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1/19(水)JTアートホール室内楽/河村尚子の室内楽/瑞々しい感性が溢れんばかりの煌めく音の数々

2011年01月21日 01時28分07秒 | クラシックコンサート
JTアートホール室内楽シリーズ/河村尚子の室内楽

2011年1月19日(水)19:00~ JTアートホールアフィニス 指定 5列 4番 3,000円
ピアノ: 河村尚子
ヴァイオリン: 佐藤俊介
ヴァイオリン: 米元響子
ヴィオラ: 鈴木康浩
チェロ: 山本裕康
コントラバス: 吉田 秀
【曲目】
ジョン・フィールド: ピアノ五重奏曲 変イ長調
M.I.グリンカ: 大六重奏曲 変ホ長調
F.シューベルト: 五重奏曲 イ長調 作品114 D.667「ます」
《アンコール》メンデルスゾーン:「六重奏曲」より第3楽章

 JT(日本たばこ産業)が主催する室内楽シリーズ。日本の一流アーティストがテーマを決めて室内楽のコンサートをプロデュースする人気のシリーズだ。私はタバコを吸わないので、JTさんとはまったく縁がない暮らしをしているし、室内楽という分野もあまり得意ではないのだが、このシリーズは出演者が粒ぞろいで、時々どうしても聴きたくなるコンサートがある。今日もそのひとつだ。
 今、一番注目して追いかけているピアニスト、河村尚子さんが室内楽をプロデュースするという。リサイタルや協奏曲の演奏で、彼女のキャラクターが描き出す音楽は、聴く者を楽しませ、幸せな気分にしてくれる。音楽の喜びを純粋に伝えてくれる数少ないピアニストのひとりだと思う。彼女の呼びかけで集まった5人のメンバーの何と豪華なことか。ヴァイオリンの佐藤俊介さん(1984年生まれ)と米元響子さん(1984年生まれ)はソリストとして活躍するヨーロッパ在住組。1981年生まれの河村さんとは同世代で、ヨーロッパに活動の拠点を置いているのも共通している。そして、ヴィオラの鈴木康浩さんは読響の主席、チェロの山本裕康さんは神奈川フィルの主席、コントラバスの吉田秀さんはN響の主席。これ以上ないという素晴らしいメンバーだけに期待がどんどん膨らんでゆく。
 そして曲目がまた面白い。プログラムに寄せた河村さんのメッセージにも書かれていたが、前半の2曲はかなりマイナー(無名)だが曲自体はメジャー(長調)。後半の「ます」はメジャー(有名)で曲もメジャー(長調)。河村さんはこういう洒落っ気のある人で、彼女の経歴を追いかけていくと、ときどきこういう洒落た表現にぶつかることがある。


