Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

6/10(土)女神との出逢い/森 麻季&横山幸雄/冴え渡るピアノに定番の曲も一段と魅力を増して

2017年06月10日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
土曜ソワレシリーズ/女神たちとの出逢い
森 麻季&横山幸雄 デュオ・リサイタル


2017年9月10日(土)17:00~ フィリアホール S席 1階 1列 9番 5,500円(シリーズセット券)
ソプラノ:森 麻季
ピアノ:横山幸雄*
【曲目】
グノー:歌劇『ファウスト』より「宝石の歌」
J.S.バッハ/グノー:アヴェ・マリア
横山幸雄:アヴェ・マリア〜バッハ/グノーの主題による即興*
越谷達之助:初恋
山田耕筰:からたちの花
ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ 作品22*
デュパルク:旅への誘い/悲しき歌/フィディレ
ラヴェル:亡き王女のためのパヴァーヌ*
シューマン/リスト編:献呈 S566/R253*
リスト:ヴェルディの歌劇『リゴレット』による演奏会用パラフレーズ S434/R267*
グノー:歌劇『ロメオとジュリエット』より「私は夢に生きたい」
《アンコール》
 プッチーニ:歌劇『ラ・ボエーム』より「私が街を歩くと」(ムゼッタのワルツ)
 プッチーニ:歌劇『ジャンニ・スキッキ』より「私のお父さん」
(*はピアノ・ソロ)

 横浜市青葉区にあるフィリアホールの主催による「女神たちとの出逢い」シリーズは、今期(2017年前期)は今日が初回。今期も素敵な女神〈ミューズ〉たちによる公演は魅力がいっぱいで目が離せない。
 今期の初回は、お馴染みのソプラノの森 麻季さんがピアノの横山幸雄さんと共演するという、ちょっと珍しい組み合わせだ。麻季さんのリサイタルは数多く聴いているが、横山さんとの共演は初めて聴くものである。一般的には、声楽家のリサイタルの場合はピアノはあくまで伴奏だが、まさか横山さんのクラスのピアニストに伴奏をさせるだけというのはあり得ない。だから今日は、ソプラノとピアノのデュオ・リサイタルということになり、小品が多いとはいえピアノの独奏が5曲もあった。

 実際のプログラムにはお馴染みの曲がズラリと並んでいる。まずは、麻季さんが歌う曲を見ていくと、プログラムの前半はグノーの「宝石の歌」、バッハ/グノーの「アヴェ・マリア」、越谷達之助の「初恋」、山田耕筰の「からたちの花」というまさに定番曲。後半はちょっと珍しいデュパルクの歌曲を3曲「旅への誘い」「悲しき歌」「フィディレ」、最後はグノーの「私は夢に生きたい」でこちらも定番曲。アンコールは「ムゼッタのワルツ」と「私のおとうさん 」でこちらはアンコールの定番。というわけで、デュパルク以外はほとんど毎回聴いているような曲ばかりなので新鮮味が無いといってしまえばそれまでなのである。ところが、やはり音楽は生き物で、一期一会の面白さがあることも確か。いつも聴いているからこそ、いつもと違うところも感じ取れるのかもしれない。
 フィリアホールはわずか500席の小ホールだが、2階のバルコニー席がぐるりと3方を巻いているくらいだから天上が高く、柔らかくクリアな音響が素晴らしいホールなのである。こぢんまりとしたホールで濁りのない残響があるので、声楽家やピアニストのリサイタルの際でも大きな音量はあまり必要としない。それでもとてもキレイに聞こえるのである。

 今日の麻季さんは声量を抑え気味にして、むしろ情感に訴えかけるような歌い方に聞こえる。「宝石の歌」は華やかな曲だが、今日の麻季さんは華やぐ心情を内側に向け、つぶやくようなイメージ。あくまで表現としてのイメージであって、実際にはちゃんと歌っている。ただ、心情を外に向けて訴えかけるような歌い方ではないという意味である。
 バッハ/グノーの「アヴェ・マリア」はそもそも大きな声で歌うような曲ではないが、今日の麻季さんは「心の中で祈る」ような情感がしっとりと表れていた。

 続いては同じ「アヴェ・マリア」を主題とする即興変奏曲を横山さんのビアノ・ソロで。横山さんはピアニストとしても天才ぶりを際限なく発揮している超一流だし、作曲もする方なので、彼にしてみれば簡単にできる技なのかもしれない。流れるような分散和音がキラキラと煌めき、主旋律は情感豊かに歌わせる。う・・・・ん、お見事、という感じだ。

 麻季さんが再び登場して、お馴染みの「初恋」と「からたちの花」。もう何回聴いたか分からないが、とくに「からたちの花」は多くのソプラノさんが歌っているけれども、やはり麻季さんが絶品だと思っている。今日はピアノが横山さんなので、伴奏の情感がとても「深い」。非常に贅沢な演奏であった。

