Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

10/31(日)神尾真由子&クルティシェフ デュオ・リサイタル/完璧な技巧と繊細な表現に磨きがかかる

2010年11月03日 11時34分46秒 | クラシックコンサート
神尾真由子&ミロスラフ・クルティシェフ デュオ・リサイタル

10月31日(日)18:30~ 横浜みなとみらいホール・大ホール S席 1階 C9列 32番 4,000円
ヴァイオリン: 神尾真由子
ピアノ: ミロスラフ・クルティシェフ
【曲目】
サン=サーンス:序奏とロンド・カプリチオーソ 作品28
チャイコフスキー:ワルツ・スケルツォ 作品34
チャイコフスキー:憂うつなセレナード 作品26
ワックスマン:カルメン幻想曲
R.シュトラウス:ヴァイオリン・ソナタ 変ホ長調 作品18
《アンコール》
クライスラー: 愛の喜び
エルガー: 愛のあいさつ

 今年3回目に聴くことになった神尾真由子さんのリサイタルだ。5月にNHK音楽祭Plusでビェロフラーヴェク指揮+BBC交響楽団との競演でシベリウスのヴァイオリン協奏曲を、6月にはイヴァン・フィッシャー指揮+ブダペスト祝祭管弦楽団の来日ツアーにソリストとして参加、メンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲を聴いている。その前は、東京都交響楽団やスピヴァコフ指揮+ロシア・ナショナル・フィルハーモニー交響楽団との競演でチャイコフスキーの協奏曲…。神尾さんというと協奏曲のイメージが強い。いまだに「チャイコフスキー国際コンクールの優勝者」と枕詞のように言われ続けているが、さすがに3年も経っているのだから、コンクールの成績で評価するのではなくて、現在の演奏の素晴らしさを評価できないものだろうかと、つい思ってしまう(日本人はコンクールなどの権威が認めたものをそのまま褒めてしまう傾向が強すぎる!)。リサイタルの方は、昨年2009年6月30日に、東京オペラシティコンサートホールで聴いて以来である。というわけで、じっくり聴くことのできる神尾さんのリサイタルは久しぶりなので、とても楽しみにしていたのである。

 今回のリサイタルは、同じ2007年のチャイコフスキー国際コンクールのピアノ部門の最高位(1位なとの2位)だったミロスラフ・クルティシェフさんとのデュオ。このように力のある人同士がデュオを組むと、どのような展開になるのか、ワクワクしてしまう。今日のリサイタルは曲目を見てもやや短めだ(そのせいかチケットもS席で4,000円と安い)。来週11/7サントリーホールでもう1回開かれるリサイタルの方が、多少曲目も充実しているが、値段も高い(S席で7,000円!)。
 プログラムの前半は有名な小品を4曲集めた。サン=サーンスの「序奏とロンド・カプリチオーソ」とワックスマンの「カルメン幻想曲」は名人芸的な超絶技巧の曲なので、彼女の本領発揮というところだ。
 「序奏とロンド・カプリチオーソ」の序奏が始まると、まず音色の美しさにあらためて感激してしまう。ストラディヴァリウスの名器もさることながら、弱音の繊細かつ均一な音色から低音の力みのない豊かさまで、絹のような滑らかな音を持っている。ロンドが始まると一転して跳ね回るような華麗な技巧と、力強い低音の対比が素晴らしく、数台のヴァイオリンを同時に弾いているような多彩な音色が展開していくのは、さすがという他はない。
 チャイコフスキーの「ワルツ・スケルツォ」と「憂うつなセレナード」は叙情的な曲。神尾さんの一段と艶やかになった表現力に思わずにんまりとしてしまう。それなのに弾いているときの表情は、相変わらず「苦悩するペコちゃん」である(失礼!)。
 「カルメン幻想曲」は前回のリサイタルでも聴いているが、相変わらず凄まじいばかりのテクニック・オン・パレードで、聴くものを圧倒する迫力で押しまくってくる。とくに終盤、スピードアップしていく超絶技巧は、もう何も言うことはない。
 前半の4曲を聴く限り、ピアノのクルティシェフさんの伴奏がしっかりしていたので(当たり前だ)、神尾さんも安心して演奏しているようだった。技巧、技巧と、つい書いてしまったが、実は全体としては、少し控えめな印象だった。最近の協奏曲の時にも感じていたのだが、彼女の突っ走るような技巧的な部分を意図的に抑え込み、エネルギーを内側に向けていくような、抑制の効いた演奏をするように変わってきているようだ。そのことにより、楽曲の表現に深みが増してきたように思う。

