弁理士の日々

特許事務所で働く弁理士が、日常を語ります。

2号機水素爆発はあった?なかった?

2011-10-06 21:34:49 | サイエンス・パソコン
《2号機の水素爆発はあったのか?なかったのか?》
ここへ来て、「2号機の水素爆発はなかった」という報道が相次いでいるのでびっくりしています。
3月15日の朝6時頃、2号機の圧力抑制室付近で衝撃音が聞こえ、その後に格納容器の圧力が急減し、さらに東日本の広い範囲を汚染する原因となった放射能が放散したことは分かっています。
しかし、その格納容器の破損原因が、水素爆発だと考えたことは1回もないのに、何でわざわざ「水素爆発ではなかった」とさも意外そうに報道されているのでしょうか。

例えば10月3日の朝日新聞朝刊には以下のように報じられています。
『2号機「水素爆発なし」 東電見解 発電所内の揺れ解析』
『東京電力福島第一原発2号機で起きた爆発事故について、東電が社内に設置した事故調査委員会(委員長・山崎雅男副社長)が、これまで言われていた水素爆発ではなかったとする見解をまとめていたことが2日、わかった。発電所内の地震計からの推定だが、事故時の衝撃音や格納容器の圧力低下の原因については説明していない。
2号機は3月15日午前6時ごろ、原子炉格納容器につながる圧力抑制室の圧力がゼロになった。その際、衝撃音がしたという。
東電は当初、核燃料を覆う金属から水素が発生し、圧力抑制室にたまって爆発したことは否定できないと説明をしていた。6月に政府が国際原子力機関(IAEA)に提出した報告書にも、水素爆発と思われる、と記載された。』

私は、東電が公表した報告書について、5月23日東電報告書(2号機2号機-2)、6月18日東電報告書(2号機2号機-2)で記事にしてきました。
再度それぞれの報告書で2号機の記事を読んでみると、5月23日報告書pdf別紙-1-23)に「6:14頃 圧力抑制室付近で異音が発生するとともに、同室内の圧力が低下」とあるのみで、水素爆発とは一言も書いていません。
6月18日報告書pdf21ページ)でも「6:00~6:10頃 圧力抑制室付近で大きな衝撃音が発生」とあるのみで、水素爆発とは一言も書いていません。

今回の報道では、『6月に政府が国際原子力機関(IAEA)に提出した報告書にも、水素爆発と思われる、と記載された。』と紹介されています。
経産省の原子力安全に関するIAEA閣僚会議に対する日本国政府の報告書についてのページで調べてみると、pdfIV-32に確かに、「15 日6 時頃、S/C 付近において水素爆発によるものと思われる大きな衝撃音が確認された後、S/C の圧力は急減した。」と記載されています。

東電報告書では2号機の格納容器破損について水素爆発とは一言も示唆していないのに、政府によるIAEAへの報告では「水素爆発によるものと思われる」と推測を記述していることが分かりました。
圧力抑制室付近で水素爆発が起きるためには、水素ガスとともに酸素ガスが所定の比率で存在している必要がありますが、どの箇所にどのようなガス経路で水素ガスと酸素ガスが集まったのかを推論しない限り、水素爆発との結論は導けないはずです。どこで誰がどのような推論を行ったのでしょうか。

そして今度は「水素爆発ではなかった」という話です。
3日の朝日新聞記事を追います。
2号炉での(水素)爆発の有無を調べるため、東電は発電所内の地震計の記録を分析しました。その結果、2号機で衝撃音がした午前6時から同6時10分にかけて、爆発によるとみられる揺れは観測されていなかったといいます。揺れは午前6時12分に観測されており、東電はこの揺れが4号機で発生したものと解析しました。

今回認識を新たにしたのですが、2号機の圧力抑制室破損と4号機の水素爆発が、ほぼ同時に起きていたのですね。
6月18日東電報告書のpdf40ページに4号機の説明が書かれています。「3月15日6:00~6:10頃 大きな音が発生。その後、4号機原子炉建屋5階屋根付近に損傷を確認。」「9:38 4号機の原子炉建屋3階北西コーナー付近より火災が発生していることを確認」