 前半の最後は横山さんのピアノ・ソロでショパンの「アンダンテ・スピアナートと華麗なる大ポロネーズ」。彼はショパンの全ピアノ作品を暗譜で弾いたことでギネスブックに載っているくらいのショパン弾きだが、その演奏スタイルには贅肉を削ぎ落としたような鋭さがある。ショパンの持つ甘美な抒情性やロマンティシズムに溺れることなく、虚飾を排した解釈とソリッドな音質で、まさにショパンの本質に迫ろうとするアプローチだ。その辺が好みの分かれるところかもしれない。語らせればソフトで甘い声、ステージでは格好良く流し目をくれて、女性ファンには堪らないキャラクタに見えるが、音楽的には鋭角的で硬質、そしてエネルギッシュな横山さんである。

 プログラムの後半は、麻季さんによる歌唱で、珍しいデュパルクの歌曲から「旅への誘い」「悲しき歌」「フィディレ」の3曲。実は、麻季さんは2013年に同じここフィリアホールでこの3曲を歌っているので、聴くのは2度目ということになるが、珍しいことには変わりない。アンリ・デュパルク(1843〜1933)はフランスの皇紀ロマン派の作曲家でフランクの弟子に当たる。500にのぼる曲を作ったらしいが本人がその大部分を破棄してしまったため、残された作品はわずかしかない。その中で、17曲の歌曲がデュパルクを代表する作品として現在も歌い継がれている。
 「旅への誘い」は、恋人を旅に誘い遠くに行って暮らそうと歌うがその先に明るい未来はないのか・・・抒情的であると同時に悲しげで寂しげでもある。麻季さんは暗めの声で切々と歌っていた。「悲しき歌」の方が明るい声質で未来への希望や憧れを表現している。「フィディレ」は女性の名であろうか、優しい愛の歌である。ゆったりとしたテンポで、穏やかな旋律を、麻季さんの透明感のある歌声が、優しくしっとりと歌い上げている。

 ここからは横山さんのビアノ・ソロを3曲続けて。
 ラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」は、この曲にしては大きめの音量で、淡々としていながらもひとつひとつの音にも全体の造形にも芯があって、ちょっと冷徹な印象もある。横山さんのクールな解釈は、甘い感傷を排して、楽曲の持つ音質的な美を描き出している。あくまでクールで男性的な力感も見せるが、大人の香りの濃厚な煌びやかな技巧は、さすがのもの。
 シューマン/リスト編の「献呈」は、やや早めのテンポでシューマンのロマン性とリストの技巧性の接点を描き出す。
 リストの「リゴレット・パラフレーズ」も全体的に早めのテンポを採用し、その中で柔軟に高度な技巧性とヴェルディの歌うような旋律を見事に共存させている。流れる世に華麗な技巧をさりげなく見せ、ロマンティックに歌わせる。
 横山さんによる異なるタイプの3つの名曲は、若手の演奏家にはない強烈な個性を発揮しつつ、楽曲の本質にも迫る名演奏。どちらかといえば本気モードで演奏するリサイタルなどよりは肩の力が抜けたものであったようにも思うが、巧いものは巧いのであって、クールな解釈も華麗な技巧も美しい音色も、すべてが横山流で素晴らしい。また、フィリアホールの豊かな音響が、冷徹なピアノの音を柔らかく包み込むようで、最前列で聴いていても極めて美しい音であった。

 プログラムの最後は、麻季さんが登場して、グノーの「私は夢に生きたい」。毎度お馴染みの曲である。小さなホールでの抑えた歌唱のせいか、むしろ表現面で余裕があり、透き通った美声と安定的な高音域、コロラトゥーラの技巧的な歌唱など、どちらを見ても素晴らしい歌唱であった。

 アンコールはお馴染みの2曲。まずは、プッチーニの「ムゼッタのワルツ」。急に妖艶さを増す麻季さんの歌唱。今日は一段し伸びやかで奔放なムゼッタを雰囲気たっぷりに歌った。
 最後はプッチーニの「私のお父さん」。麻季さんは声質やキャラクタからいってムゼッタよりはラウレッタのような娘役の方が合っているとは思うが、演目や役柄によって雰囲気がクルリと変わるのは、オペラ経験が豊富な歌手ならではだ。「ムゼッタのワルツ」や「私のお父さん」はソプラノさんなら誰でも歌うし、若手声楽家や学生さんたちの歌唱を聴く機会も多いが、オペラの本舞台の経験のあるなしでは、ドラマ性が全然違うものだ。麻季さんの歌唱を聴いていると、舞台の情景が目に浮かんでくる。それは解釈や歌唱力だけではない演技力のようなものなのだと思う。お馴染みすぎるくらいのアンコール2曲ではあったが、やはり素敵な歌唱であった。

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