2012 都民芸術フェスティバル〈オーケストラ・シリーズ No.43〉
東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
2012年2月20日(月)19:00~ 東京文化会館・大ホール B席 1階 2列 18番 2,800円
指 揮: 宮本文昭
ヴァイオリン: 南 紫音
管弦楽: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
【曲目】
ロッシーニ: 歌劇『どろぼうかささぎ』序曲
メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
ブラームス: 交響曲 第1番 ハ短調 作品68
《アンコール》
グリーグ:「ホルベルク組曲」より第1曲(弦楽合奏版)
2012年の都民芸術フェルティバル参加公演〈オーケストラ・シリーズ No.43〉は、在京のプロ・オーケストラ8団体が参加して、1回ずつ特別コンサートを東京文化会館・大ホールで開催する。それぞれが魅力的な演奏家でプログラムが組まれていたが、スケジュールなどの関係で、足を運ぶのは結局は今日の1公演だけになってしまった。今日は5公演目で、宮本文昭さんの指揮による東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のコンサートである。
さて、1曲目はロッシーニのオペラ『どろぼうかささぎ』の序曲。オペラ自体は上演される機会が少ないものだが、序曲だけは比較的有名だ。『どろぼうかささぎ』といえば、2008年3月の藤原歌劇団の公演が思い起こされる。会場も今日と同じ、ここ東京文化会館・大ホール。例の「かささぎ」役で大喝采を浴びた「かささぎ型ラジコン飛行機」が、5階まで吹き抜けになっている大ホールの広い空間を、自在に飛び回っていたのを思い出したのは、私だけではないだろう。
演奏の方は、とにかく楽しく、ワクワク感がいっぱい。宮本さんの音楽作りは、素直にダイナミック。やや遅めのテンポでありながら、重々しくならないのは目メリハリの効いたキレの良さと、フレーズを明瞭に浮かび上がらせるからだ。最初からかなり飛ばしていて、東京シティ・フィルのポテンシャルを目一杯引き出していた。人によって好みは分かれるところかもしれないが、なかなか魅力的な演奏だと思う。
昨年2011年1年間だけで、この曲を7回も聴いたことは、今年の最初の記事に書いたが、その中にももちろん南紫音さんの演奏は入っている。2011年5月31日、東京オペラシティコンサートホールで、出光音楽賞受賞者のガラ・コンサートであった。この日の演奏は、第3楽章のみが『題名のない音楽会』でも放送されたから、聴かれた方も多いだろう。あれから9ヵ月近くが経過して、南さんは一段とスケールアップしたようだ。
宮本さんのやや遅めのテンポに乗せて、第1楽章の第1主題から、ソロ・ヴァイオリンが豊かに歌い出す。何といっても驚かされるのは音量が豊かなこと。無理矢理大きな音を出そうとしているようには見えなかったが、艶と深みのある「良い音」で、楽器がよく鳴っている。もちろん協奏曲ということで、普通よりは音を出しているとは思うが、2列目の目の前で聴いていたとはいえ、オーケストラを従えるような堂々たるものだ。また、テンポが遅めだったから、かえって1音1音を正確に十分に鳴らすことができるようで、旋律の歌わせ方や短いフレーズの中の細かなニュアンスまで、丁寧に弾かれていたとみることもできる。丁寧、といってもリズム感もしなやかで、曲の流れは実にスムーズ。つまり、演奏の流れは流麗なのに、フレーズはクッキリ明瞭に描き出されていて、しかもかなりのハイ・テンションだった。
第2楽章の抒情的な旋律になると、柔らかく甘い音色(それでも音量は豊か)に変わり、南さんの表情も柔和になる。時に微笑みをまじえながら、美しい旋律に身を委ねるように、優しい音楽が展開していく。
第3楽章の快活なAllegro molto vivaceに入ると、弾むようなリズム感に乗せて、ヴァイオリンが飛び跳ねていくイメージだ(それでもテンポはやや遅め)。明るい音色とキレの良いパッセージが、躍動する心を煽るよう。聴いているとソロ・ヴァイオリンはけっこう揺れ幅の大きい、伸び伸びした演奏をしている。だから旋律が豊かな表情を見せてくれるのだ。その奔放なイメージの演奏に対して、宮本さんが絶妙のタイミングでオーケストラを重ねていく。ご自身もソリストとして活躍されて来られただけあって、「協奏」的なセンスは抜群だ。コーダに入ると緊張感がキリキリと高まって行き、ガリガリっという強い低音から一気に高音まで駆け抜けて、クライマックスへ。もいこれはBrava!! まちがいなし!!
