フレッシュ名曲コンサート/小林研一郎 & 東京フィル
2011年11月19日(土)15:00~ ルネこだいら 大ホール A席 1階 B列 12番 3,000円
指揮: 小林研一郎
ヴァイオリン: 尾池亜美
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
モーツァルト: 歌劇『フィガロの結婚』序曲
メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
ベートーヴェン: 交響曲 第7番 イ長調 作品92
《アンコール》
アイルランド民謡: ダニーボーイ(弦楽合奏版)
東京文化会館主催の「フレッシュ名曲コンサート」シリーズで、今日は東京都小平市の「ルネこだいら」の大ホールを会場に、コバケンこと小林研一郎さんの指揮による東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートである。「フレッシュ」なソリストはヴァイオリンの尾池亜美さん。藝大時代の2009年、日本音楽コンクールのヴァイオリン部門で第1位を獲得してからずっと注目していたのだが、彼女は西東京地区での演奏機会が多く、またスケジュールが合わなかったりもして、実は2010年3月に開催された「第78回 日本音楽コンクール受賞者発表演奏会」でショーソンの「詩曲」を聴いて以来となってしまった。ちなみにその年の日本音楽コンクールでは、青木尚佳さんも第1位を獲得している。青木さんの方は、その後何度も聴く機会があり、聴くたびに上手くなっていくのが楽しみだったが、尾池さんは1年8ヵ月ぶりだから、その成長ぶりに大いに期待して、遠く小平まで足を運んだ次第であった。
さてコンサートの方は、コバケンさん指揮の東京フィルだが、東京フィルは昨日のサントリー定期で大熱演を聴いたばかり…。もっとも東京フィルは団員が160名もいるので、同時に二組の公演も可能なオーケストラだから、こういう離れ業もできるのだろう。一方のコバケンさんの方は、今年の2月に同じ東京フィルで、仲道郁代さんの「仲道郁代オール・ベートーヴェン・プログラム」の時以来となる。
1曲目の『フィガロの結婚』序曲は、やや遅めのテンポでオーソドックスな演奏だった。『フィガロ』特有のワクワクするような高揚感はあまり感じられなかったが、純音楽的にはしっかりとした構造感を打ち出した良い演奏だ。
2曲目は尾池さんが登場してのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲だ。久しぶりに見る尾池さんは、音楽界には珍しかったショートカットのヘアスタイルから髪がすこし伸びて大人っぽくなった。というよりはとても美しいお嬢さんに変貌していたのでちょっとビックリ。ドキドキしてしまった(?)。
前にも書いたが、今年はメンコンを聴く機会が非常に多く、既に4回も聴いている。直近は11月1日、庄司紗矢香さんとテミルカーノフ指揮+サンクトペテルブルグ・フィルで聴いたばかり。しかも今年中にあと2回聴く予定になっている。さすがにこれだけ集中してしまうと、どうしても聴き比べてしまうことになってしまうが、それはお許しいただくとして…。
尾池さんの演奏は、非常に端正。あくまで音色は美しく、旋律を適度に歌わせ、しっかりとまとめているといった印象だった。音に濁りがなく、キレイなことはキレイなのだが、べつの見方をすれば音色に多様性が乏しいとも思える。一方で、技術的にはまったく問題はなく、極めて上手い演奏であり、上品な演奏だと思った。例によってソリストに近い2列目で聴いていた割には、音量がそれほど大きくなく、ダイナミックレンジも広くない演奏であったことも、かえって品良く聞こえた理由なのかもしれない。
表現力の面では、あまり感情の起伏が感じられず、ある意味では淡々とした演奏だったと感じた。演奏中の姿勢も背筋を伸ばしてまっすく立ち、あまり身体を動かさないのも、見た目の雰囲気として影響してしまったかもしれない。
総じて、尾池さんの解釈および演奏は、良く言えば正統派そのもの。楽譜の中に書き込まれている音楽をキレイに描き出していたといえる。別の言い方をすれば、教科書的というか、優等生的というか…。メンデルスゾーンの音楽は十分に聞こえてくるのだが、尾池亜美さんの音楽があまり聞こえてこない、といった印象だった。
