Bravo! オペラ & クラシック音楽

オペラとクラシック音楽に関する肩の凝らない芸術的な鑑賞の記録

4/19(水)信時 潔のカンタータ「海道東征」/封印されていた戦時中の楽曲の再演

2017年04月19日 23時00分00秒 | クラシックコンサート
交声曲『海道東征』

2017年4月19日(水)19:00〜 東京芸術劇場コンサートホール A席 2階 LBI列 4番 7,000円
指 揮:大井剛史
管弦楽:東京フィルハーモニー交響楽団
ソプラノ:幸田浩子
ソプラノ:盛田麻央
アルト:田村由貴絵
テノール:小原啓楼
バリトン:原田 圭
合 唱:栗友会(合唱指揮:栗山文昭)/杉並児童合唱団(合唱指揮:津嶋麻子)
【曲目】
シベリウス:交響詩「フィンランディア」作品26
大栗 裕:管弦楽のための「神話」~天の岩屋戸の物語による~
信時 潔:交声曲『海道東征』(作詞:北原白秋)
《アンコール》
 信時 潔:海ゆかば

 主に大正時代末期から戦後期にかけて多くの作品を残した作曲家、信時 潔(のぶとききよし/1887〜1965)氏の代表作といえる交声曲(カンタータ)『海道東征』を再演するコンサート。
 信時は牧師の子として生まれたが、東京音楽学校(現在の東京藝術大学音楽学部)に学び、その後西洋に留学、帰国後は東京音楽学校の教授になった。代表作は交声曲『海道東征』、歌曲集『沙羅』、「海ゆかば」などの他、校歌・団体歌など多数に及び、1,000曲を超えるという。

 本日のコンサートは産経新聞社主催、神社本庁共催により、『海道東征』を再演するというもの。この曲は、1940年(昭和15年)、皇紀2600年の奉祝楽曲として作曲された。作詞は北原白秋である。当時、演奏会がラジオで中継放送されたという。戦後はその内容が故に封印されることになる。その後、部分的に演奏されることはあっても、完全な形での演奏は、1962年と2003年にあったのみである。楽譜の改訂なども進められて、2015年に大阪で産経新聞社主催により演奏会が開かれた。本日は、その東京公演という位置付けになるようである。

 楽曲はスケールの大きなカンタータ。編成は、ソプラノ2、アルト1、テノール1、バリトン1の独唱と、混声四部合唱、児童合唱、オーケストラは2管編成と14型弦楽5部。ティンパニとピアノが加わる。これを見ても、物理的にも演奏する機会がなかなか持てないことも分かる。

 楽曲は8つの曲からなる。白秋の詩が第一章〜第八章に分かれていて、以下のように標題がある。
 第一章:高千穂(たかちほ)
 第二章:大和思慕(やまとしぼ)
 第三章:御船出(みふなで)
 第四章:御船謡(みふなうた)
 第五章:速吸と菟狭(はやすいとうさ)
 第六章:海道回顧(かいどうかいこ)
 第七章:白肩津上陸(しらかたのつじょうりくひ
 第八章:天業恢弘(てんぎょうかいこう)

 物語は日本神話に基づき、天地開闢から大和政権の樹立までを描いている。その中心となる部分がいわゆる「神武東征」の物語である。戦後の歴史教育から神話の部分が分離されてしまったため、戦後72年の今日、学校教育を受けただけでは一般にはあまり知られていない物語になってしまった。私は今人的に興味を持ち、多少は勉強したので、話としては知っている。

 信時は西洋に留学していたため20世紀初頭からの西洋音楽の潮流(シェーンベルクやバルトークなど現代音楽の初期)にも通じていたが、自信の作る音楽はドイツ・ロマン派の系譜に属するものを基礎に持っている。そこに日本の音楽的な要素が盛り込まれてくる。従って、現在聴いても、さほど違和感を感じることもないし、難解なものでもない。音楽自体は非常に重厚で美しく分かりやすい。
 ただし、白秋の詩の方は現代の日本語の感覚からするとやや難解である。今では使われていないような言葉が多く出てくるし、また皇統に関する物語なので特殊な用語が使われる。作られた昭和15年当時の人々にはよく分かる詩だったのであろう。配布されたプログラムには歌詞全編が記載されていたし、ステージ上方に字幕が映写されていたので、目で見れば(漢字を読めば)意味は分かるが、聴きで聴いているだけでは理解できない部分が多かった。

 プログラムの前半には、シベリウスの交響詩「フィンランディア」と大栗 裕(1918〜1982)作曲の「管弦楽のための『神話』~天の岩屋戸の物語による~」という曲が演奏された。今日のコンサートは「愛国」をテーマにしているということである。『神話』は1973年に作曲された吹奏楽のための曲を1977年に管弦楽曲に再編されたもの。アマテラスの天岩戸の物語を描いていて、土俗的なリズム管が支配的な、幻想的で現代的な作風の曲である。

 アンコールは信時を最も有名にした「海ゆかば」。本日のような特別なコンサートでもなければオーケストラと混声合唱の大編成で演奏されることはないだろう。

 本日のコンサートは、『海道東征』を再演することを最大の目的とするものであり、演奏を楽しむとか、評価するというものとは違っていたような気がする。普通のクラシック音楽のコンサートとは趣がかなり違っていた。私としては知らない世界に迷い込んでしまったような気分であった。

← 読み終わりましたら、クリックお願いします。


★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★・・・・・★

当ブログの人気ページをご紹介します。
↓コチラのバナーをクリックしてください。↓







コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする