元・還暦社労士の「ぼちぼち日記」

還暦をずっと前に迎えた(元)社労士の新たな挑戦!ボチボチとせこせこせず確実に、人生の価値を見出そうとするものです。

年5日の使用者の年次有給休暇付与義務は特別休暇・所定休日からの振替は認められるか。

2019-08-29 10:00:29 | 社会保険労務士
 厚生労働省Q&Aでは否定的ですが表現・言い方・ニュアンスの違いが見られるところ
 年次有給休暇(以下「年休」といいます)の取得がなかなか進まないことから、平成30年改正労働基準法によって、年休の付与日数が10日以上である労働者を対象に、年休の日数のうち年5日について、1年の間に使用者が時季を指定して必ず消化させなければならないことになりました。
 そこで、良く聞かれるのが、もともと休日や特別休暇であったものをこの新しい使用者時季指定である年休に振り替えられないかということです。厚生労働省の解説のQ&A<*>によると、次のようになっています。

 ①特別休暇について、今回の改正を契機に廃止し、年休に振り替えることは法改正の趣旨に沿わないものであるともに、労働者と合意することなく就業規則を変更することは特別休暇を振り替えた後の要件・効果が労働者にとって不利益を認められる場合は、就業規則の不利益変更法理に照らして合理的である必要があります。(厚労省・わかりやすい解説・Q&A Q6)
 ②「今回の法改正を契機に法定休日でない所定休日を労働日に変更し、当該労働日について、使用者が年休として時季指定することはできますか。」の問いに、「ご質問のような手法は、実質的に年休の取得の促進につながっておらず、望ましくないものです。」と答えている。(同解説Q&A Q7)

 特別休暇の年休への場合は、法改正の趣旨に沿わないとし(上記①)、所定休日の場合は、実質的に年休の取得促進につながっておらず望ましくないとして(上記②)、いずれも否定的な言い方になっていますが、違法かどうかまでの判断はしていません。<*1>しかし、①の特別休暇と②の所定休暇のそれぞれ年休への振替の場合は、否定的であるとはいえ、その表現に違いがあり、ニュアンスの差があると思われます。以下、それぞれについて、述べてみます。

 ①の特別休暇の年休への振替について 
 例えば、夏季休暇を例に考えてみます。確かに、夏季休暇をそっくりそのまま使用者時季指定である年休に振り替えることは、まったく振替前後で休暇日数は変わらないので、本来5日の使用者時季指定の年休が増えなければならないところ、法改正の趣旨に沿わないところは明らかです。しかし、特に夏季休暇等について3~5日の休暇としている事業所で、ぎりぎりのところで運用しているところでは、振替等を考えざるを得ないと思うところが出てくるのはいたしかないのかも知れません。特に夏季休暇について、5日以上与えているところでは、さらに使用者時季指定年休を5日与えなければならないのか、それでは酷であるとの議論も出てきそうです。労働契約法8条では、労使の合意により、労働条件を変更することができるとされているところであり、これによって、特別休暇を年休に振り替えることにすれば、形式的には使用者の年休付与義務はクリアーすることにはなります。<*2> 正確にいえば、労働契約法の労使の合意による契約変更を行うならば、強行法規、公序良俗違反とならない限り、その効力は形式的には有効であることになります。ただ、改正法が求めているのは、年休休暇の取得促進である点から考えると、この措置が適法あるいは妥当といえるかですが、具体的には会社のさまざまな諸事情を考慮して、この場合の契約変更が、労働契約法8条違反という公序良俗違反等に当たるかどうかということだと思われます。

 次に、労使の合意によることなく就業規則の変更によってのみ、契約変更=特別休暇の振替できるかですが、これは労働契約法10条の規定の適用になりますが、その不利益について、変更後の就業規則の労働者の周知と変更後の内容等が合理的である必要があります。年休は、目的や時季(夏季休暇とすれば夏季の一定の範囲という限定がある。)が限定しておらず、その点特別休暇よりも有利な面があります。そこで、特別休暇の振替は、有利な面もあり、休暇がより促進されることもあり「合理的」といえるかも知れません。しかし、一方で、年休は付与に全労働日の8割と言う出勤日数という条件があり、使用者に時季変更権があり不利な面もあります。このように一面では必ずしもメリットだけでない契約変更は、むしろ、労使で十分協議を行った上で行った方がより「合理的である」と捉えられることもあるでしょう。合理的であれば、振替を必ずしも否定的に捉える必要はなく、これを認めていい場合もあるように感じます。<*4>

