ニーノ・グヴェタッゼ ピアノ・リサイタル
Nino Gvetadze Piano Recital
2012年10月9日(月)19:00~ 東京文化会館・小ホール S席 A列 21番 4,000円
ピアノ: ニーノ・グヴェタッゼ
【曲目】
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ 第16番 ト長調 作品31-1
シューマン: アラベスク ハ長調 作品18
シューベルト/リスト編: 糸を紡ぐグレートヒェン
シューマン/リスト編: 献呈
ムソルグスキー: 組曲「展覧会の絵」
《アンコール》
ショパン: 24の前奏曲から第7番 イ長調 作品28-7
リスト:「ハンガリー狂詩曲」から第10番 ホ長調「前奏曲」
ニーノ・グヴェタッゼさんはグルジア生まれ。年齢は不詳だが、2008年のフランツ・リスト国際ピアノコンクール第2位、というくらいだから、若いことは間違いない。既に国際的なキャリアを開始しており、世界各地でオーケストラとの共演やリサイタルを開いている。CDも、ムソルグスキーの「展覧会の絵」を含むソロ・ピアノ全作品集(2009)とフランツ・リスト:ピアノ作品集「献呈」(2011)の2枚がすでにリリースされている。そして今日の会場では3枚目に当たる最新録音盤のラフマニノフのピアノ作品集が販売されていた。先の2枚のCDはすでに購入して聴いているので、だいたいこんな感じのピアニスト、という感触は持っていたが、本日、日本デビューなので、ナマで聴くのはもちろん初めてである。
ステージに登場したニーノさん(グヴェタッゼさんという名はちょっと呼びにくいので、親しみを込めてニーノさんと呼ぼう)は、スラリと背が高く、黒い髪と黒い瞳の東欧系の美しいひと。真っ赤なドレスがとてもよく似合っていた。
演奏については、まず全体の印象から。同郷のカティア・ブニアティシヴィリさんと似たようなタイプかと思いきや、ニーノさんは意外と大人しい。打鍵がそれほど強くなく、パワーをかけても音量が大きくなるわけでもなく、ダイナミックレンジはさほど広くないようだ。指がよく回るという意味での技巧という点では申し分はない。速いパッセージも難なく弾いている。また、ペダルの効果を多めに使う傾向があり、装飾的なパッセージなどは音が混ざって濁りがちになる。全体的にも、個々の音が明瞭に分離する方ではなく、いわゆる音の粒立ちが良くない。全体がもわーっとした感じである。これは決して悪い意味でいっているのではなくて、こういうタッチは彼女の個性なのであって、明瞭でない分だけ柔らかくて優しく響く。レガートの流れるような感じなどは、華麗な表現といって良い。
そういった演奏のタイプであるから、1曲目のベートーヴェンは少々ドロンとしたところがあった。曲自体も地味なことも手伝って、あまり強い印象を残す演奏ではなかったが、リサイタルの立ち上がりとしては、まずまずの滑り出しといったところ。
シューマンの「アラベスク」は分散和音がもわーっとしているので主旋律がもう少し浮き上がった方が良いなどと感じてしまったが、ニーノさんの音楽は基本的にロマン派が似合うような気がした。
シューベルト/リスト編の「糸を紡ぐグレートヒェン」でも、左手の分散和音と右手の主旋律の分離が明瞭でなく…。一方、終盤の盛り上がりは情感が込められていて素晴らしかった。
シューマン/リスト編の「献呈」は、遅めのテンポで情感たっぷり、ロマンティックな演奏である。美しい旋律と和声のこの曲は、サラリと弾いても洒落ているが、ニーノさんのようにたっぷりと旋律を歌わせ、ドラマティックに仕上げるのも、なかなか良いものである。とくに美しい人が弾いていれば、なおさらのことで…。