今日の南さんは、全体的にやや遅めのテンポをうまく利用してヴァイオリンを縦横無尽に鳴らし、かなり突っ込んだ攻撃的とも取れる演奏だったと思う。見た目には清楚なお姫様のようで、衣装もキラキラして…、演奏は大胆で奔放、芯が強く、情熱的…。この多面性は、彼女がまだまだ成長の途上にあるということだろうか。出光音楽賞受賞者ガラの時と比べると、明らかにスケールが大きくなっている。オーケストラに対して、1対1の比重を得たといえる、実に堂々たる素晴らしい演奏であった。
後半は、ブラームスの交響曲第番。言わずと知れた名曲中の名曲である。今度は東京シティ・フィルがエンジン全開で実に素晴らしい演奏を聴かせてくれた。
ここでも宮本さんの指揮は、全楽章を通じて、やや遅めのテンポに終始する。重厚で内省的なブラームスに対するアプローチは、今日は重厚の方に重きを置いて、そこに豪快さを足したような感じだった。ブラームス特有の短いフレーズを、遅めのテンポの中で明瞭に描き出し、非常に分かりやすい音楽作りであったともいえる。
オーケストラのダイナミックレンジを広く取り、要するにffでは大音量でぶちかます。ところが弦楽5部がものすごい頑張りを見せて、管楽器群にまけないように必死の形相で弾くまくる。各パートのバランスは思いの外、良い。ノリの良い演奏ではあったが(ブラームスなのに!)、実は細かな点まで計算されていたのかもしれない。各楽章とも、下の方から盛り上げて行く感じがダイナミックで分かりやすく、ヘンに音楽をこねくり回していないところが、素直で多くの人の共感を得られるような気がした。
宮本さんの指揮する姿を2列目の真後ろで見ていたのだが、彼が小澤征爾さんに心酔しているのがよく分かる。指揮棒を持たず、両手のグーとパーで指揮をする後ろ姿は、小澤さんによく似ている。音楽的には、宮本さんの方が、剽軽で陽気な性格が表れているような…。
また、世界的なオーボエ奏者から指揮者に転向した宮本さんのような経歴の指揮者は、最近のコンクールで優勝して楽壇に登場してくる若い指揮者たちとはタイプがかなり違う(おおむね速めのテンポでリズム感良く、構造的にキッチリした演奏が多い?)。そういうご時世にあっては、宮本さんの音楽はあまり今風とはいえないような気がするが、もちろんこれは良い悪いの問題ではなく、いろいろなタイプの音楽家がいてくれた方が、聴く方も楽しめるから大歓迎である。宮本さんのブラームスを今日聴いた限りでは、彼の音楽は決して嫌いではなく、今後、聴く機会が増えていくような気がする。
アンコールはグリーグの「ホルベルク組曲」より第1曲。アンコールでよく演奏される曲だが、弦楽合奏版なので管楽器や打楽器の人がちょっとかわいそうな選曲だ。弦楽5部は、繊細かつ重厚な素敵なアンサンブルを聴かせてくれた。
宮本さんは、今年の4月から東京シティ・フィルの初代音楽監督に就任する予定だという。どのような活動になっていくのだろう。東京シティ・フィルの方も少々人材難(?)の様子も見られ、今日のステージにも応援の人がチラホラ見受けられた。一方、今日の演奏を見ていても両者の関係は好ましいもののようだ。ブラームスの熱演に対して、会場からは盛大なBravo!!の声が飛び交い、いつもはすましているコンサートマスターの戸澤哲夫さんも相好を崩して本当に嬉しそうだった。宮本文昭+東京シティ・フィルは、今後の展開がちょっと楽しみになってきた。
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東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
2012年2月20日(月)19:00~ 東京文化会館・大ホール B席 1階 2列 18番 2,800円
指 揮: 宮本文昭
ヴァイオリン: 南 紫音
管弦楽: 東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
【曲目】
ロッシーニ: 歌劇『どろぼうかささぎ』序曲
メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲 ホ短調 作品64
