Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

12/24(土)リクルートスカラシップ/若手のトップクラスのアーティストたち/瑞々しい感性の室内楽

2016年12月24日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
第22回 江副記念財団 リクルートスカラシップコンサート

2016年12月24日(土)13:00〜 紀尾井ホール A席 2階 BR1列 7番 2,000円
【出演者】〜江副記念財団 器楽奨学生(年次順)
ピアノ:高木竜馬(35回生/1992年生まれ)
ピアノ:北村朋幹(36回生/1991年生まれ)
ヴァイオリン:黒川 侑(37回生/1990年生まれ)
ヴァイオリン:弓 新(41回生/1992年生まれ)
チェロ:岡本侑也(42回生/1994年生まれ)
ピアノ:阪田知樹(43回生/1993年生まれ)
ヴァイオリン:城戸かれん(43回生/1994年生まれ)
ヴァイオリン:山根一仁(43回生/1995年生まれ)
ヴァイオリン:坪井夏美(44回生/1993年生まれ)
ピアノ:桑原志織(44回生/1995年生まれ)
チェロ:上野通明(44回生/1995年生まれ)
ピアノ:小林海都(45回生/1995年生まれ)
チェロ:水野優也(45回生/1998年生まれ)
ヴァイオリン:毛利文香(45回生/1994年生まれ)
《特別出演》
ピアノ:田村 響(34・40回生/1994年生まれ)
ヴィオラ:田原綾子(1994年生まれ)
【曲目】
ブラームス:ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 作品78「雨の歌」(毛利/桑原)
フォーレ:ピアノ五重奏曲 第2番 ハ短調 作品115(城戸/弓/田原/水野/北村)
ラフマニノフ:2台ピアノのための組曲 第2番 作品17(田村/高木)
ラヴェル:ピアノ・トリオ イ短調(黒川/上野/阪田)
ドヴォルザーク:ピアノ五重奏曲 イ長調 作品81(山根/坪井/田原/岡本/小林)
《アンコール》
 J.S.バッハ/北村朋幹編・指揮:ブランデンブルグ協奏曲 第5番より第1楽章(全員)

 「公益財団法人 江副記念財団」は、わが国の社会ならびに芸術文化の振興・発展を目的として、学術、芸術(音楽・クリエイティブ)およびスポーツ分野を中心に、世界で活躍することを目指す若者への奨学金の支給や助成を行っている。本日のコンサートは、音楽の器楽部門の奨学生たちによる定例のもので今回で22回目の開催となる。これまでは奨学生達によるソロ演奏が中心であったが、今回は奨学生達が集まっての室内楽のプログラムが組まれた。

 出演は奨学生のうち35回生から45回生までの15名に特別出演者を加えての16名。いずれも1990年代生まれで18歳〜26歳。身分は現役の音大生・大学院生・海外留学生などだが、演奏家としての活動はプロのソリストないしはプロレベルの皆さんで、この年代の演奏家としてはまさに日本でトップクラスの錚々たる面々で、国内外の有力な音楽コンクールで優勝や上位入賞歴を持っている。私も聴いたことがある人ばかりだ。なお、当所かに出演する予定だった石田啓明さん(45回生/1994年生まれ)は体調不良により出演できなくなり、代わりに田村 響さんが出演した。また器楽奨学生はピアノ、ヴァイオリン、チェロだけだったため、奨学生ではないがヴィオラの田原綾子さんが特別出演として参加している。

 曲目を見れば分かるように、どの曲も3〜4楽章構成の本格的な大作ばかり。通常、この手の顔見せコンサートでは1楽章ずつなどに絞り込んで演奏するものだが、本日のコンサートは一切の手抜きなしで、全曲とも全楽章が演奏された。午後1時開演だったのは演奏時間が長くかかるからで、15分の休憩を2度挟んで、終演は何と5時15分。ワーグナーの楽劇並みの長丁場であった。しかし演奏する皆さんはそれぞれの1曲に集中しているので極めて緊張感が高く、素晴らしい演奏を聴かせてくれた。だから聴く方としてもいささか疲れるくらいの重厚長大のコンサートだったのである。

 ところで今日の席は、私としては珍しい2階のバルコニー。このコンサートに関しては情報を得ていなかったのでかなり出遅れてしまい、ほとんど完売間近だったところをギリギリチケットを入手できたのであった。それで2階になってしまったのだが、それでもステージ寄りの右側バルコニーの1列目、つまりステージを真横から見下ろす位置を確保することができた。ここなら演奏者たちからは近いし、表情も読み取ることができる。ただしステージ上の広い空間に拡散した音を残響音と一緒に聴くことになるので、弦楽器の細やかなニュアンスなどは聴き取りにくい。室内楽を聴くのにはギリギリセーフといったところだろう。
 以下、演奏順に見ていくつもりだが、何しろ出演者が多いので、皆さんの経歴などの紹介は割愛させていただく。曲数も多いので楽曲の説明もなし、またいつものように楽章毎のレビューはせずに、全体の印象を述べるに留めたい。