 このように①の特別休暇については、Q&Aで述べるように、法の趣旨に合わないとしている一方で、不利益変更論理に照らして合理的等の要件を満たせば認めてもいいように受け取られます。法の趣旨にあわないことからすれば、いずれにしてもあまり当措置を行って欲しくはないとうかがえるところです。

 ②の所定休日の年休への振替について 
 次に、②の所定休日の振替<*3>(休日と年次有給休暇では次に述べるように意味合いが全く違い、「休日」について振替と呼べるかは疑問ですが、一応ここでは①に準じて「所定休日の振替」と呼びます。)ですが、この場合も、全く「休む」日数は、振替後も変わっておらず、労働者の年休取得にはつながっておらず、この年休取得は形式的に使用者時季指定にしたにすぎず、これこそ「望ましくない」ものです。この場合も、労働契約法8条により、労使の合意により契約変更を行うという「所定休日からの年休の変更」は、形式的には問題ないように捉えられるでしょう。 しかし、もともと休日は労働する日ではなく、休暇は、労働日なのに従業員の申し出により使用者が労働を免除するものであり、年次有給休暇=年休はこの休暇に当たります。よって、休日の年次有給休暇の振替は、もともと労働しない前提の休日を労働日にしてその労働日を免除するということなのです。したがって、これは意味合いが①の特別休暇の年休振替とは全く違い、端的にいえば、労働が免除されているとはいえ労働日が増えることになり、一定の月給与とすれば平均給与がさがることになりますし、時間外手当も減ることになりますので、労働者にとっては不利益以外のなにものではありません。まさに、今回の労基法改正によって年休取得の促進という意味からすれば、2重の意味で「望ましくない」ものです。しかし、ここは、労使の合意によって所定休日の振替を行うものであれば、契約法8条の適用の問題であり、強制法規、公序良俗違反とならない限りは、問題ないことにはなります。しかし、契約法8条については、労使の合意があっても、格差のある当事者間(使用者に比し労働者は弱い)の問題であり、特に年休消化をする労基法の改正規定に伴う契約変更であることから、裁判になれば慎重に判断されるものと思われます。

 ところで、このQ&A②(所定休日)においては、Q&A①(特別休暇)のように合意することなく就業規則のみによって変更を行う不利益変更法理(=労働契約法10条)には言及しておりません。これは、同じ休暇の振替である①の議論と違い、先ほどの休日と休暇の違いから、その判断要件である「合理的であるか」の判断については、非常に否定的に捉えられることから、遡上に挙げること自体を避けたのではないかとも受け取れます。労働契約法10条を使うのでなく、行うとすれば同法8条(不利益があっても労使の合意があればいいという。)の適用だということかも知れません。

 結論的に申し上げると、この所定休日からの振替は、趣旨からいって、全く望ましいものではなく、「望ましくない⇒行ってもらいたくない」という表現になっています。<*4> ①の特別休暇の年休への振替の場合に比べ、この所定休日の場合は、より認められるケースは少ないものと思われます。認められるケースはあるのかを探すのは困難ですが・・・<*5>

 <*>厚労省・労働局・労基署編 年5日の年次有給休暇の確実な取得・分かりやすい解説(2018・12)
 <*1> このQ&Aにおいては、労基法であれば厚労省に企業の指導監督権限があることから踏み込んだ議論展開となるところ、特別休暇や所定休日の年休への変更は、労働契約の変更となり、労働契約法(労働契約の民事的ルールであるため⇒)がからんでくるので、そこまで適法か否かのつっこんだ言い方にはなっていないと思われるところです。つまるところ、労働契約法関連については、具体的な事例があって初めて適法かどうかの司法判断がなされるものであると考えられます。
 <*2>ただし、労働契約法による労使の合意があっても、就業規則には規定しなければならないのはもちろんである。
 <*3>休日については、所定と法定を含めて、1日8時間、1週40時間とした場合、1週40時間しか働けないということから、計算上年間105日は休日を与えなければならないことになる。法定休日を含め休日は、この最低必要な日数は確保しなければならないので、所定休日の日数をぎりぎりにしていた場合には、所定休日から有給休暇への振替は、できないこともある。
 <*4>監督署が調査に来たときには、その理由等を聞かれ、場合によっては指導などがなられることがあるかも知れません。
 <*5>あまりにも所定の休日日数が多すぎて(そのため経営上うまくいかなくなった。)、今回の改正を機に、労使で十分協議した上で結論として、所定休日を減らしてこの使用者の指定義務の有給休暇を取る(所定休日の年休への振替)ようにしたとかは考えられるかも知れませんね。
 
