元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ハンサム★スーツ」

2008-11-28 06:35:53 | 映画の感想(は行)

 本作の最大の見どころは、食堂を営む主人公が買い出しを終え、器量はイマイチながら働き者の女性アルバイトと一緒に店に戻るシークエンスだ。彼女の提案で、街を行き交う人々の“幸せそうな表情”をカメラに収めつつ帰宅することになる。すると、それまで個々人にとって単なる“街の風景”でしかなかった通行人たちが、それぞれ哀歓を持った“血の通うキャラクター”へと変貌してしまう。

 考えてみれば当たり前なのだ。人間は記号ではなく皆プライベートな生活があり、日々のちょっとしたことに対して幸福感を覚えつつ生きている。たとえば美味しいものを食べたとき、仕事が上手くいったとき、人から少し親切にされたときetc.たぶん本人たちもそれが特別な“幸福”だとは気付かないはず。しかしそれ無しには絶対生きられない。観る者に“ちょっと立ち止まって周りを見てみよう。人生、そんなに捨てたものではない”とのポジティヴなメッセージを無理なく送る、作者の志の高さ(?)みたいなものが感じられて気持ちが良い。

 さて、以上のような主題のツボとも言えるモチーフをモノにしておけば、あとは内容が荒唐無稽だろうと許せてしまうのだ。着るだけでハンサムになれるスーツを手にした冴えない男がスーパーモデルに変身し、願望を現実のものにするため大騒動を繰り広げるお笑い編も、結局“人間、外見だけではない”という肯定的なスタンスを愚直なまでに貫いている限り、決して悪ふざけにはなっていない。

 塚地武雅の“ハンサム・スーツの着用後”を演じている谷原章介は絶好調。「ラブ★コン」に続いてのおちゃらけキャラクターが完全に板に付いてきたようだ。こういう平面的な二枚目(?)は得てしてスクリーン上に登場すると退屈に感じられがちなのだが、彼はプライドを捨てて三枚目に徹しているあたりが好感度が高い(笑)。

 脇に控える中条きよしや伊武雅刀、温水洋一といった濃い面々が持ち味発揮。ヒロイン役の北川景子は本当にカワイイし、佐田真由美や大島美幸(←儲け役 ^^;)、本上まなみら女優陣も適材適所だ。さらに意外なゲスト連中が意外なところに登場してくるのも楽しい。

 英勉の演出はテンポが良く、独特のカラフルな色彩感覚と書き割りみたいなキッチュな舞台セットのアピール度で、冗長になりそうな部分も巧みに切り抜けている。渡辺美里が歌う「マイ・レボリューション」をはじめとする80年代の流行歌も効果的。エンドロールの終わりまで興趣が尽きない快作だ。

コメント    この記事についてブログを書く
  • Twitterでシェアする
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 「マグノリアの花たち」 | トップ | 「シンドラーのリスト」 »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

映画の感想(は行)」カテゴリの最新記事