Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/12(木)コンセルトヘボウ管/セクシー・ユジャ・ワンの天翔るチャイコフスキーP協奏曲第2番!!

2015年11月12日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
2015-2016 海外オーケストラシリーズ I
ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団


2015年11月12日(木)19:00~ 東京芸術劇場コンサートホール S席 1階 C列 16番 26,000円
指 揮:グスターボ・ヒメノ
ピアノ:ユジャ・ワン*
管弦楽:ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団
ヴァイオリン・ソロ:リヴィウ・プルナル**
チェロ・ソロ:グレゴール・ホルシュ**
【曲目】
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲 第2番 ト長調 作品44* **
《アンコール》
 スクリャービン:「左手のための2つの小品」作品9より 第1曲 嬰ハ短調*
 チャイコフスキー/R.ワイルド編:『白鳥の湖』より「4羽の白鳥の踊り」*
チャイコフスキー:交響曲第6番 ロ短調 作品74「悲愴」
《アンコール》
 シューベルト:「キプロスの女王ロザムンデ」作品26 D.797より第3幕 間奏曲 変ロ長調
 チャイコフスキー:歌劇『エフゲニー・オネーギン』より「ポロネーズ」作品24

 東京芸術劇場主催の「2015-2016 海外オーケストラシリーズ」第2弾は、ロイヤル・コンセルトヘボウ管弦楽団である。世界の3大オーケストラに数えられることもある名門中の名門。今回の来日ツアーを率いてくるのは新進気鋭のグスターボ・ヒメノさん。演奏を聴いたことがないばかりか、名前すら聞いたことがなかった。プロフィルによると、スペインのバルセロナ生まれで、2001年にロイヤル・コンセルトヘボウ管の首席打楽器奏者(!)に就任した後、アムステルダム音楽院で指揮を学び、マリス・ヤンソンスさんに認められて副指揮者などを務めた。2013年にミュンヘン・フィルの定期公演で指揮者デビューをしたというから、驚きではあるが、まだほとんど新人であることも間違いない。それがこの世界の超一流のオーケストラの日本ツアーを任されたのだから、楽団からの信頼も厚いということなのだろう。
 今回は、11/7京都、11/8西宮。11/9名古屋、11/11川凬、11/12東京・芸劇、11/13東京・サントリーホールの5都市で6公演を行う。そのうち、西宮と川凬を除く4公演では、ユジャ・ワンさんをソリストに迎えてチャイコアスキーのピアノ協奏曲第2番(!!)がプログラムされている。この「第2番」というのがみミソで、今や鳥を落とす勢い・・・というよりは自らが大空を飛び回っているようなユジャさんと、世界の超一流オーケストラという組み合わせで、その存在は知っていてもほとんどの人が聴いたことすらないという超レアな曲を演奏するというのだから堪らない。こんな機会は二度と訪れない。この曲をナマで聴く機会が二度と訪れないかもしれない。ということであれば、「聴かない」という選択肢はないも同然ということになる(もっとも費用がかかりすぎるのが最大の阻害要因ではあるが)。

 本日のプログラムは明快そのもの。前半がチャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番。後半が同じチャイコフスキーの交響曲第6番「悲愴」。バルセロナ出身の指揮者とオランダのオーケストラ、中国出身・アメリカ育ちのピアニストが演奏するロシアの音楽・・・・。さてさて、どうなることやら。
 今日の座席位置は1階の3列目センターよりやや下手寄りの、いわゆる鍵盤側である。オーケストラの配置としては、第1ヴァイオリンの対向にチェロを配置するもので、弦楽5部は高い方から時計回りに順に並んでいることになる。最近では珍しくなったこの配置だが、ピアノ協奏曲第2番の第2楽章にヴァイオリンとチェロのソロがけっこうなボリュームであるので、そこを意識したものだと思われる。通常の配置だと、チェロの首席が巨大なピアノの影に隠れてしまうからだ。