 参考:就業規則モデル条文(中山慈夫著)p271~273 
    労働法第3版(有斐閣)荒木尚志著 P362~363
    人事労務の実務事典4=休日・休暇・労働時間(秀和システム)畑中義雄ほか著 section1・2 p46~
    ビジネスガイド5月号P42~ 4月号p44~ 岩崎仁弥著
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仕事は親子同様等依存ではなく共生。子供の頃愛情に満たされる必要性⇒なつぞら(114回)

2019-08-12 11:33:32 | 人間関係
「じいちゃん子」として育ったなつ=共に精神的成長(NHK朝ドラ・なつぞら)

 主人公なつ(広瀬すず)は、戦災孤児であったが、父の戦友の柴田剛男(藤木直人)の家に引き取られ、北海道の大自然の下でのびのびと育てられる。祖父とは、祖父(柴田泰樹・草刈正雄)が中心となって経営している「乳牛」の関係を通じて、いわゆる「じいちゃん子」として育つことになる。北海道開拓者であった祖父は、それゆえ頑固なところを持っていたが、なつの深い「思い」を感じながら、農協等みんなで協同で行うような寛容さを持つようになっていく。
 そのなつは、東京に出てアニメーターとして一人前になるが、その時演出助手をしていた坂場一久(中川大志)と知り合い、結婚することになる。

 なつ    じいちゃん、お世話になりました。
 じいちゃん ありがとうな
 なつ    ありがとうはおかしいでべさ。育ててくれたじいちゃんが・・
 じいちゃん わしもお前に育ててもろた。たくさんたくさん、オマエにもろた。
       ありがとう。ありがとう、なつ。 

 この場合はじいちゃんとの関係であるが、親子関係においても、同様に親が育てるばかりではなく、特に精神的には、子供が親を育てることだってある。その中で、親子共々成長していくものであろう。
 これを職場の上司との関係で言うと、小手先の技術的なものについては、上司の方が上回っているかも知れないが、アプローチ方法や精神的な考え方等において、お互いの「共生」関係の中で仕事を進めていくものであろう。
 そんな関係でないと、現在、よく言われているパワハラ、セクハラの類は起こり得ることになるのではないか。
 
 子供は精神的には一人の独立したものとして育たないといけない。親子がいびつな依存関係にあると、大人になっても、その依存関係から抜け切れず、社会に出ても、うまく適応できなくなり、職場でも依存した上下関係になる例があると思われる。下が依存関係になるだけでなく上もそうだが、逆にパワハラだって起こり得る。さらに、「劣等感」は、親子のいびつな依存関係の中で、主に植えつけられると言われる。それだけ、親子関係等は重要なのだ。

 また、誰からもよく思われたいというのは、それだけ愛に飢えており、それは小さいころ愛情欲求が満たされていなかったということであるという。子供の頃愛情と承認の欲求が十分満たされていれば、他人にどう思われているかは、それほど重要なことではないと思われるからだ。さらに、いつも他人から責められていると感じるのも、子供の頃「甘える」のを抑圧した結果それが他人に「投影」され、他人が責めてもいないのに、そう感じるという。(自分に気づく心理学 *1) よい親子等の関係であれば、社会に出ても職場のよい人間関係を築けていけるのだ。*1 

 *1 よい親子関係でなかったという人は、それに気づくことが必要であるが、まずそれに気づいていない例が多いという。そのため、自分の何が満たされなかったかということに気付ければそれで十分であるという。(参考 自分に気づく心理学 加藤諦三)
 



 
 

 

 
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