ブラームス: 交響曲 第1番 ハ短調 作品68
《アンコール》
グリーグ:「ホルベルク組曲」より第1曲(弦楽合奏版)
2012年の都民芸術フェルティバル参加公演〈オーケストラ・シリーズ No.43〉は、在京のプロ・オーケストラ8団体が参加して、1回ずつ特別コンサートを東京文化会館・大ホールで開催する。それぞれが魅力的な演奏家でプログラムが組まれていたが、スケジュールなどの関係で、足を運ぶのは結局は今日の1公演だけになってしまった。今日は5公演目で、宮本文昭さんの指揮による東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団のコンサートである。
さて、1曲目はロッシーニのオペラ『どろぼうかささぎ』の序曲。オペラ自体は上演される機会が少ないものだが、序曲だけは比較的有名だ。『どろぼうかささぎ』といえば、2008年3月の藤原歌劇団の公演が思い起こされる。会場も今日と同じ、ここ東京文化会館・大ホール。例の「かささぎ」役で大喝采を浴びた「かささぎ型ラジコン飛行機」が、5階まで吹き抜けになっている大ホールの広い空間を、自在に飛び回っていたのを思い出したのは、私だけではないだろう。
演奏の方は、とにかく楽しく、ワクワク感がいっぱい。宮本さんの音楽作りは、素直にダイナミック。やや遅めのテンポでありながら、重々しくならないのは目メリハリの効いたキレの良さと、フレーズを明瞭に浮かび上がらせるからだ。最初からかなり飛ばしていて、東京シティ・フィルのポテンシャルを目一杯引き出していた。人によって好みは分かれるところかもしれないが、なかなか魅力的な演奏だと思う。
昨年2011年1年間だけで、この曲を7回も聴いたことは、今年の最初の記事に書いたが、その中にももちろん南紫音さんの演奏は入っている。2011年5月31日、東京オペラシティコンサートホールで、出光音楽賞受賞者のガラ・コンサートであった。この日の演奏は、第3楽章のみが『題名のない音楽会』でも放送されたから、聴かれた方も多いだろう。あれから9ヵ月近くが経過して、南さんは一段とスケールアップしたようだ。
宮本さんのやや遅めのテンポに乗せて、第1楽章の第1主題から、ソロ・ヴァイオリンが豊かに歌い出す。何といっても驚かされるのは音量が豊かなこと。無理矢理大きな音を出そうとしているようには見えなかったが、艶と深みのある「良い音」で、楽器がよく鳴っている。もちろん協奏曲ということで、普通よりは音を出しているとは思うが、2列目の目の前で聴いていたとはいえ、オーケストラを従えるような堂々たるものだ。また、テンポが遅めだったから、かえって1音1音を正確に十分に鳴らすことができるようで、旋律の歌わせ方や短いフレーズの中の細かなニュアンスまで、丁寧に弾かれていたとみることもできる。丁寧、といってもリズム感もしなやかで、曲の流れは実にスムーズ。つまり、演奏の流れは流麗なのに、フレーズはクッキリ明瞭に描き出されていて、しかもかなりのハイ・テンションだった。
第2楽章の抒情的な旋律になると、柔らかく甘い音色(それでも音量は豊か)に変わり、南さんの表情も柔和になる。時に微笑みをまじえながら、美しい旋律に身を委ねるように、優しい音楽が展開していく。
第3楽章の快活なAllegro molto vivaceに入ると、弾むようなリズム感に乗せて、ヴァイオリンが飛び跳ねていくイメージだ(それでもテンポはやや遅め)。明るい音色とキレの良いパッセージが、躍動する心を煽るよう。聴いているとソロ・ヴァイオリンはけっこう揺れ幅の大きい、伸び伸びした演奏をしている。だから旋律が豊かな表情を見せてくれるのだ。その奔放なイメージの演奏に対して、宮本さんが絶妙のタイミングでオーケストラを重ねていく。ご自身もソリストとして活躍されて来られただけあって、「協奏」的なセンスは抜群だ。コーダに入ると緊張感がキリキリと高まって行き、ガリガリっという強い低音から一気に高音まで駆け抜けて、クライマックスへ。もいこれはBrava!! まちがいなし!!