 第1部。1曲目はブラームスの「ヴァイオリン・ソナタ 第1番 ト長調 作品78『雨の歌』」。ヴァイオリンは毛利文香さん、ピアノは桑原詩織さんという豪華でフレッシュな組み合わせだ。大学が違うとデュオでの演奏は機会が少ないだろう。2階からの距離感で聴いていると、毛利さんのヴァイオリンはとても大らかで豊かに旋律を描き出しているのがわかる。音質はまろやかで、柔らかく非常に艶やか。紀尾井ホールでのソナタということで、音量も大きめに出しているようだ。スケール感があって豊潤な演奏である。一方の桑原さんのピアノは、ヴァイオリンと適度なバランスを保つためにか、かなり繊細なタッチで微妙なニュアンスの表現が上手い。その中でもダイナミックレンジをできる限り広めに採っていて、ドラマティックな表現になっていた。高音域のキラキラした煌めきが美しい。二人の創り出すデュオのイメージは、女性的な柔らかさとロマンティックな憧れのようなイメージが満ちていて、とても素敵な演奏だったと思う。

 2曲目はフォーレの「ピアノ五重奏曲 第2番 ハ短調 作品115」。第1ヴァイオリンが城戸かれんさん、第2ヴァイオリンは弓 新さん、ヴィオラが田原綾子さん、チェロが水野優也さん、ピアノが北村朋幹さんである。ピアノ五重奏曲はあまり聴く機会がないので、いささかコメントしづらいものがあるが・・・・。曲自体が色彩感豊かに煌めくようなピアノと分厚いアンサンブルを聴かせる弦楽四重奏により濃厚な色彩感に彩られている。室内楽もここまで進化してくるとピアノ協奏曲に近いイメージとなる。弦楽四重奏のアンサンブルは分厚く、たった4名とは思えないくらいの濃厚なサウンドで、音量も豊かであった。その中で、分厚い和声を描くアンサンブルの中から、時折ヴァイオリンやヴィオラの旋律がすーっと浮き上がって来たりして、アクセントを付けている。ピアノは終始煌びやかな色彩感を放っていたが、明瞭なタッチで輪郭のハッキリした音が創られていて、時折見せる男性的な力感も伝わってくる。4つの楽章を通じて感じたのは、アンサンブルの見事さで、目に会えない何かに向かって全員の気持ちが集中しているように感じた。縦の線よりも横の線が豊かに感じられる、流れの見事な演奏であった。

 1回目の休憩を挟んで、第2部はラフマニノフの「2台ピアノのための組曲 第2番 作品17」から。第1ピアノが田村 響さん、第2ピアノは高木竜馬さんである。普通のコンサートではあまり聴く機会のない曲だと思うが、ピアノ協奏曲第2番と同じ時期に創られた曲であり、抒情的で感傷的な旋律も散りばめられている。組曲といっても「序奏」「ワルツ」「ロマンス」「タランテッラ」の4曲の組み合わせは、急-舞-緩-急の4楽章構成のソナタであるとも捉えることができる。演奏の方は、かなり迫力のあるものになった。さすがに男性2名がガンガン弾くのを2階で聴くと、その音圧に圧倒される。この位置では、第1ピアノと第2ピアノが明瞭に区別できず、音が混ざってしまうので、余計にそう思えるのかもしれない。ただし、音の奔流の中からラフマニノフならではの抒情的な主題が現れると、2台のピアノの役割がハッキリ分かれるのが感じ取れる。2人演奏は十分にロマンティックで、爆発的にドラマティックで、素晴らしいとは思ったのだが、ちょっと音量が大きすぎるような気がした。2台ピアノの場合は向かい合って置く。奏者は離れていても楽器の中心部は近いので両者の音が混ざってしまうのは仕方ないが、響きが良く、残響の長い紀尾井ホールでは、いささかツライものがあるかもしれない。