またコバケンさんのサポートも良かったと思う。指揮台をソリストを見やすいように斜めに置き、譜面代にはスコアが用意されていたのに全く使わず、ほとんど尾池さんの方を見ながらの指揮だった。細かく丁寧に神経を使っている様子で、タイミングもぴったり合わせていたし、リズム感を損なわないように上手くサポートしていたと思う。
結局、この曲は名曲中の名曲であるため、聴く側の私たちも何十回も、しかも世界のトップ・アーティストの演奏をも含めて聴いているし、曲そのものも隅々まで覚えている。このような名曲の場合、普通に演奏するだけでは、どんなに上手くてもなかなか人々の心を捉えるのは難しいようである。だから一流の演奏家になればなるほど、独自の解釈を持ち込んで、つまり個性を前面に打ち出して、新鮮さを求めて行く。尾池さんの場合は、いわばまだスタート段階だから、今日のような正統派の演奏で良かったのだと思う。たけど、この次に演奏する時は、あるいは1年後、3年後に演奏する時も同じであったら、ちょっとマズイかも…。
後半はベートーヴェンの「交響曲 第7番」。「リズムの権化」である。4つの楽章を通して、コバケンさんの演奏はやや遅めのテンポを採り、肝心のところではタメを効かせたコバケン節炸裂であった。テンポが遅いといってもリズム感が鈍重になっているわけではないので、曲全体の流れは悪くはない。どちらかと言えば、重厚、豪快にベト7であった。第4楽章の終盤、盛り上がってくるとうなり声を発するのもお馴染み。熱演ではあるが、20世紀的というか、あまり現代的な演奏ではないような…。一方、東京フィルの方はコバケンさんの指揮に応えて、ダイナミックな演奏を展開した。爆発的な音量もしかり、かなり熱のこもった演奏であった。ホルンが外し気味なのもご愛敬といったところ。「フレッシュ名曲コンサート」らしい、ある種の楽しさがある演奏だったといえる。
アンコールは「ダニーボーイ」の弦楽合奏版。この辺の(ちょっと地方の)名曲コンサートらしい。しっとりと泣かせるアンコールだった。
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2011年11月19日(土)15:00~ ルネこだいら 大ホール A席 1階 B列 12番 3,000円
指揮: 小林研一郎
ヴァイオリン: 尾池亜美
管弦楽: 東京フィルハーモニー交響楽団
【曲目】
モーツァルト: 歌劇『フィガロの結婚』序曲
メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
ベートーヴェン: 交響曲 第7番 イ長調 作品92
《アンコール》
アイルランド民謡: ダニーボーイ(弦楽合奏版)
東京文化会館主催の「フレッシュ名曲コンサート」シリーズで、今日は東京都小平市の「ルネこだいら」の大ホールを会場に、コバケンこと小林研一郎さんの指揮による東京フィルハーモニー交響楽団のコンサートである。「フレッシュ」なソリストはヴァイオリンの尾池亜美さん。藝大時代の2009年、日本音楽コンクールのヴァイオリン部門で第1位を獲得してからずっと注目していたのだが、彼女は西東京地区での演奏機会が多く、またスケジュールが合わなかったりもして、実は2010年3月に開催された「第78回 日本音楽コンクール受賞者発表演奏会」でショーソンの「詩曲」を聴いて以来となってしまった。ちなみにその年の日本音楽コンクールでは、青木尚佳さんも第1位を獲得している。青木さんの方は、その後何度も聴く機会があり、聴くたびに上手くなっていくのが楽しみだったが、尾池さんは1年8ヵ月ぶりだから、その成長ぶりに大いに期待して、遠く小平まで足を運んだ次第であった。
さてコンサートの方は、コバケンさん指揮の東京フィルだが、東京フィルは昨日のサントリー定期で大熱演を聴いたばかり…。もっとも東京フィルは団員が160名もいるので、同時に二組の公演も可能なオーケストラだから、こういう離れ業もできるのだろう。一方のコバケンさんの方は、今年の2月に同じ東京フィルで、仲道郁代さんの「仲道郁代オール・ベートーヴェン・プログラム」の時以来となる。