今日の南さんは、全体的にやや遅めのテンポをうまく利用してヴァイオリンを縦横無尽に鳴らし、かなり突っ込んだ攻撃的とも取れる演奏だったと思う。見た目には清楚なお姫様のようで、衣装もキラキラして…、演奏は大胆で奔放、芯が強く、情熱的…。この多面性は、彼女がまだまだ成長の途上にあるということだろうか。出光音楽賞受賞者ガラの時と比べると、明らかにスケールが大きくなっている。オーケストラに対して、1対1の比重を得たといえる、実に堂々たる素晴らしい演奏であった。
後半は、ブラームスの交響曲第番。言わずと知れた名曲中の名曲である。今度は東京シティ・フィルがエンジン全開で実に素晴らしい演奏を聴かせてくれた。
ここでも宮本さんの指揮は、全楽章を通じて、やや遅めのテンポに終始する。重厚で内省的なブラームスに対するアプローチは、今日は重厚の方に重きを置いて、そこに豪快さを足したような感じだった。ブラームス特有の短いフレーズを、遅めのテンポの中で明瞭に描き出し、非常に分かりやすい音楽作りであったともいえる。
オーケストラのダイナミックレンジを広く取り、要するにffでは大音量でぶちかます。ところが弦楽5部がものすごい頑張りを見せて、管楽器群にまけないように必死の形相で弾くまくる。各パートのバランスは思いの外、良い。ノリの良い演奏ではあったが(ブラームスなのに!)、実は細かな点まで計算されていたのかもしれない。各楽章とも、下の方から盛り上げて行く感じがダイナミックで分かりやすく、ヘンに音楽をこねくり回していないところが、素直で多くの人の共感を得られるような気がした。
宮本さんの指揮する姿を2列目の真後ろで見ていたのだが、彼が小澤征爾さんに心酔しているのがよく分かる。指揮棒を持たず、両手のグーとパーで指揮をする後ろ姿は、小澤さんによく似ている。音楽的には、宮本さんの方が、剽軽で陽気な性格が表れているような…。
また、世界的なオーボエ奏者から指揮者に転向した宮本さんのような経歴の指揮者は、最近のコンクールで優勝して楽壇に登場してくる若い指揮者たちとはタイプがかなり違う(おおむね速めのテンポでリズム感良く、構造的にキッチリした演奏が多い?)。そういうご時世にあっては、宮本さんの音楽はあまり今風とはいえないような気がするが、もちろんこれは良い悪いの問題ではなく、いろいろなタイプの音楽家がいてくれた方が、聴く方も楽しめるから大歓迎である。宮本さんのブラームスを今日聴いた限りでは、彼の音楽は決して嫌いではなく、今後、聴く機会が増えていくような気がする。
アンコールはグリーグの「ホルベルク組曲」より第1曲。アンコールでよく演奏される曲だが、弦楽合奏版なので管楽器や打楽器の人がちょっとかわいそうな選曲だ。弦楽5部は、繊細かつ重厚な素敵なアンサンブルを聴かせてくれた。
宮本さんは、今年の4月から東京シティ・フィルの初代音楽監督に就任する予定だという。どのような活動になっていくのだろう。東京シティ・フィルの方も少々人材難(?)の様子も見られ、今日のステージにも応援の人がチラホラ見受けられた。一方、今日の演奏を見ていても両者の関係は好ましいもののようだ。ブラームスの熱演に対して、会場からは盛大なBravo!!の声が飛び交い、いつもはすましているコンサートマスターの戸澤哲夫さんも相好を崩して本当に嬉しそうだった。宮本文昭+東京シティ・フィルは、今後の展開がちょっと楽しみになってきた。
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