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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

7/6(火)「豊潤」日下紗矢子のリサイタルでヴァイオリンの音色に感激

2010年07月07日 22時12分57秒 | クラシックコンサート
第378回 日経ミューズサロン「日下紗矢子&アレッシオ・バックス デュオ・リサイタル」

2010年7月6日(火)18:30~ 日経ホール 指定 Q列 27番 3,500円
ヴァイオリン: 日下紗矢子
ピアノ: アレッシオ・バックス
【曲目】
J.S.バッハ: ヴァイオリン・ソナタ ホ長調 BWV.1016
ブゾーニ: ヴァイオリン・ソナタ 第2番 ホ短調 作品36a
シマノフスキ:「神話-3つの詩」作品30より“アレトゥーサの泉”
フランク: ヴァイオリン・ソナタ イ長調
《アンコール》
クライスラー: 愛の哀しみ
クライスラー: 愛の喜び

 日経ホール主催の「第378回 日経ミューズサロン」は日下紗矢子さんとアレッシオ・バックスさんのデュオ・リサイタル。日下さんはベルリン・コンツェルトハウス管弦楽団(旧称:ベルリン交響楽団)の第1コンサートマスターを務める若手ヴァイオリニストで、幾多の国際コンクールでの受賞歴を誇る俊英である。顔と名前は知っていたが、演奏を聴くのは今日が初めて。ウワサではとても流麗な音色を聴かせるとか。プログラムもバッハから現代までと、意欲的なものを感じる。
 会場の日経ホールは日本経済新聞社の新社屋に新たに開設されたもので、全席が階段状に並ぶ610席の多目的ホールだ。セミナーや講演会に使うこともあるらしく、全席の背もたれからミニ・テーブルが出てきたりする。音響は…、ヴァイオリンとピアノを聴く限りでは、悪くはない。ただ、何となく雰囲気が「音楽的でなく」感じるのは私だけだろうか。

 前半はバッハから。もともと個人的にバッハは苦手なので、普段、自分からほとんど聴くことがない。今日のようにコンサート・プログラムに組み込まれている時に聴くくらいなので、曲も分からないし、演奏の良し悪しもさっぱり。後ろの方の席から聴いた印象は、バックスさんの転がるような軽やかなピアノに乗せた、日下さんのヴァイオリンの音色が、ウワサに違わずとてもキレイだということだ。あまり思い入れを深くすることなく、どちらかと言えば淡々とした演奏だと思うのだが、むしろそう聞こえないのは音色の豊かさ故だろう。ヴァイオリンの名手に対しては、しばしば「艶のある音色」とか「絹のような滑らかさ」とか「深みのある音色」とかいった表現を(私も)使うが、日下さんの場合は「潤いのある音色」と言いたい。しっとりした湿り気のある音で、どちらかと言えば「濃い」音だと思う。単調なバッハの曲が、豊潤な音色によって色彩豊かな演奏となった。今日のバッハは退屈に感じることが全くない、良い演奏だった(あくまで個人的な嗜好を前提としていますので)。
 2曲目のブゾーニ(1866~1924)のソナタは、1899年の作品というから、時代的には後期ロマン派から近現代にかけてということになろうが、この曲はまだ比較的ロマン的な要素を多く残しており、聴きやすい曲である。バッハと比べれば、はるかに多様性に満ちているが、明確な楽章に別れているわけでもなく、曖昧で自由な曲風がこの曲の特徴だと思われる。といってもよく知らない曲であることは違いなく、その演奏について論評するのは図々しいだろうか。
 やはりここでも際立っていたのはヴァイオリンの音色だ。ブゾーニはヴィルトゥオーゾ・ピアニストでもあったというが、ヴァイオリン・パートはとくに難しい技巧を要求する曲のようには作られていない。次々と現れるロマン的・近代的な旋律をいかに表現するかに主眼が置かれているような曲。だからこそ、日下さんのような〈しっとり系〉のヴァイオリンがよく似合っている。1音1音に込められた作曲者の思いとそれを表現する、細やかなニュアンスや微妙な色彩の変化など、表現芸術として素晴らしい演奏だったと思う。

 休憩を挟んで、3曲目はシマノフスキ(1882~1937)。「神話-3つの詩」(1915)は、ドビュッシーなどの影響を受けた印象派的な音楽に傾倒した時期の作品ということだ。ここでは水面のさざ波を想起させるピアノをバックスさんのタッチが美しく聴かせている。きわめて情景描写的な演奏で、確かに印象派っぽい。その上に乗ってくるヴァイオリンは、印象派というよりは現代音楽のような、幻想的で不協和・不安定な旋律を描いていく。日下さんの音が透明で潤いがあるだけに、単なる「音の集まり」ではない、「観念的な心象を描いた音楽」として心に響いてきた。透明なピアノの音色と豊潤なヴァイオリンの音色。そして、ピアノとヴァイオリンの息がぴったりと合っていて、「不協和な調和」がとても美しかった。結論を先に言ってしまえば、今日のリサイタルでは、この曲が一番良かった(しかも圧倒的に!! Brava!!)。もっともそう感じたのは私ひとりだったかも…。
 4曲目は、ヴァイオリン・ソナタの定番中の定番、フランク。フランス風の自由奔放なロマン的な要素とドイツ的な構造感を合わせ持つ名曲である。第1楽章は幻想的かつ叙情的な主題で始まる。日下さんのヴァイオリンは、音色もキレイだが、流麗なレガートを効かせながらもリズム感が正確で揺るぎない。そのために、感情に流されることがなく、構造を強く感じさせながら、旋律を歌わせることができるのだろう。第2楽章に入るとピアノが奔流のごとく力強く低音部を描き、ヴァイオリンも激しい主題をパッションを込めて奏でる。ここへきて、その力強さ故に、それまでの美しかった音色に濁りが生じてきた。もちろん意図してのことなのだろうが、個人的には美しい音のままでいてほしかった。第4楽章までこの傾向は続き、結局、フランクの演奏は音色よりも曲の持つ「情念」を優先するカタチとなった。
 もともとこの曲は、ヴァイオリンとピアノの力関係が一対一であって、ピアノが単なる伴奏に終始してしまうと、曲全体がパワー不足になってしまう。逆にピアノが出過ぎると、ヴァイオリンの脆弱さが目立ってしまう。その点では、今日のバックスさんはこの曲でパワーを出しぎみであったのか、日下さんのヴァイオリンにも思わず力が入ってしまっていたような印象だった。前3曲の印象からくる日下さんのイメージだと、フランクはピッタリだと思っていたのだが、やや予想と違う演奏だったために、戸惑いを感じたことも事実。しかしそれは解釈の捉え方の問題なので、個人的な嗜好で批判めいたことを述べるのは本意ではない。素晴らしい演奏であったことは間違いないのだから。
 アンコールはクライスラーの「愛の哀しみ」と「愛の喜び」。アンコールの定番みたいな選曲だが、ここでの日下さんは、今度は思い入れたっぷりにルバートを効かせ、甘い旋律を優しい音色で大らかに歌わせていた。

 リサイタルの終了後は恒例のサイン会。日下さんがリリースしているCDはまだ1枚。終演後でお疲れのところをサインをいただいた。このCDは全曲が無伴奏のソロ・ヴァイオリン曲というもの。バッハ、バルトークは良いとしても、B.A.ツィンマーマンの無伴奏ソナタ(日本初録音)というのは、かなりマニアックな世界でした。

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