【映画がはねたら、都バスに乗って】

映画が終わったら都バスにゆられ、2人で交わすたわいのないお喋り。それがささやかな贅沢ってもんです。(文責:ジョー)

「パッチギ! LOVE&PEACE」:兜町バス停付近の会話

2007-05-19 | ★東20系統(東京駅~錦糸町駅)

東京証券証券取引所かあ・・・。
戦後日本経済の心臓部ね。
でも、日本の高度成長の中で取り残されてきた人々もいるんだぜ。
例えば?
例えば、在日朝鮮人の人々とか。
井筒和幸監督の「パッチギ!」に出てきたような人たち?
ああ、朝鮮人少女と日本人高校生の愛を描いた「パッチギ!」。あの続編が「パッチギ!LOVE&PEACE」だ。
でも、続編っていうから、彼女と彼の恋の行く末を描いた映画かと思ったら、まったく別の映画だったんで驚いたわ。
「パッチギ!」の舞台は1968年の京都だが、「パッチギ!LOVE&PEACE」の舞台は1974年ごろの東京。「パッチギ!」の朝鮮人家族が東京に出てきたっていう設定だが、ほとんど前の映画とは関連のない話が展開するから純粋な続編とは言えないかもしれないな。
設定だけじゃないわ。前作は青春映画だったのに、今度はなんと、戦争映画じゃない。
そう、彼ら朝鮮人家族のルーツも同時進行で描かれるんだが、それがなんと戦時中の1944年、日本に徴用されかかった朝鮮人で、命からがら逃れた南太平洋でアメリカ軍の攻撃に遭って右へ左へ逃げ回る。国家に命じられた死よりかっこ悪く逃げ回ることを選ぶ。
明らかに朝鮮人の目線から、あの戦争での日本に批判を突きつける映画になっている。それに比べれば、前の映画は青春映画の形を取っているだけ、日本批判はまだオブラートに包まれていたわ。
そうだな。今回はそのオブラートがすっかり取れちゃった感じだ。佐藤元首相に関する発言とか、言いたいことはストレートに言ってやるっていう覚悟とエネルギーにあふれていた。
民族や戦争に対する視点もそうだけど、日本の映画会社がつくる戦争映画への批判もすごかったわよね。
「特攻隊員が命を犠牲にしたからいまの日本の繁栄がある」というテーマの映画を作ろうとする日本の映画人たちのエピソードがあるんだけど、それに対して「何アホ言うてんねん。死ぬなんて意味ない。逃げて逃げて逃げまくれ」と批判しまくっているような展開の映画だった。
「俺は、君のためにこそ死ににいく」のような映画への批判らしいんだが、それは観ていないからなんとも言えない。
でも、あなたの主催する最低映画鑑賞会の特選映画「男たちの大和」も同じような映画だったんじゃないの?
ああ、ああいう映画への批判だと考えると、溜飲が下がる思いだ。何度話したか知らないが、「男たちの大和」は大和の出撃は無駄死にだったっていう一番大事な点を巧妙にぼかしていた。戦争なんて無駄死にだっていう視点のない映画は、俺の心の中では最低映画鑑賞会推薦作品に分類せざるを得ない。井筒監督も同じような思いだと考えると一千万の味方を得たような気持ちだ。
だけど、井筒映画のトレードマークみたいになっていて、前作にも今回にもある、日本人と在日朝鮮人が入り乱れての乱闘シーンでは逃げ回る人間なんか一人もいなくて、明らかにその潔い態度を肯定しているのに、いざ、もっと規模の大きい戦争になったら尻尾を丸めて逃げろ、逃げろなんて、どこか矛盾してない?
全然してない。個人と個人の闘いと、国と国の戦いっていうのはまったく次元の違う話だ。個人の乱闘シーンは明らかに人と人のふれあいの一表現に位置付けされているが、戦争はただの殺し合いだ。その違いは監督の中でも映画を観てても明快だ。個人の乱闘シーンはどこか人間味に満ち、赤い血も体温を感じさせるあたたかな血だが、戦場での戦闘シーンは残酷一辺倒で、ここで映される赤い血は恐怖以外の何ものでもない。
その戦場のシーンもあまりにも本格的なんで目を見張ったわ。井筒監督って、人情映画専門じゃなかったの?
別に専門てことはないだろうが、この映画だって、一方で在日朝鮮人家族の人情話の部分は、前作にあった、猥雑であたたかな雰囲気をそのまま引き継いでいた。
その中で唯一、日本人役の藤井隆がいい雰囲気を出してるのよね。
彼は「カーテンコール」の幕間芸人もよかった。誠実な弱者をやらせるといま、彼にかなう者はいないかもしれないな。
そして最後には、在日朝鮮人家族のエピソードと戦争中のエピソードがみごとに一本につながっていくんだけど、このときのカットバックがすばらしい効果をあげている。
前作の「イムジン河」の歌をバックにしたカットバックと同じ構造だ。何かの雑誌で「ゴッドファーザーを思わせるカットバック」と絶賛されていたが、井筒監督は前作の成功で、明らかに味をしめた。
そういう意味では、映画の構造的にはたしかに続編と呼んでいいのかもしれないわね。
「LOVE&PEACE」というサブタイトルも当時の流行語を安易にそのまま付けただけだろうと思っていたら、そうじゃなかった。家族愛、同胞愛と平和について語った「LOVE&PEACE」としか言いようのない映画だった。
ところで、井筒監督自身は在日なの?
うーん、そこまでは知らないな。
東京証券取引所で聞いてみる?
何で?
あのマーク、見てよ。赤い血が飛び交って「パッチギ」つまり、頭突きを表わすマークみたいじゃない?
だから?
いや、だから、井筒監督のことわかるかも。
わからないと思うぜ。


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兜町バス停



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