元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「鉛の時代」

2020-05-17 06:57:40 | 映画の感想(な行)
 (原題:Die Bleierne Zeit )81年西ドイツ作品。題名通り、暗く重々しいタッチの映画だが、力強い内容で惹き付けられてしまう。戦争の後遺症から抜け出せず、先の見えない70年代までのドイツの状況を活写しながら、次の時代に託すメッセージをも感じさせる。第38回ヴェネツィア国際映画祭にて大賞を獲得しているが、それも納得だ。

 ユリアンネとマリアンネの姉妹は戦時中に牧師の家庭に生まれ、鉛の時代といわれた1950年代を経て、次第に社会に対する疑問を持つようになる。長じてマリアンネはテロリストのグループに入り、実力行使によって社会を変えようとする。一方ユリアンネは、女性雑誌の編集委員として働いていた。70年代になりドイツ赤軍と当局側との対立が増す中、マリアンネは逮捕され獄中死する。



 自殺とされていたが、その発表に疑問を抱いたユリアンネは、妹が残した息子を引き取ると共に、死因を究明し始める。77年に獄中で没した過激派のメンバーであるグードルーン・エンスリンと、その姉でジャーナリストのクリスチーネ・エンスリンをモデルにした実録物だ。

 本作は、マリアンネとその仲間たちの政治的主張や、当局側の思惑などのポリティカルなモチーフは扱っていない。性格は違うが仲の良かった姉妹が決別し、妹の死後にやっと姉はその背景を知るという、つまりは社会体制が人間関係を蝕む様子こそがこの映画の眼目だ。マリアンネは自身の“戦い”のみが正当性を持つと信じ込み、それに与しない周囲の状況の方が間違いだと思っている。

 言うまでもなくそんな考え方は真実ではないが、幼少時からの体験とそれを強いた社会状況が彼女の主張の背景にある。皮肉にも、その構図をユリアンネが知るのは妹が死んでからだ。そうじゃなかったら、姉にとってマリアンネは頑迷な反社会分子としか思っていなかっただろう。姉妹の思いはマリアンネの遺児の世代に受け継がれ、やがて(映画製作当時は誰も予想していなかった)89年の冷戦終結へと繋がっていく。

 マルガレーテ・フォン・トロッタの演出は曖昧な部分が無く、テーマに対してストレートに切り込んでゆく。彼女にとっては「三人姉妹」(88年)と並ぶ代表作だと思う。主役のユタ・ランペとバーバラ・スコヴァは好演。フランツ・ラートのカメラワーク、ニコラス・エコノモウの音楽、共に及第点である。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「不能犯」 | トップ | 「タイラー・レイク 命の奪還」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(な行)」カテゴリの最新記事