Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

5/4(木・祝)ボンクリ・フェス2017/芸劇で1日限り/藤倉大ディレクターで新しい現代音楽の音楽祭が誕生

2017年05月04日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
ボンクリ・フェス 2017 スペシャル・コンサート
(“Born Creative” Festival 2017)


2017年5月4日(木・祝)17:30〜 東京芸術劇場コンサートホール S席 1階 A列 20番 3,000円
【曲目と演奏者】
●デヴィッド・シルヴィアン & 藤倉 大:Five Lines(ライブ版世界初演)
●デヴィッド・シルヴィアン & 藤倉 大:The Last Days of December(ライブ版世界初演)
 指 揮:佐藤紀雄
 ソプラノ:小林沙羅
 演 奏:アンサンブル・ノマド
●坂本龍一:tri(ライブ版世界初演)
 演 奏:アンサンブル・ノマド
●武満 徹:『秋庭歌一具』より第4曲「秋庭歌」
 演 奏:伶楽舎
●武満 徹:「秋庭歌」ライブ・リミックス
 トランペット:ニルス・ペッター・モルヴィル
 エレクトロニクス:ヤン・バング
 エレクトロニクス:藤倉 大
●ブルーノ・マデルナ:ひつの衛星のためのセレナータ
 演 奏:アンサンブル・ノマド
 演 奏:伶楽舎
●大友良英:みらい(新作/世界初演)
 ターンテーブル:大友良英
 演 奏:アンサンブル・ノマド
●坂本龍一/藤倉 大編曲:thanes and thereness(アンサンブル版世界初演)
 演 奏:アンサンブル・ノマド
●藤倉 大:フルート協奏曲(アンサンブル版世界初演)
 フルート:クレア・チェイス
 演 奏:アンサンブル・ノマド

 5月の大型連休中に、新しい音楽祭が誕生した。毎年恒例の「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」は今年も本日5月4日から3日間、東京国際フォーラムで開催されるが、このところあまり魅力を感じなくなってしまい、今年はついに行かないつもりでいた。それとは別に、どこかのコンサートで「ボンクリ・フェス」というチラシをもらい、ソプラノの小林沙羅さんが出演すると記載されていたので、企画内容も不明なまま、取り敢えずチケットを発売日に取っておいた。企画内容についてあらためて情報収集してみると、どうやら新しい音楽祭の誕生で、しかも現代音楽のフェスティバルだという。どうりで「ボンクリ」と聞いてもピンと来なかったわけだ。

 「ボンクリ・フェス」という聴き慣れない言葉は「“Born Creative” Festival 2017」という名称から来ていて、現在進行形で「生まれる創造的な音楽」を老若男女が楽しめるようなフェスティバルということらしい。主催および会場は東京芸術劇場(公益財団法人東京都歴史文化財団)で、アーティスティック・ディレクターに世界的に活躍している作曲家の藤倉 大さんを迎えている。午前11時前から午後7時30分までの丸1日、芸劇内の施設を多角的に使用して、様々な演奏会や作曲教室、ワークショップなどのイベントを開催し、それを施設内の別会場ではライブ・ビューイングを行うなど、1日限りの「現代音楽の祭典」なのである。
 現代音楽の音楽祭といえば、東京オペラシティコンサートホールで5月後半に開催される「コンポージアム」や、サントリーホールで夏に開催される「サマーフェスティバル」(今年は9月開催)などが人気も実績もあり知られているが、東京都も民間には負けていられない、ということなのだろう。この時期、一般のクラシック音楽ファンは「ラ・フォルジュルネ」に出かけて行きそうなものだが、アチラの方がややマンネリ気味でコアな音楽ファンの足が遠のきがち(のような気がする)なので、「ボンクリ」が専門家やマニア向けの新しいムーブメントになれば面白いと思う。

 私がチケットを買ったのはフェスティバルのメイン・イベントとなる「スペシャル・コンサート」だが、それ以外にもワークショップ・コンサートやアトリウム・コンサートがいろいろと芸劇内で開催されていた。午後3時半くらいに芸劇に行ってみると、地下1階の広場に仮設ステージ(といっても雛壇1段くらいの小さなもの)が設けられ、仮設の客席も用意されていた。ステージ後方には大型映像モニターが用意され、他会場のコンサートの模様をライブ・ビューイングできるようになっている。その時点では、5階のシンフォニースペースで開催されていた「三味線の部屋」というコンサート・イベントが中継されていた。さほど大勢の人で賑わっていたわけでもなく、しばらくすると席を立つ人もあり、運良くステージ正面の最前列の席に座ることができた。目的はその後、午後4時30分からのアトリウム・コンサート(無料)で、ギターの村治奏一さんが登場する30分弱のミニ・コンサートである。

