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オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

11/1(木)バンベルク交響楽団/85歳ブロムシュテットの毅然とした造形の王道を行くベートーヴェン

2012年11月03日 03時01分28秒 | クラシックコンサート
バンベルク交響楽団 日本公演 2012
BANBERGER SYMPHONIKER Japan Tour 2012
~ブロムシュテット85歳記念~


2012年11月1日(木)19:00~ サントリーホール・大ホール A席 2階 LB1列 4番 15,000円
指揮: ヘルベルト・ブロムシュテット
管弦楽: バンベルク交響楽団(バイエルン州立フィルハーモニー)
【曲目】
ベートーヴェン: 交響曲 第3番 変ホ長調 作品55「英雄」
ベートーヴェン: 交響曲 第7番 イ長調 作品92
《アンコール》
 ベートーヴェン: 劇音楽「エグモント」作品84より序曲

 初めに結論を言ってしまえば、今日のコンサートは最高クラスに超が付くくらいの、素晴らしい演奏だった。
 KAJIMOTOの招聘による「ワールド・オーケストラ・シリーズ 2012-2013」に組み込まれ、かなり早い時期からセット券が発売されていた公演がやっと始まった。このシリーズは、今年の12月にトゥールーズ・キャピトル国立管弦楽団、来年3月のロンドン交響楽団のツアー公演である。
 バンベルク交響楽団の今回の日本ツアーでは、全国7都市で計8回のコンサートが開催される。東京では、今日と11月6日の2回、サントリーホールだ。ツアー・プログラムは、ベートーヴェンの交響曲が第3番「英雄」と第7番、ブルックナーの交響曲第4番「ロマンティック」、モーツァルトのビアノ協奏曲第17番(ソリストは、ピョートル・アンデルシェフスキさん)を組み合わせとなっている。今日がツァーの初日で、オール・ベートーヴェン・プログラムというわけだ。
 バンベルク交響楽団はこれまでに3回の来日公演を行っているということだが、あまり記憶に残っていない。世界的には演奏ツアーが有名なオーケストラ(?)で、ドイツの本格派として評価も高い。日本にはここ最近は来ていないこともあって、満を持しての来日というところである。
 一方、指揮者のヘルベルト・ブロムシュテットさんは日本ではすっかりお馴染みの人。NHK交響楽団の名誉指揮者にも冠しており、昨年2011年9月のN響の定期公演でも聴いている。ブロムシュテットさんについては個人的な思い入れがある。彼がシュターツカペレ・ドレスデンの主席指揮者時代の1978年、来日公演でベートーヴェンの交響曲第6番「田園」と第7番(「運命」だったかもしれない)を、確か日比谷公会堂で聴いた記憶がある。ドレスデン国立歌劇場管弦楽団は、当時は燻し銀などと呼ばれていたが、今もまったく変わらないスラリとした長身で、響かない会場で渋い音のベートーヴェンであったと記憶している。そんな思い出に浸りつつ、85歳になったブロムシュテットさんの、今日もベートーヴェンである。

 さて、演奏の話の前に、オーケストラの配置について。弦楽器の配置は伝統的な対向配置で、チェロは第1ヴァイオリンの奥、その後ろにコントラバス、ヴィオラは第2ヴァイオリンの奥であった。数を数えてみたら14-14-10-8-6。右側の第2ヴァイオリンが薄くならないように、2枚増やしてバランスを取っていたようだ。一方、管楽器は通常の配置で、正面雛壇の1列目がフルートとオーボエ、2列目がクラリネットとファゴット、3列目にトランペット、その後ろにティンパニ。ホルンは左側であった。やはりベートーヴェンは、このような対向配置の方が良い(ただしホルンは右側の方がバランスが良いような気もするが)。

 1曲目は「英雄」。プログラムの前半が「英雄」というのは珍しい。ブロムシュテットさん独特の振りの少ないタクトで曲が始まった。おや?っと感じたのは、音量が意外に小さい。第1楽章の雄壮な音楽を比較的小さめの音で、引き締まった演奏だ。基本的にはインテンポで、むしろ粛々と、飾らない「英雄」が展開していく。テンポは揺るがないが、構造はがっちりしている。今日はLB1列なので、オーケストラの全楽器が見渡せるし、近いからナマの音が飛んでくる。木管と弦のバランスや、リズムを刻む金管も強すぎないように見事にコントロールされている。
 ブロムシュテットさんが創り出す曲全体の構造は、第1楽章から第4楽章にかけて、徐々に音量を上げていくというもの。とくに「英雄」の場合は、第1楽章の雄壮で劇的な曲想に対して、第4楽章が変奏曲で全体にトーンが低い。その辺を補う意味もあったのだろう、第4楽章がドラマティックな仕上がりになっるように、巧妙に音量をコントロールしていた。
 基本的にはインテンポといったのは、もちろん一本調子という意味ではない。大きくテンポを揺らすことはなく、律儀にきっちりと拍を刻むことを基本としつつ、ここぞというポイントでは、微妙なタメが入る。躍動感があって推進力も十分なのに、音楽的な色合いもたっぷりあって、実に素晴らしく、心地よい「英雄」であった。聴き慣れている名曲を、イメージ通りに演奏しつつ、新鮮味さえ引き出すという、離れ業をやってのけているのである。
 また、ブロムシュテットさんの音楽をうまく表現していたのがオーケストラである。バンベルク交響楽団は、何よりもドイツ的なローカルな音を出す。弦楽は緻密なアンサンブルでありながら、透明ではなく渋めの色合いを持っている。管楽器はどのパートももちろん上手いが、楽器本来の音色を艶やかで潤いのある音色で演奏する。そして、ティンパニはやや強めで、半拍遅れるような絶妙のリズム感を発揮する。オーケストラ全体は、派手さはなく、ちょっと重厚で、渋いイメージだが、人肌の温もりを感じさせる、文化的な香りがする。このような味わいは、同じドイツでもベルリン・フィルのような国際的なオーケストラとも違うし、現在のドレスデン国立歌劇場管弦楽団のような宮廷音楽のように洗練された気品とも違う。地域に根付いた市民オケの最高級版といったところだろうか。