後半はムソルグスキーの「展覧会の絵」。この曲は比較的重めに全曲を通した。第1曲「プロムナード」の右手の単旋律から、重めの打鍵で、主張が強くなった感じ。終曲の「キエフの大門」に至るまで、強い押し出しと繊細なppとのコントラストも鮮やかで、メリハリの効いた素敵な演奏だったと思う。ここではダイナミックレンジも広がり、強めの打鍵ではなく、重めの打鍵で、最後はドラマティックな盛り上がりを聴かせてくれた。彼女のCDを聴いて思い描いていたイメージとはちょっと違っていて、やはりナマ演奏は緊張感があって、心の中の音楽性がほとばしり出てくる感じがする。あるいは録音から3年、ニーノさんの進化がそうさせたのかもしれない。ペダルの使いすぎで音が濁りがちなのも、ここでは一種の味わいになっていた。ロシアの土臭いイメージも含めた「展覧会の絵」であった。
アンコールは1曲目が「太田胃散」で、これだけ? と疑問符が湧く。やはりもう1曲、リストの「ハンガリー狂詩曲」から第10番「前奏曲」は、彼女の2枚目のCDにも収められている曲で、得意なのだろう。闊達で活き活きとした演奏であった。
実は今日のリサイタルは客の入りが悪く、東京文化会館の小ホールでも半分以下しか埋まっていないくらい。しかしニーノさんの存在を知っていて聴きに来た人たちばかり(何しろ本日、日本デビュー)だから、恒例のサイン会にも長い列ができた。大人気スターのサイン会とは違って、のんびりとほのぼのとしたムードであった。最新盤のラフマニノフの作品集を購入してサインしていただくと同時に、ネットで探した彼女のポートレートにもちゃっかりサインしていただいた。適度に明るく元気な、気さくな感じのする素敵なお嬢さんである。
今回のデビュー・リサイタルは成功だったとはいえないかもしれないが、ニーノさんは近いうちに日本でも人気者になっていく予感がする。日本ではまったく無名の状態でのスタートだったから仕方ないとは思うが、今後の活動の方法にもよるだろう。やはりどこかのオーケストラの定期演奏会にでも出演して協奏曲で派手にデビューするとか、ラ・フォル・ジュルネなどの音楽祭に出演するとか、大勢のお客さんに聴いてもらった方が手っ取り早いと思う。実力はあるのだし、美人だし…。人気の出る要素は満たしている。年に一度くらいは来日してほしいものだ。
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Nino Gvetadze Piano Recital
2012年10月9日(月)19:00~ 東京文化会館・小ホール S席 A列 21番 4,000円
ピアノ: ニーノ・グヴェタッゼ
【曲目】
ベートーヴェン: ピアノ・ソナタ 第16番 ト長調 作品31-1
シューマン: アラベスク ハ長調 作品18
シューベルト/リスト編: 糸を紡ぐグレートヒェン
シューマン/リスト編: 献呈
ムソルグスキー: 組曲「展覧会の絵」
《アンコール》
ショパン: 24の前奏曲から第7番 イ長調 作品28-7
リスト:「ハンガリー狂詩曲」から第10番 ホ長調「前奏曲」
ニーノ・グヴェタッゼさんはグルジア生まれ。年齢は不詳だが、2008年のフランツ・リスト国際ピアノコンクール第2位、というくらいだから、若いことは間違いない。既に国際的なキャリアを開始しており、世界各地でオーケストラとの共演やリサイタルを開いている。CDも、ムソルグスキーの「展覧会の絵」を含むソロ・ピアノ全作品集(2009)とフランツ・リスト:ピアノ作品集「献呈」(2011)の2枚がすでにリリースされている。そして今日の会場では3枚目に当たる最新録音盤のラフマニノフのピアノ作品集が販売されていた。先の2枚のCDはすでに購入して聴いているので、だいたいこんな感じのピアニスト、という感触は持っていたが、本日、日本デビューなので、ナマで聴くのはもちろん初めてである。
ステージに登場したニーノさん(グヴェタッゼさんという名はちょっと呼びにくいので、親しみを込めてニーノさんと呼ぼう)は、スラリと背が高く、黒い髪と黒い瞳の東欧系の美しいひと。真っ赤なドレスがとてもよく似合っていた。