 村治さんはギターのトレモロ奏法に焦点を合わせ、トレモロ奏法がメインの表現手法になっている曲を4曲演奏した。曲目は以下の通りだった。
 ●西村 朗:玉響(たまゆら)
 ●村治奏一:虹
 ●藤倉 大:チャンス・モンスーン
 ●ディアス:「リブラ・ソナチネ」より第3楽章「フオーコ」
 アトリウム・コンサート故に周辺の環境音がかなり大きく(何しろここは地下1階といっても地上5階までが吹き抜けになっているし、地下通路の入口でもある)、ギターにはもちろんアンプ・スピーカーを使っての演奏だったが、まあ・・・イベント用の音響装置はおおむね音は良くない(クラシック音楽には向いていないという意味)。それでも目の前で、目線の高さで村治さんのギターを見ることができ、繊細で高度なテクニックを目の当たりにすることができたのは、勉強にもなったし楽しむこともできた。スペイン系の音楽を離れたギターによる現代音楽は、なかなか興味深く、けっこう好きである。

 さて、本編の「スペシャル・コンサート」だが、上記の曲目と演奏者を見れば分かるように、1種のガラ・コンサートである。世界初演や編曲版の初演曲が多いので分かるように、新作を披露することで、現代音楽の中でも「今」生まれつつある最新の音楽を聴衆と共有しようとする試みなのであろう。もちろん、本日のフェスティバルのために編曲したものもあるのだろう。現代曲は作曲家が独自の音を想像しようとするが故に、作品毎に楽器の編成が異なることが多い。1つのコンサートで複数の現代曲をプログラムすると編成のヤリクリが大変そうである。今回は室内アンサンブルをメインとした規模に集約させ、西洋音楽系はアンサンブル・ノマド、雅楽系は伶楽舎(れいがくしゃ)が受け持っている。それらに声楽や器楽、エレクトロニクス効果やターンテーブルといったソリストを加えるという形式に集約させ、編曲や作曲がなされているようだ。
 順番にみていこう。

 1曲目と2曲目は、デヴィッド・シルヴィアンさんと藤倉さんの共作で「Five Lines」と「The Last Days of December」を続けて。シルヴィアンさんはイギリス出身のシンガーソングライターでクラシック音楽系の人ではないが、前衛的な音楽なども手がけている。藤倉さんとの親交の中で共作が実現した。2曲とも歌曲(と呼んで良いのかどうか)だが、ヴォーカリストであるシルヴィアンさんが歌わずソプラノの小林沙羅さんが歌うことで、こちら側の世界にぐっと近づいたといえる。ソプラノ独唱と弦楽四重奏(アンサンブル・ノマド)のための曲で、曖昧な調性の歌唱の旋律と伴奏に当たる弦楽四重奏はほとんど調性を感じない不協和音が続く。和声がハッキリしないので、ゆったりとしたテンポでの歌唱はかなり高度な集中を要求されそうだ。歌詞は英語(だと思う)で、歌唱は単音の美声につき、くっきりと鮮やかに通る。弦楽は神秘的な雰囲気を湛えている(ライブ版世界初演)。

 続いては坂本龍一さんの作曲による「tri」という曲。これは3名のトライアングル奏者(アンサンブル・ノマド)によるアンサンブル。聴けば3名が思い思いにトライアングルを鳴らしているようで即興性に富んだ作品のようにも思えるが、実はしっかり楽譜に書かれているらしい。トライアングルという打楽器には音程はないようだが、実際には叩く位置や奏法によって音を変えてアンサンブルを成立させている(ライブ版世界初演)。

 次は、武満 徹さんの『秋庭歌一具(しゅうていがいちぐ)』より第4曲「秋庭歌」。これは雅楽のアンサンブルの曲である。演奏は伶楽舎という雅楽アンサンブルで、この曲の演奏には定評があり、CDも出している。実は私は雅楽アンサンブルも伶楽舎もまったく初めて見聴きしたのだが、楽器の名前さえ分からないのは日本人の音楽愛好家としては如何なものかと恥じ入った次第。プログラムに記載されている楽器は、鞨鼓(かっこ)、太鼓(たいこ)、鉦鼓(しょうこ)、琵琶(びわ)、箏(そう)、笙(しょう)、篳篥(ひちりき)、龍笛(りゅうてき)、高麗笛(こまぶえ)。見慣れない楽器も多い。曲はもちろん、伝統的な雅楽ではなく、現代音楽そのもので、それぞれの楽器が溶け合っているようで乖離していたり、日本旋法のようで音程も調性も曖昧、和声は不協和音が多用されている。まったく初めて触れる世界観はとても新鮮。笙や笛類の使い方は電子楽器を彷彿させるところなどもあり、とても面白かった。

 前半の最後は、武満 徹さんの「『秋庭歌』ライブ・リミックス」ということで、エレクトロニクスを駆使した作品。ニルス・ペッター・モルヴィルさんがトランペットを独奏し、ヤン・バングさんと藤倉さんが電子音楽を担当した。それぞれ楽器ではなくパソコン(MacBook)を使って、録音しておいた「秋庭歌」の音源をライブで電子的に加工したものと、トランペットの独奏と電子音楽の演奏とを即興でリミックスしていきながら音楽を作っていくという趣向らしい。トランペットの音が妙に生々しくうねるように響き、電子音楽の荘厳で神秘的なイメージが観念的に膨らんで、次々と表れては消えていく・・・・。不思議な世界にBravo!が飛んだ。