1曲目の『フィガロの結婚』序曲は、やや遅めのテンポでオーソドックスな演奏だった。『フィガロ』特有のワクワクするような高揚感はあまり感じられなかったが、純音楽的にはしっかりとした構造感を打ち出した良い演奏だ。
2曲目は尾池さんが登場してのメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲だ。久しぶりに見る尾池さんは、音楽界には珍しかったショートカットのヘアスタイルから髪がすこし伸びて大人っぽくなった。というよりはとても美しいお嬢さんに変貌していたのでちょっとビックリ。ドキドキしてしまった(?)。
前にも書いたが、今年はメンコンを聴く機会が非常に多く、既に4回も聴いている。直近は11月1日、庄司紗矢香さんとテミルカーノフ指揮+サンクトペテルブルグ・フィルで聴いたばかり。しかも今年中にあと2回聴く予定になっている。さすがにこれだけ集中してしまうと、どうしても聴き比べてしまうことになってしまうが、それはお許しいただくとして…。
尾池さんの演奏は、非常に端正。あくまで音色は美しく、旋律を適度に歌わせ、しっかりとまとめているといった印象だった。音に濁りがなく、キレイなことはキレイなのだが、べつの見方をすれば音色に多様性が乏しいとも思える。一方で、技術的にはまったく問題はなく、極めて上手い演奏であり、上品な演奏だと思った。例によってソリストに近い2列目で聴いていた割には、音量がそれほど大きくなく、ダイナミックレンジも広くない演奏であったことも、かえって品良く聞こえた理由なのかもしれない。
表現力の面では、あまり感情の起伏が感じられず、ある意味では淡々とした演奏だったと感じた。演奏中の姿勢も背筋を伸ばしてまっすく立ち、あまり身体を動かさないのも、見た目の雰囲気として影響してしまったかもしれない。
総じて、尾池さんの解釈および演奏は、良く言えば正統派そのもの。楽譜の中に書き込まれている音楽をキレイに描き出していたといえる。別の言い方をすれば、教科書的というか、優等生的というか…。メンデルスゾーンの音楽は十分に聞こえてくるのだが、尾池亜美さんの音楽があまり聞こえてこない、といった印象だった。
またコバケンさんのサポートも良かったと思う。指揮台をソリストを見やすいように斜めに置き、譜面代にはスコアが用意されていたのに全く使わず、ほとんど尾池さんの方を見ながらの指揮だった。細かく丁寧に神経を使っている様子で、タイミングもぴったり合わせていたし、リズム感を損なわないように上手くサポートしていたと思う。
結局、この曲は名曲中の名曲であるため、聴く側の私たちも何十回も、しかも世界のトップ・アーティストの演奏をも含めて聴いているし、曲そのものも隅々まで覚えている。このような名曲の場合、普通に演奏するだけでは、どんなに上手くてもなかなか人々の心を捉えるのは難しいようである。だから一流の演奏家になればなるほど、独自の解釈を持ち込んで、つまり個性を前面に打ち出して、新鮮さを求めて行く。尾池さんの場合は、いわばまだスタート段階だから、今日のような正統派の演奏で良かったのだと思う。たけど、この次に演奏する時は、あるいは1年後、3年後に演奏する時も同じであったら、ちょっとマズイかも…。
後半はベートーヴェンの「交響曲 第7番」。「リズムの権化」である。4つの楽章を通して、コバケンさんの演奏はやや遅めのテンポを採り、肝心のところではタメを効かせたコバケン節炸裂であった。テンポが遅いといってもリズム感が鈍重になっているわけではないので、曲全体の流れは悪くはない。どちらかと言えば、重厚、豪快にベト7であった。第4楽章の終盤、盛り上がってくるとうなり声を発するのもお馴染み。熱演ではあるが、20世紀的というか、あまり現代的な演奏ではないような…。一方、東京フィルの方はコバケンさんの指揮に応えて、ダイナミックな演奏を展開した。爆発的な音量もしかり、かなり熱のこもった演奏であった。ホルンが外し気味なのもご愛敬といったところ。「フレッシュ名曲コンサート」らしい、ある種の楽しさがある演奏だったといえる。
アンコールは「ダニーボーイ」の弦楽合奏版。この辺の(ちょっと地方の)名曲コンサートらしい。しっとりと泣かせるアンコールだった。
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