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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/29(火)新国立劇場『ルサルカ』/歌わないタイトル・ロールと幻想的な舞台が秀逸の新プロダクション

2011年12月01日 01時12分33秒 | 劇場でオペラ鑑賞
新国立劇場 2011/2012シーズンオペラ公演『ルサルカ』ドヴォルザーク作曲

2011年11月29日(火)18:00~ 新国立劇場・オペラパレス B席 2階 L11列 3番 11,340円(会員割引)
指 揮: ヤロスラフ・ズリンク
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
合 唱: 新国立劇場合唱団
演 出: ポール・カラン
美術・衣装: ケヴィン・ナイト
照 明: デイヴィッド・ジャック
音楽ヘッドコーチ: 石坂 宏
合唱指揮: 冨平恭平
舞台監督: 村田健輔
芸術監督: 尾高忠明
【出演】
ルサルカ: オルガ・グリャコヴァ(ソプラノ)
イェジババ(魔法使い): ビルギット・レンメルト(メゾ・ソプラノ)
王 子: ペーター・ベルガー(テノール)
ヴォドニク(水の精): ミッシャ・シェロミアンスキー
外国の公女: ブリギッテ・ビンター(ソプラノ)
森 番: 井ノ上了吏(テノール)
料理人の少年:加納悦子 (メゾ・ソプラノ)
第一の森の精: 安藤芙美子(ソプラノ)
第二の森の精: 池田香織(メゾ・ソプラノ)
第三の森の精: 清水華澄(メゾ・ソプラノ)
狩 人: 照屋 睦(バリトン)

 新国立劇場の2011/2012シーズンオペラ公演の中でも、注目と期待を集めていた新制作の『ルサルカ』。11/23(水・祝)に初日を迎え、計5公演、本日は中日である。平日の18時開演にもかからわず、皇太子殿下のご臨席を賜り、会場は満席に近かった。このオペラの上演に期待が高かったことが分かる。

 『ルサルカ』のドヴォザークの10作のオペラの中で最も有名、というよりは唯一上演機会のある作品といっていいだろう。それでも世界的に見ても上演機会が少ないのは、チェコ語という原語の障壁もあるからだろう。上演機会がすくなければ、歌える歌手もまた少ないわけで、実は多くの方々と同じで、私も観るのは初めてである。いつもなら事前にある程度は予習するのだが、1年も前からこの日が来ることは分かっていたのに、今日はまったくの真っ白な状態で観ることになった。会場入りしたのが開演ギリギリだったため、公演プログラムを買う時間もなく、ストーリーも確認しないうちに幕が上がってしまった。18時開演で途中2回の休憩を挟み、終演は21時30分頃だった。
 『ルサルカ』は1900年の作曲、1901年初演というから、完全にワーグナーやヴェルディ以降、後期ロマン派の作品である。従って、序曲に始まるものの1幕の間、音楽が途切れることはないし、ライト・モチーフの手法なども採られている。14型の弦5部とほぼ3管編成の管、打楽器、ハーブなども有効に使われて、厚みがあり雄弁な管弦楽が展開するオペラだ。このオペラを知らしめているのは、第1幕でタイトル・ロールのルサルカが歌うアリア「月に寄せる歌」であろう。オペラは知らなくてもこのアリアは名曲であり、ソプラノ歌手のリサイタルやCDでお馴染み。少しオペラをかじったことがある人なら誰でも聴いたことがあるはずだ。

 物語は3幕構成のメルヘンであり、特に時代や地域の指定がないようだ。第1幕は、水の精ルサルカが森の湖に水浴びにやってくる王子に恋をして、人間になることを望み、魔法使いのイェジババに人間に変えてもらうが、人の世界では言葉を話せなくなってしまう。美しい女性に変貌したルサルカを見た王子は一目で恋に落ち、城に連れて行って結婚することに。第2幕は城での祝宴。喋らないルサルカに怒った王子は招かれていた外国の公女に心移りしてしまう。ルサルカは水の世界に連れ戻され、王子も公女に振られてしまう。第3幕は森の湖。水の精にはもどったもののもとの世界には戻れず孤独を嘆く。基に戻るためには裏切った王子を殺さなければならないと魔法使いが言う。呪いをかけられた王子はルサルカに許しを請うが、口づけをすれば王子は死んでしまうのを知りつつ、最後にはルサルカは王子を許して受け入れ、王子は死んでしまう。……、とまあこんな話だ。
 まったく予備知識なしで観た訳だが、何しろ一語も知らないチェコ語は理解不能のため、字幕を追いつつ、何とかストーリーは理解した。だが結局、何が言いたいオペラなのかは、…よく分からなかった。スラブ民族やボヘミア地方の人々にはベースとなる神話や民話のようなものがあるのかもしれないが、1度観ただけでは、その寓話の持つ意味が分からない。…教訓のような意味が含まれていたのだろうか。


第2幕。左から王子、外国の公女、ずっと黙役のルサルカ。

 歌手陣は、主役のルサルカを歌ったオルガ・グリャコヴァさんが超えも良く通っていたし、立ち姿も美しく、常に水色のセクシーな衣装が素敵だった。ほとんど出ずっぱりだが、第2幕は喋らない=歌わない、というほとんど黙役で演技だけしているのがおもしろい。王子役のペーター・ベルガーさんはノーブルな声の持ち主で、ルサルカを口説くときの甘く情熱的な歌唱が良かった。イェジババ役のビルギット・レンメルトさんは大柄な美女で、魔法使いのお婆さんではなく、『魔笛』の夜の女王といったイメージ。抜群の存在感を発揮していた。外国の公女役のブリギッテ・ビンターさんも大柄な美女で、怪しげな色気がありこちらも存在感抜群。
 日本人組は、料理人の少年というズボン役に加納悦子さん、3人の森の精役に安藤芙美子さん、池田香織さん、清水華澄さんという贅沢な布陣。日本では主役級の人たちなのに、もったいなくも思えた。


 音楽の大部分は初めて聴くので、演奏が良いのか悪いのかまったく分からないが、今日の東京フィルハーモニー交響楽団は、実に濃厚な音色に終始し、ドラマティックな演奏であった。指揮者のヤロスラフ・ズリンクさんという人もまったく知らないが、チェコ出身の方なので、このオペラには精通しているのだろう。東京フィルを見事に鳴らしていたと思う。最近の東京フィルはなかなか素晴らしい演奏が続いているので、嬉しい限りだ。


第3幕。後ろが魔法使いイェジババ。まるで夜の女王のイメージだ。

 演出面では、新制作の舞台がとても美しく、質感が高い。新制作といっても、「ノルウェー国立オペラ・バレエ」でのプロダクションの再演らしい。セットのデザインも作りもクオリティが高いし、水の世界を表すブルー系の照明が美しく幻想的であった。全体の演出構成は、主人公の女性(ルサルカ)が見た夢の中の物語、という体裁を取っていた。ただのメルヘンに終わらせないで、現在の世界との連続性を演出面で持たせている。

 初めて観た『ルサルカ』であったが、全体によくまとまっていて分かりやすく、音楽も充実していたので、心配していたよりは十分に楽しめた。ドヴォルザークの音楽は旋律が美しく、ロマンティックで非常に分かりやすいので、初めてでも素直に受け入れられる。平均以上に良くできた上演だったと思う。

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