元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「恋するマドリ」

2007-09-06 06:49:07 | 映画の感想(か行)

 アパートの上階に住んでいる若い男の元・彼女は、ヒロイン新たに入居した部屋にかつて住んでいて、その元・彼女はヒロインが前に住んでいた家に引っ越している・・・・という、呆れるような御都合主義が発端になって展開するラブコメディだが、観た印象は決して悪くない。それどころか全編にわたって心地良い雰囲気を味わえてしまう。

 これが監督デビューで脚本もこなしている大九明子は、クサさ満点の設定を力ずくで観客に納得させるべく大仰な仕掛けに走って・・・・は決していない(笑)。その代わり、日常よりホンの少しズレたモチーフを周囲から徐々にちりばめ、ドラマを“完全な絵空事”にしないように、いわば搦め手から攻めてくる。

 主人公が美大生であることからファンシーな小物やインテリアで作品のカラーの“ツカミ”を披露したあと、彼氏は近畿の山師の息子で農水省の客員研究スタッフという、これまた浮世離れした設定。彼氏の元・彼女はインドに傾倒している建築士。隣の部屋は小唄の師匠で、極めつけはコメディ・リリーフとして登場するプロレスラー兼業の運送屋連中だ。それらをあからさまな強調感で画面に横溢させるのではなく、腹八分目に抑制されたユーモアで小出しにしてくるあたりは上手いと思う。

 ヒロインたちがよく口にする“椅子もニッコリ、夕陽もニッコリ、私もニッコリ・・・・”といった決め台詞は単に語感の可愛らしさを狙っただけではなく、確実にドラマ運びにリズムを持たせて盛り上げる機能がある。そして岡部淳也によるタイトルバックとエンディングのアニメーションが抜群の効果だ。

 これが映画初出演となる主演の新垣結衣は素直な個性で好感触。本当に最近の若手女優陣(22歳以下)の充実ぶりには嬉しくなる。彼氏役の松田龍平は今回は気の良い青年役に徹して悪くないし、元・彼女に扮する菊地凛子は今までの出演作の中で一番納得できるパフォーマンス。案外こういう肩に力の入っていない自然体の役柄の方が彼女の資質に合っているのではないかと思った。

 見ようによってはサラサラと流れる環境ビデオみたいな作品なのであるが、この手触りの良さと温かさは捨てがたい。観る価値はあると思う。

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