 後半は、リヒャルト・シュトラウスのヴァイオリン・ソナタ1曲だけ。ちょっと少ない。しかし、この曲は数あるヴァイオリン・ソナタの中でも1、2を争うほど好きな曲なので、実はこの曲がどうしても聴きたくて横浜まで来たのである。
 第1楽章の冒頭、ピアノが動機を強烈なffでガツンと弾き始める。これは…強すぎないか? 考えてみればクルティシェフさんもチャイコフスキー・コンクール最高位の人。しかもロシア系て、出しているCDがリストの超絶技巧練習曲集となれば、打鍵の強いヴィルトゥオーソ系に違いない。前半は伴奏に徹して普通に弾いていたが、シュトラウスのソナタのようにピアノ・パートがあたかもオーケストラの縮刷版のように充実している曲では、俄然、強烈な主張を始めた。聴いている席が右寄りだったせいもあるのかもしれないが、ヴァイオリンの音を上回るパワーでピアノが押し出してくる。神尾さんのヴァイオリンもその気になった時の迫力は相当なものだが、ピアノをガンガン弾かれるとさすがに負けてしまう。とにかく第1楽章はピアノがうるさく、青春期の繊細で葛藤の多い心情が滲み出てくるような、この曲の美しいヴァイオリンの旋律がかき消されてしまったような印象だった。
 第2楽章のアンダンテ・カンタービレになると、さすがにピアノが大人しくなり、ヴァイオリンの美しい音色が響いてきた。ゆったりとしたテンポの弱音でも、神尾さんのヴァイオリンは、均一で艶やかな音色と、微妙にニュアンスす、繊細で優美な歌わせ方など、見事としか言いようがない。最近の神尾さんは緩徐楽章がとくに良くなった。大会場の静寂の中、かすかに聞こえてくるppの響きは、聴くものをうっとりとさせる恍惚の美しさを持っている。
 第3楽章ではアンダンテの序奏からアレグロのロンドになると、再びピアノが活躍を始め…。今度は神尾さんも負けずに押し出してくる。次々と現れるヴァイオリンの主旋律は芯の強さを感じさせる音色と豊穣に響きが混ざり合って、抜群の存在感を発揮していた。それでもピアノがうるさくて…。終盤はかなりテンポを上げて、協奏曲風にヴァイオリンとピアノが技巧を競い合うように盛り上がって、フィニッシュ。曲の完成度はイマイチだったが、神尾さんの演奏自体はBrava!というところだろうか。

 アンコールはクライスラーの「愛の喜び」とエルガーの「愛のあいさつ」というおなじみの2曲。ソナタで激した気持ちを静めてくれるやさしい演奏だった。

 コンサートを全部聞き終えてみると今日の演奏は、最近の神尾さんの傾向通りで、爆発的なアグレッシブさを理性的に抑制して、音楽を内面的に磨いているような印象を受けた。また、音色には一段と磨きがかかり、ppからffまでバラつきのない潤いのある響き。さらに多彩な音色を持っていて、表現の幅が広がっている。荒っぽさが微塵もなく、すべての音符を正確に、均一の演奏がされていて、1音たりとも手を抜いていないのがよくわかった。だんだん大人っぽい音楽づくりになってきたようで、チャイコフスキーの協奏曲に代表される「迸る情熱とパワー」的な演奏スタイルから脱却しつつあるように見える。ますます成長し、飛躍していく神尾さんが楽しみである。次回、来週11/7のリサイタルにも行く予定なのだが、そこではベートーヴェンやブラームスといった、今までとはちょっと違ったプログラムが用意されているので、コチラの方も期待が大きく膨らんでいく。

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2 コメント

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みなとみらいホール (kuma)
2010-11-05 11:30:14
先月、上岡敏之さんのコンサートで初めて訪れましたが、とても素敵なホールですね。
Bravoさんは良く行かれてるようなので、ソロの時とオーケストラの時とどちらに向いているのか感想を教えていただけますか?
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ホールの響きは (ぶらあぼ)
2010-11-06 02:54:03
kuma様
コメントをお寄せいただきありがとうございます。
みなとみらいホールは、長方形のいわゆるシューボックス型のホールで、2000人も入る大きなものです。リサイタルだと後方の席ではさすがにツライのではないでしょうか。
私は前の方で聴くことが多いのですが、音が美しく響いてはいるのですが、音量が少ないような気がします。オーケストラでも爆発的な音圧を感じることが少ないようです。
リサイタルの場合は、声楽や楽器によっては音の指向性がありますので、センターのラインが良いようです。
一方オーケストラの場合は、ステージに近い2階・3階席で全部の楽器が見える場所が、センターラインよりの意外に良かったりします。楽器が見えるということは、音が直接届くということですから。左右のバランスが悪いように見えますが、オーケストラは音源がステージ全体ですので、実際にはあまり気になりません。
みなとみらいホールに限らず、コンサートホールは席の場所によって聞こえ方がかなり違ったりします。何度も通っているうちに、ご自分のベスト・ポジションを見付かると思います。
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