなハスッパな役をやるようになってしまったんだろう。
あれ、嘆いてる?
嘆いてない。ただ、汚れを知らないピュアな笑顔が見たかっただけ。
このロリータめ!
ンなわけないだろう。アン・ハサウェイ、立派な26歳だぜ。彼女にイカれてどこがロリータだ?
そ、とっくにお肌の曲がり角を曲がっちゃった。汚れを知らないなんてムリな年齢。この年齢にふさわしい、すばらしい演技を見せて、アカデミー賞候補になっちゃったじゃない。「プラダを着た悪魔」なんて、まだお姫様のしっぽが残っているようなキャラクターだったけど、いまや本格俳優になっちゃった。
彼女が庭のプールに灯篭のような灯をそっと浮かべる瞬間。あれは美しかった。
ヒリヒリと息詰まるような展開が続く中に、ああいう息を飲むほど幻想的なシーンがはさまると、救われた思いになる。うまい演出よねえ。
サリーを身にまとったアン・ハサウェイ、やっぱり、絵になるねえ。
でも、ちょっと煙草吸い過ぎだった。あれじゃ、体に良くない。
そういやあ、痛々しいほどに、やたら吸ってた。
まるで自分の体をいじめているみたいに。
自分の存在が、姉の結婚式にとって災難みたいなもんだって自覚している証拠かもしれない。
災難・・・残酷なことばね。
そういう災難を回避するという意味では、やっぱり必要かもしれないな。
何が?
自主防災組織。
だから、そういう問題じゃないってば。



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ふたりが乗ったのは、都バス<品97系統>
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