演奏については、まず全体の印象から。同郷のカティア・ブニアティシヴィリさんと似たようなタイプかと思いきや、ニーノさんは意外と大人しい。打鍵がそれほど強くなく、パワーをかけても音量が大きくなるわけでもなく、ダイナミックレンジはさほど広くないようだ。指がよく回るという意味での技巧という点では申し分はない。速いパッセージも難なく弾いている。また、ペダルの効果を多めに使う傾向があり、装飾的なパッセージなどは音が混ざって濁りがちになる。全体的にも、個々の音が明瞭に分離する方ではなく、いわゆる音の粒立ちが良くない。全体がもわーっとした感じである。これは決して悪い意味でいっているのではなくて、こういうタッチは彼女の個性なのであって、明瞭でない分だけ柔らかくて優しく響く。レガートの流れるような感じなどは、華麗な表現といって良い。
そういった演奏のタイプであるから、1曲目のベートーヴェンは少々ドロンとしたところがあった。曲自体も地味なことも手伝って、あまり強い印象を残す演奏ではなかったが、リサイタルの立ち上がりとしては、まずまずの滑り出しといったところ。
シューマンの「アラベスク」は分散和音がもわーっとしているので主旋律がもう少し浮き上がった方が良いなどと感じてしまったが、ニーノさんの音楽は基本的にロマン派が似合うような気がした。
シューベルト/リスト編の「糸を紡ぐグレートヒェン」でも、左手の分散和音と右手の主旋律の分離が明瞭でなく…。一方、終盤の盛り上がりは情感が込められていて素晴らしかった。
シューマン/リスト編の「献呈」は、遅めのテンポで情感たっぷり、ロマンティックな演奏である。美しい旋律と和声のこの曲は、サラリと弾いても洒落ているが、ニーノさんのようにたっぷりと旋律を歌わせ、ドラマティックに仕上げるのも、なかなか良いものである。とくに美しい人が弾いていれば、なおさらのことで…。
後半はムソルグスキーの「展覧会の絵」。この曲は比較的重めに全曲を通した。第1曲「プロムナード」の右手の単旋律から、重めの打鍵で、主張が強くなった感じ。終曲の「キエフの大門」に至るまで、強い押し出しと繊細なppとのコントラストも鮮やかで、メリハリの効いた素敵な演奏だったと思う。ここではダイナミックレンジも広がり、強めの打鍵ではなく、重めの打鍵で、最後はドラマティックな盛り上がりを聴かせてくれた。彼女のCDを聴いて思い描いていたイメージとはちょっと違っていて、やはりナマ演奏は緊張感があって、心の中の音楽性がほとばしり出てくる感じがする。あるいは録音から3年、ニーノさんの進化がそうさせたのかもしれない。ペダルの使いすぎで音が濁りがちなのも、ここでは一種の味わいになっていた。ロシアの土臭いイメージも含めた「展覧会の絵」であった。
アンコールは1曲目が「太田胃散」で、これだけ? と疑問符が湧く。やはりもう1曲、リストの「ハンガリー狂詩曲」から第10番「前奏曲」は、彼女の2枚目のCDにも収められている曲で、得意なのだろう。闊達で活き活きとした演奏であった。
実は今日のリサイタルは客の入りが悪く、東京文化会館の小ホールでも半分以下しか埋まっていないくらい。しかしニーノさんの存在を知っていて聴きに来た人たちばかり(何しろ本日、日本デビュー)だから、恒例のサイン会にも長い列ができた。大人気スターのサイン会とは違って、のんびりとほのぼのとしたムードであった。最新盤のラフマニノフの作品集を購入してサインしていただくと同時に、ネットで探した彼女のポートレートにもちゃっかりサインしていただいた。適度に明るく元気な、気さくな感じのする素敵なお嬢さんである。
今回のデビュー・リサイタルは成功だったとはいえないかもしれないが、ニーノさんは近いうちに日本でも人気者になっていく予感がする。日本ではまったく無名の状態でのスタートだったから仕方ないとは思うが、今後の活動の方法にもよるだろう。やはりどこかのオーケストラの定期演奏会にでも出演して協奏曲で派手にデビューするとか、ラ・フォル・ジュルネなどの音楽祭に出演するとか、大勢のお客さんに聴いてもらった方が手っ取り早いと思う。実力はあるのだし、美人だし…。人気の出る要素は満たしている。年に一度くらいは来日してほしいものだ。
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