元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「ミラクル7号」

2008-07-03 06:52:28 | 映画の感想(ま行)

 (原題:長江七號)チャウ・シンチーの転機になると思われる作品だ。彼もすでに40歳代後半。今までのように脳天気なアンちゃんを演じ続けるのはキツイだろう。本作の主役は宇宙から来た謎の生物と仲良くなる小学生で、チャウ・シンチーはその父親役、いわば脇に回っている。おバカなギャグは息子とその周囲の連中に任せ、自分はしっかりとした“大人”の役回りに徹している。

 とはいえ、この父親の設定はいささか常軌を逸している(笑)。廃墟のような家に住み、学歴もスキルもなく、妻はいない(先立たれたのか、あるいは出て行ったのか、説明はない)。工事現場で働いて日銭を稼いでいる境遇にありながら、息子を私立の名門小学校に通わせている。学のない自分だが、せめて子供には良い教育を受けさせてやりたいという親心であろう。

 しかし、どう考えても無理なシチュエーションで、これが終盤近くの事故に繋がるのだが、あまり違和感を覚えないのはチャウのキャラクターと一番大事な役作りの勘所を押さえているためである。それは、彼らが極度の貧乏でありながら健全な親子関係をしっかりと維持している点だ。息子は父の立場を理解し、どんなにイジメられようが意地になって学校に通い続ける。そして“しっかりと勉強して世の中の役に立つ人間になれ”という父の薫陶を正面から受け止めている。

 もちろん、息子は子供なりの狡猾さや我が侭さを見せ、父親や教師を困らせる。特に玩具店でオモチャの犬を買ってくれと父にせがむ場面は、前半のハイライトだ。息子はいじめっ子の金持ちの御曹司がこのオモチャの犬(ミラクル1号)を皆に見せびらかして自慢しているのが羨ましくてたまらない。でも、そんなものを買ってもらえる可能性はゼロだということも知っている。しかし、父親に自分の気持ちを伝えずにはおられない。一歩間違えればヒネたガキと頑迷な親との掴み合いのような殺伐とした展開になるところだが、観ていて切ない感動を受けるのは、内面描写を怠らなかった作者の手柄だろう。

 さて、犬のような姿になる緑色の宇宙生命体「ミラクル7号」は、この映画では“オマケ”に過ぎない。可愛いけど役立たずで、時によって主人公の足を引っ張ったりする困りもの。もちろんラスト近くには“大活躍”を見せるのだが、スペクタキュラーなシーンとはほど遠い。

 でも考えてみればこれでいいのかもしれない。非日常的な異分子により主人公達が良い方向に変わってゆくという設定ならば、それがいなくなれば元の木阿弥だ。対して本作は、宇宙生命体を主人公達のドラマの小道具として扱っているだけ。SF・ファンタジー映画のマニアにとっては物足りないかもしれないが、これはこれで理性的な作劇である。男女逆転のキャスティングなど、相変わらずクサイ仕掛けで迫るチャウ監督だが、土台がしっかりしているので、笑って済ましてしまう。観る価値有り。

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