2号機圧力抑制室破壊音と、4号機損傷の原因と思われる大きな音とが、同じ時間帯に発生しています。
今回の新聞記事では、4号機火災の原因となった水素爆発は、6:12に発生しており、その振動が地震計でキャッチできているとしています。一方で2号機の圧力抑制室破損は、その直前の6:00~6:10頃に発生していたということでしょうか。「2号機破損の同時刻に地震計で揺れが観測されなかったから、その破損の原因は水素爆発ではない」という推論は、どのようなメカニズムを想定しているのでしょうか。そこがわかりません。
もちろん、今まで政府が「2号機で水素爆発があった」と推論していた根拠も同じようにわかりませんが。

私は、2号機の格納容器破損は、格納容器内で水蒸気爆発が起こったのが原因ではないか、という仮説(仮説1)も持っています。圧力容器内の燃料棒が溶融し、圧力容器の底を破って格納容器内に落下し、格納容器底部に溜まっていた水中に突入し、その水が一気に蒸発して水蒸気爆発した、という仮説です。しかしこの仮説の場合も、水蒸気爆発時に地震計が揺れを観察するはずだが、実際には揺れが観察されていないから違う、ということでしょうか。
私のもう一つの仮説(仮説2)は、格納容器内のベントができなかったので内部が高圧になり、格納容器が耐えきれず破損した、という仮説です。ただし、当時計測されていた格納容器内の圧力は、容器が破損するにはまだ低い圧力だったようにも思います。
それに対して政府は今まで、水素爆発であるという仮説(仮説3)を信じていたわけですね。

3日の朝日新聞記事では、
『ただ、圧力抑制室の圧力が下がった原因が爆発以外の何かは説明できていないという。また、衝撃音がした理由についてもわからないとしている。
東電原子力・立地本部の川俣晋本部長代理は「圧力抑制室に相当大きな破損がないと圧力はゼロにならない。爆発がおきても地震計で観測されないような揺れだった可能性もある。いまは圧力抑制室を実際に確認できないが、さらに詳しく調査したい」と話す。』
と報じています。
コメント (2)    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 野田政権の財務省シフト | トップ | ケビン・メア著「決断できな... »
最新の画像もっと見る

2 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
水素爆発でないとすると (ご冗談でしょう?名無しさん )
2011-10-11 07:56:48
東京電力がきちんとしたデータを出してくれないので、以下は個人的推測の域をでません。
水素爆発の場合、その起因は津波ですが、水素爆発でない場合、巷で言われているように、津波が来る前に地震の揺れで、サプレッションプールが破壊されていた可能性が高くなります。
これは、電力会社にとって非常に困ることで、原発再稼働のために津波対策をしただけでは不十分で、原子炉自体の大改修(事実上不可能)を行わなければならず、多くの原子炉が廃炉の運命となります。
たぶん、それで東電も、簡単には知っている事実を公表できないのだと思います。
返信する
サブドレンからの放射性物質の検出 (xls-hashimoto)
2011-10-14 11:33:12
東電がサブドレンピット内の放射能濃度の最新版を発表しました。

福島第一原子力発電所タービン建屋付近のサブドレンからの放射性物質の検出について(10月12日採取分)
http://www.tepco.co.jp/cc/press/betu11_j/images/111013n.pdf

1・2・3・4号機毎に個性があります。

グラフをざっくりと見た平均濃度は、2号機が一番高く10Bq/cm^3弱、1号機がそれに続き1Bq/cm^3、3・4号機が0.1Bq/cm^3と続きます。

1号機では、8月20日、9月3日、9月22日、10月8日頃に濃度が高くなりました。
原子炉内から流れ出る物の濃度が高くなる様なことが、発生した物と思われます。
8月中は、I-131も検出されています。
事故から6ヶ月たった今では、検出されなくなりました。
しかし、今でも原子炉内では、このようなピークの立つ様な事が起こっています。
このピークは、2号機の方にも現れています。

2号機の濃度が高いのは、何故でしょう?
1・3・4号機は5階が水素爆発で太鼓腹上に外側に吹き飛びましたが、2号機ではサプレッションプールが爆発した時、地階の壁を太鼓腹状しヒビが出来て漏れる量が多くなったのでしょうか?

この濃度結果で、どのようなことが話し合わされているのでしょうか?
返信する

コメントを投稿

サイエンス・パソコン」カテゴリの最新記事