元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ブルージャスミン」

2014-05-19 06:23:08 | 映画の感想(は行)

 (原題:Blue Jasmine)とても面白かった。悲惨な話なのだが、笑いが絶えない。その笑いはもちろん表面的なものではなく、対象を冷徹に“分析”した上で、そのチグハグさを滑稽な形で提示しようという、高度な技巧から来るものだ。それを易々とやってのけるウディ・アレン御大の腕前は、年を重ねてますます磨かれていると言って良い。

 主人公ジャスミンは投資会社を経営している実業家の夫とニューヨークでセレブな生活を送っていた。しかし、旦那のやらかした不正取引によって結婚生活は破綻。資産もすべて抵当に入り、無一文の状態でサンフランシスコに住む妹ジンジャーの家に身を寄せる。ところが決して裕福では無い妹の厄介になっているにもかかわらず、ジャスミンはセレブ気分が抜けきらない。周囲は一応気を遣ってくれるものの、慣れない環境で精神的に参ってしまうような毎日だ。

 そんな時、彼女はあるパーティで資産家である独身男性のドワイトと知り合う。彼は外交官で、近い将来政界に進出しようと考えている野心家。ドワイトこそが自分を“あるべき場所”にカムバックさせてくれる人物だと思い込んだジャスミンは、自分の身の上について嘘を並べてしまう。

 これは単に“勘違いした元セレブ女が身の程をわきまえずにヘタ打った”という底の浅い話ではない。彼女がメンタル面で追い詰められていくのは、ジンジャー達とのぎこちない関係や今までとは勝手が違う西海岸の風土のせいではないのだ。ニューヨークで夫と優雅な生活を送っていた頃から、内面的に万全な状態とは言い難かった、それどころか、子供の頃から本当の愛情に恵まれず、他人とまともにコミュニケーションを取る能力が欠如していることが示される。

 映画はサンフランシスコでの不遇な日々と、ニューヨークの一見リッチな生活とを交互に見せるが、その手法がヒロインのニューロティックな中身の描写を容赦無いものにしていることに感心する。同時に彼女を取り巻く連中の品位の無さも強調しているが、そんな彼らの噂話や当てこすり等に対して全く“免疫”を持ち合わせておらず、知らぬ間に孤立しているジャスミンの姿は悲しい。

 しかし、そういう認識のズレを一歩も二歩も退いた地点から眺めて“笑い”に転化させてしまう作者の力量には恐れ入るばかりだ。皆から理解されない主人公も、小市民的なメンタリティから一歩も出ることが無い周りの者達も、離れて見れば“同じ穴の狢”なのだ。突き放したような終盤の展開も、むべなるかなと思わせる。

 主演のケイト・ブランシェットは絶好調。演じててさぞや気持ちが良かったろう。ジンジャーに扮するサリー・ホーキンスや、ピーター・サースガード、アレック・ボールドウィンといった脇のメンバーも良い仕事をしている。ハビエル・アギーレサロベのカメラによる風光明媚なサンフランシスコの街の描写や、古いジャズを活かした音楽も要チェックだ。

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