元・副会長のCinema Days

映画の感想文を中心に、好き勝手なことを語っていきます。

「グランド・ブダペスト・ホテル」

2015-03-23 06:30:03 | 映画の感想(か行)

 (原題:The Grand Budapest Hotel)上映時間が長すぎる。100分という時間だけを聞けば殊更長いようには思えないが(それどころか、昨今のハリウッド製娯楽映画なんかと比べれば短い方だ)、こういうキッチュなエクステリアを持ったシャシンはボロの出ない間にサッと切り上げるのが鉄則。1時間以内にまとめるのが望ましい。不必要にストーリーを盛って尺を長くすると、観る側の視点が物語の側に寄ってしまい、フットワークが重くなる。ましてや筋書きが大して面白くないこの映画では、致命的だ。

 1930年代、東欧の仮想の国ズブロフカにある名門ホテルのコンシェルジュであるグスタヴ・Hは、宿泊客に対するキメ細かなサービス(夜の相手も含める)で評判を博していた。その日もお得意様の一人である老女マダム・Dと一夜を共にするが、間もなく彼女は何者かに殺されてしまう。

 マダムは高価な絵をグスタヴに譲るつもりだったが、彼女の息子ドミトリーはグスタヴに母を殺した罪を着せ、絵を我が物にしようとしていた。グスタヴは絵を奪われないように、ベルボーイのゼロ・ムスタファと共にヨーロッパ中を飛び回ることになる。

 ウェス・アンダーソン監督の作品は初めて観るが、映像センスは噂通りに個性が強い。紙芝居のような舞台背景、書き割りのようなセット、左右対称に拘った構図、こってりとした色使いetc.そんな奥行き感がゼロの画面の中で、登場人物達は大昔のサイレント喜劇のような大仰な身振り手振りで動き回る。そしてオフビートな音楽とシンクロした映像展開が、独自の興趣を呼び込む。

 とにかく観る者の目を奪うようなヴィジュアル的仕掛けが満載なのだが、困ったことに、それだけでは1時間40分も保たせられない。ハッキリ言って、映像ギミックの連続では30分もすれば飽きてくる。やはり話自体に求心力が無いと劇映画としての体を成さないのだ。ならば本作のストーリーはどうかというと、これがどうも心許ない。

 そもそも時制を3つもセッティングする必要があったのか。話がややこしくなるだけで、軽快であるはずの映像リズムも鈍ってしまう。プロットも練られておらず、行き当たりばったりに進むかと思うとヘンなところで意外性を強調していて、シラける場面に何度も遭遇してしまった。観終わっても、カタルシスのカケラも無い。

 主演のレイフ・ファインズをはじめ、F・マーレイ・エイブラハムやエイドリアン・ブロディ、ウィレム・デフォー、ハーヴェイ・カイテル、ジュード・ロウ、ビル・マーレイ、エドワード・ノートン、ティルダ・スウィントン等、キャストは凄く豪華だ。この監督の人脈の広さは確認出来るが、ただの“顔見世興行”にしかなっていないのが辛い。要するに“映像が面白ければそれだけで満足”という観客以外には奨められない映画だ。
コメント
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