元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「アメリカン・ミー」

2011-07-21 06:40:46 | 映画の感想(あ行)
 (原題:American me )92年作品。ラテン系住民が多いイースト・ロスアンジェルス。主人公・サンタナは青春時代の大半を刑務所内で送っていた。彼は生き延びるために仲間たちを組織し、刑務所内を支配する。やがてその勢力は街全体を牛耳る“メキシカン・マフィア”にまで成長するが、その反面彼の周辺は暴力や犯罪、ドラッグに蝕まれていく。

 俳優エドワード・ジェイムズ・オルモスの監督第一作であり、自身も主演している。オルモスといえば華やかさはないが、渋い脇役や悪役には定評のある役者である(有名なところでは「ブレードランナー」での“折り紙”の上手い捜査官など)。監督については未知数であり、観る前は不安だったが、鑑賞後はこの演出力はただものではないと感じた。



 ハリウッド映画が愛や友情、信頼と思いやりなどを数多くテーマにとりあげたところで、ダウンタウンの片隅では今日も凶悪な犯罪が横行していることに変わりはない。スパイク・リーやジョン・シングルトンら黒人の映画作家は、この現実を以前は激しく糾弾した。ただ、彼らが現象をマスでとらえ、テーマが総花的に拡散していく傾向にあったのに対し、主人公と同じラテン系アメリカ人のオルモス監督は、このサンタナという人物を徹底してミクロ的に描き出す。なぜ彼が悪の道に入ったか、彼がどういう性格でいつも何を考えているか、やがて組織が彼の手に余るほど大きくなり、暴走を始めるまで、カメラは冷徹に主人公をとらえて放さない。

 全体の中でかなりの部分を占める刑務所内の場面が圧巻である。事前に囚人たちに綿密な取材をおこなった上、有名なフォルサム刑務所で実際の囚人たちを交えて2週間にわたって敢行された撮影は、十分すぎるほどの効果をあげている。そして主人公を演じるオルモス自身の圧倒的な存在感。「ゴッドファーザー」に肉迫するほどのヴォルテージの高さだ。ショッキングなラストシーンを含めて、観て損はない犯罪ドラマだと思う。

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