 さて登場したユジャさん。天衣無縫な演奏ももちろんだが、過激な衣装も大きな話題(というか期待?)になる。今日はミニ・スカートではなく・・・・黒っぽい色合いのロング・ドレスではあったが、超ミニのスカート丈の下の方はシースルーで、スラリと伸びたお御足と12cmはあろうかというピンヒールまでが透けて見えるのである。いやー、目のやり場に困る(実は釘付け?)。相変わらず衣装も天衣無縫なユジャさんにBrava!
 肝心の演奏の方はというと、とにかくこの曲に関してはユジャさんの存在感が圧倒的で、どうしてもそこだけに聴き入ってしまう。第2楽章のヴァイオリンとチェロのソロを除くと、世界最高法のオーケストラがどんな演奏をしているたのか、ほとんど記憶に残っていないのである。それくらいユジャさんが強烈だったのか、それともヒメノさんの力量なのか・・・・。


 第1楽章。ロシアの民族的な香りのするオーケストラの全合奏で始まり、すぐにピアノがガツンと主題をなぞる。ユジャさんのピアノは硬質な鋭さをもつ音質で、重低音はエネルギーが漲るが、中音域から高音域についてはクリアなサウンドで、非常に明晰な印象を受ける。しかし何より彼女らしいのは、超絶的な技巧表現に尽きるだろう。文字通り目にも止まらぬ速さで駆け巡る指先からは、正確無比で立ち上がりの鋭い、濁りのない音が繰り出されてくる。技巧的な部分はかえって技巧性を強調するようなところもあるが、それが嫌味ではなく、いかにも楽しそうな無邪気さで、聴く者の意識を引き込んでいくのである。気がつけば弱音部の繊細なタッチなども聴き応えは十分だし、抒情的な表現も若い女性に似合うロマンティックな情感を湛えている。長大なカデンツァはまさに一人舞台となり、縦横無尽に駆け巡る超絶技巧や、幅広いダイナミックレンジから繰り出される豊かで奥行きの深い表現もたっぷりと聴かせてくれる。世界一(といっても良いと思う)の超絶技巧を持っているからこそできる表現がユジャさんにはある。ただ指が速く回るだけではなく、その技巧が生み出す華麗な表現力が最大の魅力なのである。
 第2楽章は、いささか掟破りの珍しい構成になっている。構造は3部形式だが、主部の主題提示が延々と続くヴァイオリンのソロとオーケストラによってなされる。これはあたかもヴァイオリン協奏曲の緩徐楽章のようで、非常に抒情的で美しい。さらにしばらくするとそこにチェロのソロが加わる。そうなるとダブル協奏曲のようになる。そしてようやくピアノが入って来るが、今度はピアノのソロがしばらく続く。中間部になるとようやくピアノ協奏曲らしくなり、ピアノとオーケストラの掛け合いが展開し徐々に盛り上がっていく。オーケストラ主体のクライマックスではピアノはキラキラした分散和音で伴奏風になる。再現部になるとふただびヴァイオリンのソロとオーケストラが協奏曲風に派手に展開し、ヴァイオリンのカデンツァ風の部分まである。美しい主題が戻り、オーケストラがすーっと引いていき、今度はヴァイオリンとチェロとピアノがピアノ三重奏のように掛け合う。この緩徐楽章は誰が主役なのかよく分からない。ちょっとヘンな曲ではあるが、音楽自体はチャイコフスキーならではの美しい旋律に満ちている。ここでのユジャさんのビアノは終始室内楽的なバランス感覚で、透明で繊細な響きが印象的だった。
 第3楽章はロシアの民族舞曲を想起させる陽気で躍動的なロンド。この楽章は圧倒的にピアノが主役になり、ユジャさんのピアノが元気いっぱいに主題を叩き出すかと思えば、装飾的な無窮動的なパッセージはキラキラと光彩を放ちつつ、超絶技巧が駆け巡る。派手なピアノの影に隠れてしまいがちだが、オーケストラもスピード感のあるリズムと躍動的なダイナミックスで盛り上げていた。
 チャイコフスキーのピアノ協奏曲第2番。もちろん私もナマで聴くのは初めてであった。この貴重な体験を十分に堪能すべく、珍しく予習をしたくらいである。某著名な世界的巨匠の音源で予習したのだが、バランス良く冷静な演奏で客観的な印象が強くなる録音と比べれば、ナマ演奏は伝わって来るパッションが違う。芸劇のコンサートホールは残響音が多く、音が響き過ぎるキライがあり、1階席の前の方だと低音の抜けが悪く音がゴモゴモとこもったようになるし、ピアノの音も底から出てくる雑音を多く含んでいて、決してスッキリはしていない。録音音源よりはるかに音自体は良くないのだが、実際には、ユジャさんの持つ広い空間を自由に飛び回るような感受性と、過激なまでの超絶技巧と、押し寄せてくる音楽的なエネルギーに圧倒されっぱなしで、録音などとは比べるべくもないと思えてしまった。やはり目の前で演奏している人と同じ時間と空間を共有するということが、音楽の本質なのだとつくづく感じさせられた演奏であった。もちろんBraaava!!

