元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ラッシュ/プライドと友情」

2014-03-19 06:28:46 | 映画の感想(ら行)

 (原題:Rush)ロン・ハワード監督らしい実録映画である。展開は精緻を極め、映像は練り上げられ、俳優の動かし方には淀みは無い。しかし、この監督の作品のほとんどがそうであるように、見終わっての印象は希薄だ。有り体に言ってしまえば、本作から得られたのは“こういう人物達が実在していた”という単発的な知識のみである。

 70年代、フェラーリに所属するニキ・ラウダとマクラーレン・チームに籍を置くジェームズ・ハントは、F1で熾烈なライバル争いを繰り広げていた。ところが、76年のドイツ・グランプリにおいてシーズン首位を走っていたラウダは大事故に遭遇してしまう。奇跡的に命は助かるが、生死の境をさ迷い続け、誰もが再起不能と思っていた。

 しかし、何とそれからわずか6週間後にレースに復帰。猛追するハントとの首位争いは、シリーズ最終戦の日本グランプリに持ち越される。奇しくもドイツ大会と同様の豪雨で、コンディションは最悪。果たしていかなる結末が待っているのか。

 ストイックな姿勢でレースに打ち込むラウダと、酒と女が大好きな陽気な男ハント。対照的ながらドライビングの腕は共にピカイチだ。そんな二人が互いに競い合うという筋書きだから映画の方も熱く盛り上がって当然だと思うのだが、実際はそうならない。

 断っておくが、何も“撮り方がヘタだからドラマに引き込まれない”ということではないのだ。二人のバトルは実にきめ細かく展開が練り上げられていて、またエピソードの積み上げ方に手抜かりは無い。並の映画とは一線を画す、巧みな作劇だと言える。ところが、映画が精密さを増すほど、観る側が受けるパッションは減少するのだ。

 主人公達の性格をあらわす各モチーフも、まさに“こういうキャラクターだから、こんな見せ方をしてみました”というような、過度に作り込まれた演出の底が見えてしまうような、そんな印象を受けてしまう。

 もっとも、ハワード監督の作品はいずれもそうであり、数少ない例外といえばアカデミー賞を獲得した「ビューティフル・マインド」ぐらいだ。あの映画はラッセル・クロウをはじめとするキャストが怜悧な演出を押しのけるほどの存在感を発揮していたため、目覚ましい求心力があった。対してこの「ラッシュ」には、ハワード演出を打ち負かすほどの面子は出ていない。ハントを演じるクリス・ヘムズワースも、ラウダ役のダニエル・ブリュールも、線が細い。

 映像はさすがに良く出来ていて、特にレース場面の迫力たるや相当のものだ。ハンス・ジマーの音楽も万全。しかしながら、いつものハワード作品と同様、諸手を挙げての高評価は差し控えたい。

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