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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/30(日)「フレッシュ」NHK交響楽団 in 市川/沼尻竜典&青木尚佳のパガニーニとベト7

2010年05月30日 23時56分40秒 | クラシックコンサート
「N響 in ICHIKAWA」

2010年5が月30日(日)16:00~ 市川市文化会館・大ホール S席 1階 1列 30番 5,000円
指 揮:沼尻竜典
ヴァイオリン:青木尚佳*
管弦楽:NHK交響楽団
【曲目】
ベートーヴェン:「エグモント」序曲 作品84
パガニーニ:ヴァイオリン協奏曲 第1番 作品6*
ベートーヴェン:交響曲 第7番 イ長調 作品92
《アンコール》
モーツァルト:ディヴェルティメント ニ長調 K.136 より第2楽章

市川市文化振興財団主催のいわゆる「市民名曲コンサート」のようなものだが、パガニーニのヴァイオリン協奏曲のソロを受け持つ青木尚佳さんは、市川市内の日出学園高校に在学中ということで、昨年の日本音楽コンクールのヴァイオリン部門で第1位を獲得した後の、いわば「凱旋コンサート」ともいえる位置づけになる。沼尻竜典さんの指揮によるNHK交響楽団と、顔ぶれも一級で、聴き応えは十分だった。会場の市川市文化会館の大ホールは、およそ2,000人を収容できるプロセニアム形式という立派なもの。ただし音響は…残響はあまり長くなく、響かなかった。

 1曲目、幕開けは『エグモント』序曲。沼尻さん得意のベートーヴェンというだけあって、冒頭から緊張感が高く、凛々しいスタートだ。沼尻さんは躍動的なリズム感が実に気持ちいい人。重厚すぎず、若々しいのだが、決して軽々しくはない。ベートーヴェン特有の構造感を十分に意識させつつ、キレの良いリズム感が、音楽に生命観を漲らせる。また、指揮棒を使わず、全身を大きく使って表情を付けていく。微妙なタメもいい感じだ。個人的な好みもあるとは思うが、私は沼尻さんのベートーヴェンは、日本人指揮者の中では、もっとま違和感なく受け入れられる。「エグモント」序曲のように、「苦悩」から「歓喜」へと突き抜けるテーマには、躍動感と輝かしさが欠かせない。今日のN響は、全力投球で沼尻さんの指揮ぶりに応えていたように思う。素晴らしい序曲だった。

 2曲目は青木尚佳さんを迎えてのパガニーニ。青木さんはまだ高校生で17歳だという。今日が本格的な協奏曲デビューというウワサだ。それにしても恵まれているのは、地元で、しかも沼尻さん指揮のN響と競演できるなんて!! それを聴かせていただくために、1列目の正面の席を取った次第である。
 パガニーニはヴァイオリンの名手だったとして知られているが、残されている曲も超絶技巧的なものが多く、ロマン派の音楽家というイメージが強い。しかし、ベートーヴェンより10歳くらい若いだけで、ほぼ同時代の人でもある。このヴァイオリン協奏曲第1番は、1819年初演というから、ベートーヴェンの交響曲7-8番の後(1813-1814年)、第九が初演される1824年の5年前の作品だ。当時のイタリアではオペラが音楽の中心にあり、すでにロッシーニがオペラ作曲家として活躍していた時代。当然、パガニーニも影響を受けているのだろう。第1楽章、協奏曲風ソナタ形式の前奏部分から主題提示部などは、どうしてもロッシーニのオペラの序曲を聴いているようである。明るくは晴れやかな曲想にはドイツ音楽に見られるような屈託が感じられず、人生を謳歌したくなってくる。
 青木さんの演奏は、伸びやかで迷いがなく、聴く者を楽しい気持ちにしてくれる。ヴァイオリンの音色は、曲がそういう曲だからということもあるが、明るい響きを持っている。一方、曲の持つ高度な技巧に対しても、しなやかに演奏できるテクニックがある。近くで見ているとよくわかるのだが、運指が滑らかで無駄な動きがなく、美しい。この曲は、主題をおおらかに歌わせるかと思えば、重音が連続したり、激しいグリッサンドやフラジオレット、ポイントで入ってくる左手のピチカート、極めつけはフラジオレットの重音による演奏まで出てくる、とにかく超絶技巧曲なのに、旋律が歌謡的に美しい。演奏するのも難しければ、表現するのもやっかいな曲だろう。青木さんは、17歳という年齢を考えると、この曲を見事に弾ききったといって良い。正確な技巧と明るい音色、いまの彼女にはそれだけで十分。これから無限の可能性があるのだから。この次は何を聴かせてくれるのだろうか(必ず聴きに行きますよ)。
 一方、沼尻さんの指揮ぶりにも触れておきたい。パガニーニの時は編成も少し小さくしていたが、オーケストラの音を常に抑え気味にして、ソロ・ヴァイオリンを見事に引き立てていた。もともとこの曲は、ショパンのピアノ協奏曲などと同様に、ソロをメインに引き立てるために、オーケストラは伴奏に徹した作曲法を採っている(オーケストラ・パートは単純な旋律の繰り返しが多い)。とはいうものの、沼尻さんはこの曲の主役の座は完全に青木さんに譲って、ご自身は黒子に徹していたように思う。またオペラの得意に沼尻さんだけあって、歌謡的な主題旋律の多いこの曲では、ソロ・ヴァイオリンを歌わせるルバートの聴かせ方が、見事だった。沼尻さんのサポートの巧さが、青木さんの伸びやかな明るい音色をより巧く引き出していたのだろうと思う。オーケストラのメンバーの方たちも、カデンツァの時などは青木さんの背中に「ちゃんと弾けているか」というような鋭い視線を送っていたが、曲が終わったら皆にっこり。団員の方たちも、17歳の実力を認めたようでした。

