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5月23日東電報告書(3)2号機

2011-06-02 23:41:36 | サイエンス・パソコン
東電が5月23日に公表した「東北地方太平洋沖地震発生当時の福島第一原子力発電所運転記録及び事故記録の分析と影響評価について」を読み解いています。

今回は2号機です。
前回と同様、報告書のうち難なく理解できた部分には○を、良く分からなかったが多分こういうことを言いたいのだろう、と推測を含んでいる部分には△を記しています。

主蒸気逃し安全弁(SRV = Safety Relief Valve)
原子炉隔離時冷却系(RCIC = Reactor Core Isolation Cooling system)
高圧注水系(HPCI)

原子炉で発生する崩壊熱を全電源喪失後でも冷却するシステムとして、福島第1の1号機では非常用復水器が用いられ、2号機3号機では隔離時冷却系と高圧注水系が設けられていました。隔離時冷却系と高圧注水系はいずれも、圧力容器内の高圧蒸気の力によってタービンを駆動し、タービンに接続されたポンプによって圧力容器内に水を供給します。水源は復水貯蔵タンクまたは圧力抑制室内の水です。

《地震直後の2号機でわかっている事実》
○2号機では、高圧注水系については津波の影響を受けた電源喪失のために動作不能になったものと考えられています。
○地震発生の14時50分、主蒸気隔離弁が閉となって原子炉が隔離され、隔離時冷却系が手動起動されました。これによって圧力容器内の水位が上昇するため、水位を所定のレベルに維持する目的で、隔離時冷却系は何度か手動オン/自動オフを繰り返しました。
△津波来襲による全電源喪失時にも、隔離時冷却系は影響を受けることなく運転を継続しました。
○12日4時頃、復水貯蔵タンクの水位が減少したこと及び圧力抑制室内の水位上昇を抑制するため、隔離時冷却系の水源を復水貯蔵タンクから圧力抑制室に切り換えました。
○3月14日12時頃まで隔離時冷却系が動作を継続し、圧力容器の水位を維持していました。
○この間、燃料棒の熱で発生する蒸気によって圧力容器の圧力が上昇するので、主蒸気逃がし安全弁が働いて蒸気が圧力抑制室に逃がされます。
○しかし3月14日12時過ぎに圧力容器内の水位低下が確認され、13時25分、隔離時冷却系が機能を喪失している可能性ありと判断されました。
△主蒸気逃がし安全弁の通常の動作は、圧力が7MPa[abs]程度になったら弁が開いて蒸気を逃がすというものです。しかし14日16時34分、この主蒸気逃がし安全弁を「開放」し、圧力容器内のガスを格納容器に放出し、圧力容器圧力は一気に下がりました。開放した理由は不明です。
○同時刻、消火系ラインを用いた圧力容器への海水注入を開始しましたが、19時20分に消防ポンプが燃料切れで停止、19時54分に再起動しました。次いで19時57分に消防ポンプ2台目を起動しました。ただし、シミュレーションでは19時54分に消火系ラインから海水注水を開始したことにしています。
○3月15日6時14分頃、圧力抑制室付近で異音が発生するとともに同室内の圧力が低下しました。これが2号機圧力抑制室の破損です。

《原子炉の挙動シミュレーション(解析)》
〈解析の前提条件〉
2号機のシミュレーションについて、2種類の前提条件(【その1】と【その2】)をおき、それぞれの前提条件の下でのシミュレーションを行っています。
14日に隔離時冷却系が停止した以降、消防ポンプを用いて圧力容器への海水注入を開始しました。海水の注入量として、消防ポンプの吐出側の流量がわかっているようです。しかしシミュレーションでは、その1、その2とも、消防ポンプ吐出側の流量を用いませんでした。その1は消防ポンプ流量よりも少なく、その2はもっと少ない流量です。具体的には、
【その1】圧力容器の水位計計測値が示していた水位が保持できる程度の少ない流量
【その2】もっと少なく、圧力容器の燃料域を維持できない程度の低い水位しか確保できない流量
を仮定しました(仮定1-1、仮定1-2)。

〈地震直後から隔離時冷却系がダウンするまでの間〉
隔離時冷却系がダウンするまでは海水を注入していないので、上記仮定1-1、仮定1-2は関係有りません。

その一方で、シミュレーションでは、地震発生から21時間後という早い段階で、格納容器の気相部からの漏洩(約φ10cm)を仮定しています(仮定2)。
仮定2を置いた結果として、格納容器内の圧力の挙動が計測値とシミュレーション値とで一致しています(図3.2.1.3.)。もしこの期間で格納容器に漏洩がなかったとすると、格納容器圧力はもっと激しい勢いで上昇したというのです(図3.2.1.10)。
ちょっと待ってください。2号機の隔離時冷却系は、外部電源が失われたときに作動すべき正規の冷却系であり、14日までは正常に作動していたと見られています。その期間内に、なぜ格納容器が破損したのでしょうか。解析では、破損を仮定した地震後21時間ですでに格納容器温度は設計温度を超えているから(図3.2.1.5)と説明していますが、隔離時冷却系というのは格納容器が破損するような温度上昇を最初から見込んで設計されていたということでしょうか。
もう一つ。もし格納容器に穴が開いていなかったら、上記図3.2.1.10に示すように格納容器圧力は急上昇したとのことですが、これも隔離時冷却系の最初からの前提なのでしょうか。そうだとしたら、格納容器が破損しない限り、隔離時冷却系が正常に作動している間にも格納容器のベントが必要になったはず、ということになり、納得できません。
確かに、2、3号機が採用している隔離時冷却系は、熱が格納容器から逃げませんから、温度が上昇していくことは間違いありません。しかしそれを承知で、1号機の非常用復水器方式から2、3号機の隔離時冷却系方式に変更したはずです。こんなことなら、非常用復水器の方がよっぽどましです。1号機の非常用復水器には消防系の配管がついているみたいですから(この図面)、ここから消防ポンプで非常用復水器に海水を供給すれば半永久的に原子炉冷却ができるではないですか。

長くなったので、「蒸気凝縮系」をはさんで以下次号。
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