 後半の第7番も基本的には同じパターンであった。第1楽章から音量を抑え気味にし、楽章が進むにつれてパワーが漲ってくる。終楽章の怒濤のリズムの躍動は、背合奏の音圧となって轟き、素晴らしいクライマックスとなった。
 第1楽章の序奏は遅めで、管楽器をゆったりと歌わせている。主題提示部に入るとテンポがあがってキリリと引き締まった演奏に変わり、ダイナミズムも上がっていくが、8割低度にパワーを抑えている。続けて演奏された第2楽章は、テンポをリズミカルに速めにし、演奏をだらけさせない。第3楽章のスケルツォはテンポを速くしないで、速いパッセージも明瞭に分離するような、しっかりした演奏を聴かせる。第4楽章になればパワーも全開になり、躍動的に盛り上げる。ティンパニが強めに煽り、ホルンが吠える。オーケストラの音色はやはりちょっと渋めの、いかにもドイツのオーケストラ・サウンド。律儀でお堅い所はあるが、どこか暖かみがある。非常に人間味のある音色である。
 ブロムシュテットさんは、非常に手堅く、真正面から楽曲に取り組むという、いわば王道を行く姿勢だ。各楽章ともリピートををスコア通りに行い、ヨコの流れはテンポ感良く、推進力がある。タテの重なりは堅牢な構造性を押しだし、揺るぎないイメージ。ここまで正統派のベートーヴェンは、最近では珍しいのかもしれない。とにかく、余分なことは一切しない。スコアから読み取った音楽を、素直に音に置き換えたとき(その音が素晴らしいバンベルク交響楽団)、ベートーヴェンがどれほと素晴らしい作曲家だったのか、その本質が見えた(聞こえた)ような気がした。
 ところが、実際に聴いていると、血湧き肉躍るようなパッションが伝わって来て、聴いている私たちに共鳴・共振していくようでもある。「リズムの権化」といわれるように、この曲はピタリとはまったときには、ものすごい一体感が生じて、興奮がかき立てられることになるが、今日がまさにその演奏。久しぶりに第7番で興奮を味わった。

 今日のコンサートは、85歳になったブロムシュテットさんとバンベルク交響楽団という本邦初の組み合わせであったが、素晴らしい演奏で、ドイツ音楽の、ベートーヴェンの神髄を聴かせてもらったような気がする。ところが会場の入りはあまり良くなく、各席種で空席が目立った。それでもコアなファンが大勢来ていたようで、どちらかといえばかなりツウ好みの演奏に会場は大喝采!! 大いに盛り上がり、Bravo!!が飛び交った。今日のブロムシュテットさんとバンベルク交響楽団は、間違いなくBravo!!であった。

 アンコールは「エグモント」序曲を振る舞うという大サービス。交響曲を1曲、ギュッと圧縮したようなこの名曲を、この音で聴かされたら堪らない。長調に転じたコーダのトランペットとホルンの高らかな咆哮は、もう涙ものであった。

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2 コメント

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11/2名古屋公演 (樋上 昇)
2012-11-03 08:44:15
私は翌日の名古屋公演を聴きました。
後半の重戦車のような7番も見事でしたが、特に感動したのは前半のエロイカでした。
まさに私にとって理想のエロイカ、他に言うことはありません。
それにしても、あのセカンドヴァイオリンの深い響きは何なのでしょう。あと、オーボエのお姉さんの上手かったこと。
名古屋でもアンコールはエグモント序曲で、弦の有機的な厚みのある響きは、フルトヴェングラー時代のベルリン・フィルって、こんな音だったんじゃないかなあと思わせるものがありました。宇野功芳さんがよく使う、切れば血の出るような響きってやつですね。
当然、観客は総立ちで、一般参賀もありました。
今日は福岡、明日は静岡とハードなツアーが続くようです。ブロムシュテットさんとバンベルク交響楽団の皆さん、くれぐれもお疲れのないよう、願いたいものです。
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伝統の継承 (ぶらあぼ)
2012-11-03 22:50:06
樋上 昇 様
コメントをお寄せいただきありがとうございます。
第2ヴァイオリンは対向配置にして2枚増やしたことで、いつもより前面に出てきたのかもしれませんね。
オーボエとフルートの二人の女性奏者は、並んでノリノリで吹いていましたね。ブロムシュテットさんにとっては孫の世代くらいでしょうか。あのように演奏を通じて伝統が受け継がれていくのでしょうね。とても素晴らしい演奏会でした。
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