 後半のプログラムはベートーヴェンの第7番。演奏の前に沼尻さん自身によるレクチャーがあり、楽しかったのも地方のコンサートならでは。
 さて演奏の方はというと、先ほどのパガニーニとは打って変わって、オーケストラの迫力が全然違う。沼尻さんの、「主役はやっぱりオレだ!」というような気迫が伝わってくるような演奏だ。「リズムの権化」と呼ばれるこの曲、もちろん一番大切なのはリズム感。各楽章はもとより、全曲を通してもリズム感の構造性が大切だ。沼尻さんのテンポ設定は、速くもなく、遅くもなく、「これが一番!」という速度。最も素直に聴ける早さだった。しかもリズム感は軽快で踊るような躍動感に満ちている。若い指揮者だとリズム重視でただ速いだけになってしまうところを、沼尻さんは要所に微妙なタメを盛り込み、音楽に深みを出している。一方、N極もやっぱの巧い。コンマスの堀正文さん率いるヴァイオリンは濁りが全くない繊細・緻密なアンサンブルが極めて美しい。フォルテ時の弦楽も音量が豊かで音が乱れず、管楽器に負けないパワーがある。フルート、オーボエ、クラリネット、ファゴットの皆さんも弱音からキレイな音を出す。この曲もクライマックスでホルンが大活躍するが、微妙に音が割れるフォルテが泣かせる。オーケストラ全体のバランスもぴったりだった。何しろ指揮者の真後ろの位置で聴いていたので、ステレオ効果も抜群に、オーケストラの音を立体的に捉えることができた。考えてみれば、N響を1列目のセンターで聴くのは初めて…。地方のコンサートだからこういう席が取れるのだ(それなりに努力はしています)。
 第1楽章は、提示部をリピートし、第2楽章はやや速め、第3楽章もリピートあり。第4楽章は提示部のリピートなしに一気に展開部へと突き進んだ。第3楽章から続けて第4楽章を演奏したので、流れというか、勢いを重視した解釈になったようで、これはこれで正解だと思う(個人的には第4楽章もリピートする方が好き)。

 沼尻さんのベートーヴェンは、オーソドックスながらも躍動感に溢れ、実に生き生きとした演奏。楽曲の解釈も的を射たもので、構造的な美しさも見事に表現していた。N響も非常にダイナミックレンジの広い演奏で、迫力満点。「エグモント」序曲と第7番で、ガッチリした骨太の演奏を聴かせ、間にはさんだ協奏曲は華麗で楽しく…。選曲ならびに演奏会全体のバランスも素晴らしく、満足度の高いコンサートとなった。アンコールで演奏されたモーツァルトのディヴェルティメントは典雅な弦楽の調べにうっとり。後味を爽やかに締めくくる選曲でした。

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