 続いて、ラヴェルの「ピアノ・トリオ イ短調」。ヴァイオリンは黒川 侑さん、チェロは上野通明さん、ピアノは阪田知樹さんである。かなり繊細な印象で始まったと思ったが、すぐに力感が増し、男性3名によるトリオらしさが出てくる。ピアノ・トリオの場合は3人とも楽器が違うので、それぞれの特徴がクッキリ鮮やかに現れる。黒川さんのヴァイオリンは繊細な印象で絹のような光沢のある音色。上野さんのチェロは強く押し出して来るが音色は明るくて濃厚。阪田さんのピアノは印象派風の透明感を見事に表現していた。3名で創り出すラヴェルの世界は、男性的な力感と、躍動感・推進力もあって、この曲の印象を変えてしまうような新鮮さが感じられた。できれば、1階のステージ近くで聴きたかったと思った。

 ここでもう一度休憩が入り、第3部はドヴォルザークの「ピアノ五重奏曲 イ長調 作品81」という大曲。第1ヴァイオリンは山根一仁さん、第2ヴァイオリンは坪井夏美さん、ヴィオラは田原綾子さん、チェロは岡本侑也さん、ピアノは小林海都さんである。先ほどのフォーレと違って、この曲は、弦楽が細かく役割分担されているため、主題がヴァイオリンやチェロ、そしてヴィオラにも回ってくるので、それぞれの楽器の特徴的な音色を楽しむことができる。山根さんのヴァイオリンはやや硬質で緊張感が高いイメージ、坪井さんは柔らかく繊細な音色が美しい。田原さんのヴィオラは豊かな音量で大らかに広がるイメージ、岡本さんのチェロは端正で深い音色。小林さんのピアノは透明なクリスタルのような音色だろうか。この曲はドヴォルザーク特有の土の香が感じられるがとても抒情的で美しい旋律に彩られている。各楽章を通じて、主題が弦楽四重奏を中心に描き出されていてピアノは背景を彩るように絡みつく。だからこの曲は2階で聴いていても5名の存在がはっきりと認識できた。5名の力量が均等で、アンサンブル能力も高く、非常によくまとまっていた。それでいて各奏者の特徴(=個性)が聴き取れるくらいに明瞭であり、全員でひとつの方向性を目指していることもよく伝わって来るし、その中での個性を主張し合う姿勢も忘れていない。だから聴いていると、演奏者たちが楽しんでいる様子も分かるし、真剣に取り組んでいることも伝わって来る。素晴らしい演奏だったと思う。

 これだけのボリュームのコンサートだったので、しかも出演者も多いので、まさかアンコールが用意されているなどとは夢にも思わなかったが・・・・。カーテンコールの中、北村さんがトークを始め、ホール・スタッフがステージのセッティングを変えていく。アンコール曲はJ.S.バッハの「ブランデンブルグ協奏曲 第5番」より第1楽章。これを本日の出演者全員で演奏できるように、北村さんが編曲したのだという。すなわち、2台ピアノは連弾×2で8手。第1ヴァイオリン3、第2ヴァイオリン3、ヴィオラ1、チェロ3という編成である。ピアニストが一人余るがこれは北村さんご自身が指揮をする。久し振りに聴いた「ブランデンブルグ協奏曲」であったが、やたらと声部が多い、濃密な編曲、濃厚な演奏。速めのテンポで、とてもゴージャスな響きがホールを満たしていた。弦楽が分厚くなるため、ピアノが8手もいるのに通奏低音のような位置付けではもったいないと思っていたら、終盤にはちゃんと8手によるカデンツァが用意されていた(これだけでも相当スゴイ)。素晴らしい才能の皆さんに、Bravissimo!!

 終演後のホワイエは、出演者の皆さんにそれぞれの関係者とファンの皆さんでごった返していた。出演者全員で、ホールの階段のところで記念写真を撮影していたが、確かにここにいる演奏家の皆さんは、この年代のトップクラスの人たちであることは間違いない。数年の後、ここにいる皆さんは世界を舞台に活躍していることになるだろう。その日が来るのを待ち遠しく思うのは私だけではないはずである。とにかくものすごいコンサートであった。


 なお、今日のコンサートの模様がテレビで放送されることになっている。
 来年2017年1月9日(月)午前8時〜8時53分 BSジャパン(BS 7ch)
 たった1時間弱の番組ではかなりの部分がカットされてしまうが、コンサートの雰囲気は伝わるだろう。聴きに来られなかった方々、ぜひ録画してご覧ください!!


← 読み終わりましたら、クリックお願いします。


★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★

当ブログの人気ページをご紹介します。
↓コチラのバナーをクリックしてください。↓







コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 12/22(木)小林沙羅・水口聡・大... | トップ | 12/28(水)東響「第九と四季」/... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

ブログ作成者から承認されるまでコメントは反映されません。

クラシックコンサート」カテゴリの最新記事