真夜中のドロップアウトカウボーイズ@別館
ピンク映画は観ただけ全部感想を書く、ひたすらに虚空を撃ち続ける無為。
 



 「やりたがる女4人」(2007/製作・配給:新東宝映画/監督:深町章/脚本:かわさきひろゆき/企画:福俵満/撮影:清水正二/編集:酒井正次/録音:シネキャビン/助監督:佐藤吏/監督助手:金沢勇大/撮影助手:種市祐介/照明応援:広瀬寛巳/選曲:梅沢身知子/スチール:津田一郎/現像:東映ラボ・テック/出演:里見瑤子・平沢里菜子・藍山みなみ・華沢レモン・なかみつせいじ)。
 暗い海の情景に被さる、作家(なかみつ)自身による小説なのか散文詩なのかよく判らない『セイレーンの歌声』の朗読。朗読の中身自体に特筆すべき点はないが、雲間に女の切れ長の瞳が堂々とした一直線に古臭いセンスで合成される映像には、それはそれとしての幻想が溢れる。絶妙な一筋の光明が、これも合成に依るものなのか、それとも実景として微笑みかけられた映画の神の祝福なのかは、他愛なくすらないプロジェク太上映の情けない画質では判別出来ず。
 秋の夜の作家と妻・依子(里見)の夫婦生活からカット明けると、海岸に骨壷を持ち現れた依子は喪服姿。作家は死に、依子は『セイレーンの歌声』中に遺された作家の意思に従ひ、遺灰を神島(三重県鳥羽市)を望む海岸に撒きに来たのだ。ここでの省略あるいは飛躍は、唐突でなければ些か粗雑か。兎も角、そこに携帯電話でマネージャーを罵倒しながら現れる黒いコートの女が。ステレオタイプに女優然とした落ち目の女優・冬子(平沢)は、作家とかつてパリへの不倫旅行で浮名を流し、巷間も騒がせた仲だつた。依子との夜の営みとはまるで趣向を違(たが)へた冬子と作家の一戦もこなしたところで、海岸に三人目の女が登場。黒いスーツ姿の、作家の秘書・葵(藍山)である。話が横道に逸れるが、といふか。最早あまりの威圧感に、横道ともいつてゐられない。「令嬢とメイド 監禁吸ひ尽くす」(2007/監督:渡邊元嗣/脚本:山崎浩治/主演:夏井亜美)・「欲しがる和服妻 くはへこむ」(脚本:後藤大輔/主演:葉月螢)二作の間―二月公開→六月公開―に持ち直したかに見えたのも束の間、再び上昇基調に転じた、藍山みなみの重量感は只事ではない。佐倉萌や最重時の谷川彩の貫禄は遙後方に通り過ぎ、元々背丈から違ふ原田なつみや紅蘭女王様の体の大きさをも凌駕せんばかりの勢ひである。この人は恐ろしく短い期間に、甚だしく目方が増減するのか。巨体もとい巨大なお世話だが、一体着る物はどうしてゐるのだらう。二の腕の逞しさなどは、体躯の貧しい小生なんぞは完全に引けをとつてしまふ。挙句に、葵も作家と関係を持つてゐたといふ第一の衝撃の事実が明らかになると、冬子からは半ば自嘲の意も込め、プレイボーイと謳はれた作家も落ちたものだ、“こんなチビタンクのメガネの秘書”と罵られる始末。“こんなチビタンク”、藍山みなみは開き直り路線を今後は展開するつもりか。この件には思はず、ビッグ・ファット・ママの伝説をも想起した。目隠し擬似強姦プレイに興じる葵と作家の絡みを挿みつつ、葵が更なる衝撃を依子と冬子に与へる第二の事実を明らかにしたところへ、最後の四人目の女、カジュアルではあれ黒い服に身を包んだ女子大生・奈緒(華沢)が三人の女達の前に現れる。作家の大ファンである奈緒は学祭で作家の講演会を企画し、その縁で当日夜、作家に抱かれてゐたのだ。
 最終的にお話を纏める段が些かならず甘いため、四人の女と一人の作家のエピソードが、有機的に連関してひとつの統一的な物語に完成を果たすことはなく、接ぎ足されるばかりの積み木細工のやうな一作である、といつた感想は否めない。とはいへ年末公開といふ次第で即ち正月映画としての、通常より一名多い女優を、しかも単に頭数だけの問題でなく、里見瑤子・平沢里菜子・藍山みなみ・華沢レモンと、それぞれの役柄に即した正しく理想的な布陣には大いに見応へがある。秋から冬へと移ろひつつある海岸に揃つた四大女優の佇まひを見てゐるだけで、実に豊かな映画的幸福に浸ることが出来る。物語の面白さがどうかうといふよりは、深町章と清水正二、大ベテラン二人の妙手による、味はひ深さを楽しむ映画ともいへよう。作家と四人の女達とのそれぞれの濡れ場を、何れも異なつた毛色で描いてみせる辺りも鮮やかである。いふまでもなく、それも名伯楽の要請に応へ得る、なかみつせいじあつての成果であるのは疑ひない
 豪華四大女優に関して補足すると、脚本の詰めの弱さに最終的には阻害されるにせよ、本妻としてのそれを体現する里見瑤子の安定感。高飛車で攻撃的な女優像を快演する、平沢里菜子のエッジの効いた持ちキャラ。本妻、幾多の愛人の中でもメイン級、職業者としての作家の最も近くに居た女、らの前に現れる華沢レモンの、飄々としながらも物語の鍵を孕んだ存在感。構図的には最後に登場する奈緒が、それまでの三人の女を向かうに回す形になるので、里見瑤子・平沢里菜子・藍山みなみらを相手に一対三で堂々と渡り合ふ、林由美香亡き後の“最強のピンク五番打者”華沢レモンの確かな地力が光る。野球でいふところのクリーンナップ・トリオ概念を理想的に体現した、奈緒役に華沢レモンを当てた配役が、四女優の華麗なる共演の中でも一際目立つ。

 そして何よりも現象論レベルで目につくのは、兎にも角にも矢張り全てをなぎ倒す藍山みなみの重量感全盛期の藍山みなみは、今作の葵を着ぐるみとして中にスッポリ納まつてしまひさうな感すら漂ふ。


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