 ユジャさんのソロ・アンコールは2曲も。スクリャービンの「左手のための2つの小品」作品9-1は、右手を椅子に置いたまま、左手だけで弾く。非常にロマンティックで美しい曲だ。これも一種の超絶技巧だが、ユジャさんの繊細で優美な感性が光る名演であった。
 続いて、チャイコフスキー/R.ワイルド編の『白鳥の湖』より「4羽の白鳥の踊り」。聴き慣れた旋律が、とくに高音域の華麗な技巧に彩られて、鮮やかで、可憐な演奏であった。

 後半は「悲愴」交響曲。前半では存在感が薄かった(失礼)ヒメノさんの実力拝見といったところだ。こちらの方は結論を先に言ってしまうと、「言いたいことがよく分からない」といった感じ。何しろオーケストラはロイヤル・コンセルトヘボウ管なのだから、演奏自体は文句の付けようもない。技術的には上手いに決まっている。しかもこの若い指揮者を盛り立てようと、一所懸命演奏している。だから今日の演奏にはヒメノさんの音楽的な個性、解釈や表現が表されていたといって良いのだろう。それを前提に言うのだが、演奏自体はとても上手いのだが、どことなく感じる違和感のようなものがあって、要するにチャイコフスキーの悲哀が、悲愴感が伝わってこないのである。スコアを忠実に再現しているのに・・・・何故だろう。
 ヒメノさんの指揮にはまだ固さがあるように感じる。力みというべきか。若い指揮者にありがちな、速めのテンポで伯を正確に刻み、ストレートな表現・・・・といった感じではない。旋律やフレーズを大きく歌わせることを重視し、各パートに的確に指示を出していく。テンポの採り方や間合いの取り方なども十分に考えていて、細かいところまでしっかりと解釈が及んでいる。それなのにちょっと欠けているのは、自然なしなやかさといったところか。要するに、アタマで創り上げた音楽を表現しているのだが、少々わざとらしさを感じるのである。
 あと、これは言っても仕方のないことかもしれないのだが、やはり音楽から「冷たさ」が感じられない。ラテン系の指揮者の持つ陽性の感性が表れていて、それはそれで個性だから良いことではあると思うのだが・・・・。例えば第2楽章の5拍子のワルツなどは、寒い国のロシアからヨーロッパの中心であるウィーンの方角を見つめた屈折した憧れのような情感がほしい。それがヨーロッパ側のストレートな音楽になっているような、そういった印象が、曲全体に感じられたのであった。

 アンコールは2曲。シューベルトの「ロザムンデ」間奏曲は・・・・これは素晴らしかった。何よりもオーケストラが、ロイヤル・コンセルトヘボウ管が本来持つ力をそのまま普通に発揮したといった感じ。弦楽のアンサンブルや木管の柔らかな質感など、ひたすら美しく、涙が出そう。ヒメノさんの指揮も実に心穏やかにゆったりとしたテンポをたどり、旋律に情感が豊かに込められていた。
 最後は、チャイコフスキーに戻り、『エフゲニー・オネーギン』より「ポロネーズ」。またロシアの寒さが感じられない国際色豊かな演奏に戻ったが、「ポロネーズ」だから良いのかもしれない・・・・・。
 ヒメノさんの指揮は、もっと他の作曲家の作品も聴いてみないと分からないようである。
 
 今日のロイヤル・コンセルトヘボウ管のコンサートは、シンプルなプログラムに多彩なアンコールということで、終演は21時30分という長尺なものになった。終演後には、ヒメノさんとユジャさんのサイン会もあったが、さすがに遅くなりそうなのでパスした。明日はサントリーホールでまたロイヤル・コンセルトヘボウ管を聴く。ユジャさんの協奏曲と、メイン曲はリムスキー=コルサコフの「シェエラザード」。またロシアものである。さてさてどうなることか。

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