上段左からピアノの河村尚子さん・ヴァイオリンの佐藤俊介さん・米元響子さん
下段左からヴィオラの鈴木康浩さん・チェロの山本裕康さん・コントラバスの吉田 秀さん

 1曲目、ジョン・フィールドのピアノ五重奏曲。確かにマイナーな曲だ。1815年の作で、アイルランド生まれのフィールドがロシアに在住している間に作曲された。曲想は。瑞々しさ溢れる抒情的な旋律に彩られたロマン派のとても美しい曲だ。10分ちょっとの単一楽章の小品。ヴァイオリンとピアノで主に演奏されるアンダンテの旋律が限りなく美しい。今日の演奏は、米元さんが第一、佐藤さんが第二を務め、ヴィオラとチェロを加えたピアノ五重奏だ。特徴的だったのは、二人のヴァイオリンが繊細かつ艶のあるとてもキレイな音色で、絶妙のハーモニーを聴かせてくれたこと。ロマンティックな曲想だけに、若い2人の感性が麗しく発揮されて素晴らしかった。ピアノの河村さんは、相変わらずキラキラした音が丸く煌めき、美しい演奏を聴かせてくれた。ただ残念だったのは、天井の高くない会場のせいもあると思うが、ピアノの音がややくぐもった感じがしてしまったことか。
 2曲目はコントラバスの吉田さんが加わり、グリンカの六重奏。グリンカといえば、オペラ好きに取っては『ルスランとリュドミラ』くらいしか思い出せない。オーケストラ・ファンにも序曲はお馴染みだ。だがもちろん、今日の「大六重奏曲」なんて聴いたこともないし、そんな曲の存在さえ知らなかった。本当にマイナーな曲である。グリンカといえばロシア国民楽派的なイメージが強いが、ロシア滞在中のジョン・フィールドに師事してヨーロッパ音楽を学び、その後ヨーロッパを旅してイタリアに滞在していた1832年にこの曲を作曲したという。フィールドからのつながりで選曲されたのか、この曲も非常に抒情的な美しい旋律に満ちた素晴らしい曲だ。曲は、急-緩-急の3つの楽章から成り、演奏時間は30分に及ぶ大曲。六重奏という、演奏機会の少ない構成のせいもあるのだろうが、何度でも聴きたくなる、とても親しみやすい曲なので、もっと世に出してほしい曲だと思った。今日の演奏では、まずコントラバスが加わるだけで五重奏とはぜんぜん違った音の厚みが増すことに驚かされた。各パートが交互に主題旋律を受け持ち、美しい弦楽五重奏に協奏的にピアノが絡んでくる。今日にように、3人のソリストと3人の首席奏者という、いわばかなりハイレベルのセッションだけに、それぞれの持ち味が十分に発揮されて、とても美しい演奏になった。この曲を次に聴けるのはいつになるだろうか。録音された音源などもほとんどないようなので、もし「大六重奏曲」の名を演奏会のプログラムで見付けたら、ぜひとみ聴きに行ってほしいと思う。

 後半は、シューベルトの「ます」。こちらは思いっきりメジャーな曲。有名な主題を聴いたことのない人もいないだろう。曲の説明は必要ないだろうから、演奏について振り返ってみたい。ピアノ五重奏でヴァイオリンは1名になるので、米元さんが抜けて、佐藤さんがコンマス(?)となる。前半の2曲と違って、5人ともこれまで何度も演奏機会があっただろうと思われるので、ある意味、余裕が感じられ、お互いの主張と協調が見事に発揮されて、ライブ感満点の演奏だった。おそらく初めて集まったメンバーで、お互いの探り合いと、主張と、アイデアの出し合いと、実験的な取り組みと、本番セッションでのひらめきと…。様々な要素が混ざり合って、ステージ上に飛び交っていた。とくに若い河村さんと佐藤さんの息のあったアンサンブルと瑞々しい感性には圧倒された(この2人はデュオ・リサイタルを何度も開催している)。彼らに引っ張られる形で、鈴木さん、山本さん、吉田さんも非常に若々しい演奏となった。第1楽章・第3楽章の弾けるようなリズム感。緩徐楽章の優雅な響き。第4楽章の主題の室内楽的なアンサンブルの美しさ。終楽章のセッションの楽しさ。様々な色彩がステージからあふれ出て、会場を満たしていく。至福の時だった。何十年も一緒に演奏している固定メンバーの室内楽と違って、今日のような才能溢れる演奏家たちのセッションは、とても刺激的だ。何よりも、演奏中のメンバーが実に楽しそうにやっている。お互いの演奏への尊敬と信頼を前提として、それぞれの解釈を持ち出してくる。それがアイコンタクトでピタリと決まると、皆、にっこり。演奏することが楽しくてしょうがない、その気持ちがダイレクトに伝わってきて、聴いている者も皆、にっこり。
 アンコールは、米元さんも加えて6名でメンデルスゾーンの六重奏曲。やはりピアノ六重奏というのは珍しいから、この曲も本来なら今日のプログラムにくわえられても良い曲だ。

 今日のコンサートは、若くて才能に満ちた演奏家が集まって、本当に素晴らしく、楽しさいっぱいの演奏だった。マイナーな前半の2曲は若い演奏家たちにぴったりの抒情的で瑞々しい曲で、室内楽の美しさを堪能させていただいた。後半の「ます」では、セッションの楽しさ、才能のヒラメキ合いが音楽を聴く喜びを改めて感じさせてくれた。このような素晴らしい室内楽のコンサートをプロデュースした河村尚子さんにBrava!! 

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