 後半の1曲目は、ブルーノ・マデルナさんの「ひつの衛星のためのセレナータ」という曲。これは西洋音楽と雅楽のコラボレーションで、アンサンブル・ノマドと伶楽舎のメンバーがズラリと並び、ノマドの指揮者である佐藤紀雄さんがギターを弾きながら全体をコントロールしていた。この曲の仕掛けの面白いところは、ピアノとオーボエの音に合わせて各楽器がチューニングを始めると、そのままなし崩し的に曲が始まってしまうところだ。聴き手の方はチューニングだと思ってプログラムをガサガサやっていたりする。その部分は恐らく即興演奏だと思われるが、佐藤さんの合図によって書かれている曲の部分へと入っていくようだ。西洋楽器と和楽器の混沌としたアンサンブルは、特殊奏法も多く含まれているようで、なかなか刺激的な音の空間を生み出していた。和洋折衷が生み出す宇宙的な世界である。

 続いては大友良英さんによる新作の初演で、「みらい」という曲。アンサンブル・ノマドの演奏は、佐藤さんのギター独奏で始まる。その旋律はPOPS的なもので美しく分かりやすいものだが、それが淡々と繰り返されていく内に、現代音楽的な特殊奏法を含めた他の楽器が徐々に加わってくる。ラヴェルの「ボレロ」のように全体的にクレッシェンドして行き、クライマックスをピークにまた減衰して行く。その中に、大友さんによる「ターンテーブル」が様々な効果音のように加わってくるのである。「ターンテーブル」というのはかつてのレコード・プレーヤーのことで、手で逆回転させたりして擦過音をはじめとする色々な音を即興的にひねり出す。クライマックスでは怒濤のような音の奔流が分厚く押し寄せてくるが、最後はまたギターのソロに戻って静かに曲が終わる。ギターは明らかに調性音楽だが、他の楽器が加わるにつれて無調の破壊的な音の塊に変化していく様が面白い。「ターンテーブル」による人工的な効果音も人が操っていると不思議と温かみを感じるアナログな音である。

 次は坂本龍一さんの作曲、藤倉さんの編曲で「thanes and thereness」という曲のアンサンブル版・世界初演。演奏はアンサンブル・ノマド。坂本さんの音楽は調性のある美しい主題がチェロやフルートなどで提示されていく。主題が幾重にも重なり合って、複雑な構成へと発展していくが、これは現代音楽と言うよりはPOPS系の洒落たインストゥルメンタルという感じであった。

 最後は、藤倉さんの作品で「フルート協奏曲」。オーケストラ版はすでに初演されていて、本日はアンサンブル版の世界初演ということである。ソリストはクレア・チェイスさん。演奏はアンサンブル・ノマドである。楽曲の詳しい解説がないので正確なところは分からないが、おそらく、全体は4楽章構成で、続けて演奏される。フルート協奏曲の名称を用いているが、使用された楽器は楽章毎に変わり、フルート、ピッコロ、アルト・フルート、コントラバス・フルートの順に登場する。フルートのことはよく知らないので恐縮だが、息を強く吹き込むような特殊奏法も効果的な使われて、インパクトの強い曲想が展開する。調性は感じられず、ソリストにはかなり高度な技巧が要求されているようだ。フルートは特殊奏法が多く本来の伸びやかな音色は出て来ない。ピッコロは小鳥のさえずりのように目まぐるしく駆け回り、あるいは雅楽の笛のように鋭く尖った音を出す。アルト・フルートは尺八のように深みと夢幻的な世界を作り出し、コントラバス・フルート(水道管のような太いパイプを縦に床置きして、吹く部分し上方が4の字型に曲がって水平になっているかなり大きな楽器。コントラ・ファゴットよりスゴイ)は、パイプオルガンのような荘厳な低音から野太い中音域を使って、広大な荒野を風が吹き抜けるような自然味溢れる曲想であった。この曲も結構強烈な印象を残すものだった。芸劇のコンサートホールでだったら、オーケストラ版も聴いてみたいところだ。

 現代音楽だけのコンサートとなると、一部のマニアックな人たちと専門家たちの集まるものというのが大体のところで、一般的なクラシック音楽ファンの間でもあまり好まれるものではない。確かに「難解」であることは間違いなく、相当な音楽的な知識がなければ、なかなか理解できるものではないだろう。私は素人なので、まったく解りはしないのだが、時々無性に現代音楽を聴きたくなる。そういう時は、解らないなりに「感じ取る」ようにしている。抽象であったり、前衛であったり、混沌であったりしても、音の中に身を委ねているだけで、何となく自分が豊かになっていくような感覚に包まれるのである。嬉しいことに、第1回の「ボンクリ・フェス」、芸劇のコンサートホールがけっこういっぱいになっていた。この日、「ラ・フォル・ジュルネ」に行かないでこちらに来た人は、かなりマニア系の人であろう。私もけっこう楽しかったので、マニアの仲間入り・・・・だろうか。

← 読み終わりましたら、クリックお願いします。


★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★

当ブログの人気ページをご紹介します。
↓コチラのバナーをクリックしてください。↓






コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする