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5月23日東電報告書(4)2号機-2

2011-06-06 20:47:46 | サイエンス・パソコン
東電が5月23日に公表した「東北地方太平洋沖地震発生当時の福島第一原子力発電所運転記録及び事故記録の分析と影響評価について」から、2号機の解析結果について読み解いています。
2号機-その1”、“2~6号機から撤去した「蒸気凝縮系」とは”に引き続き、今回は2号機-その2として、隔離時冷却系(RCIC)による冷却がダウンした3月14日以降のシミュレーション結果を解析します。
前回と同様、報告書のうち難なく理解できた部分には○を、良く分からなかったが多分こういうことを言いたいのだろう、と推測を含んでいる部分には△を記しています。

○3月14日12時過ぎに圧力容器内の水位低下が確認され、13時25分、隔離時冷却系が機能を喪失している可能性ありと判断されました。
△それまで、主蒸気逃がし安全弁(SRV)は圧力容器の圧力を7MPa[abs]程度に維持するように圧調弁として機能していましたが、14日16時34分、この主蒸気逃がし安全弁を「開放」し、圧力容器内のガスを格納容器に放出し、圧力容器圧力は一気に1気圧程度まで下がりました。開放した理由は不明です。
○同時刻、消火系ラインを用いた圧力容器への海水注入を開始しましたが、19時20分に消防ポンプが燃料切れで停止、19時54分に再起動しました。次いで19時57分に消防ポンプ2台目を起動しました。ただし、シミュレーションでは19時54分に消火系ラインから海水注水を開始したことにしています。
○3月15日6時14分頃、圧力抑制室付近で異音が発生するとともに同室内の圧力が低下しました。これが2号機圧力抑制室の破損です。

《原子炉の挙動シミュレーション(解析)【その1】》
(仮定1-1)消防ポンプによる海水注入流量について、圧力容器の水位計計測値が示していた水位が保持できる程度の少ない流量と仮定する。

圧力容器(原子炉)水位(図3.2.1.1)、圧力容器圧力(図3.2.1.2)はいずれもこのページです。オレンジ○が計測値です。圧力容器水位が急減するタイミングに「RCIC停止」と書かれています。そしてそのすぐ後、「SRV開」と書かれたタイミングで主蒸気逃がし安全弁(SRV)が「開放」とされ、圧力容器内のガスが一気に格納容器に放出され、圧力容器圧力が急減しました。
格納容器圧力(図3.2.1.3.)の動きは複雑です。オレンジ○「実測計測値(D/W)」は格納容器圧力、緑○「実測計測値(S/C)」は圧力抑制室圧力ですが、両者が異なった動きとなっています。「SRV開」前は両圧力とも0.4MPa[abs]程度だったのが、「SRV開」後に格納容器圧力は0.7MPa[abs]以上に急上昇し、圧力抑制室圧力はむしろ0.3MPa[abs]程度に減少しています。
一方、格納容器圧力シミュレーション結果については、D/W圧力(解析)、S/C圧力(解析)のいずれも同じ挙動を示し、「SRV開」後0.6MPa[abs]以上に急上昇しますがすぐに急降下します。
「実測計測値(D/W)」、「実測計測値(S/C)」、シミュレーション結果の3者が、このように異なっている理由が説明できません。ここは謎のままです。

そして格納容器圧力(図3.2.1.3)における圧力抑制室破損時点の挙動です。「S/C付近で異音:S/Cに漏洩を仮定(約87時間後)」と記載されている時点です。実測圧力は、「実測計測値(D/W)」、「実測計測値(S/C)」ともに急降下しています。それに対し、シミュレーション結果は、D/W圧力(解析)、S/C圧力(解析)ともに、圧力降下が始まりますがその勾配はなだらかです。
シミュレーションの仮定で、「3月15日の圧力抑制室付近で発生した異音を境に、格納容器(S/C)の気相部からの漏洩(約φ10cm)」(仮定3)としており、圧力降下はφ10cmの穴にふさわしい緩やかな勾配となっているのです。ではなぜφ10cmの穴と仮定したのでしょうか。恐らく、上記図3.2.1.3において、3月18日時点の「実測計測値(D/W)」の値とシミュレーション結果とを合致させたかったためでしょう。
しかしこの仮定3は、実態に即していないと断言します。異音発生時の格納容器圧力と圧力抑制室圧力の実績は急減圧であり、大きな穴が開いたことを強く推認させます。また、このときに系外に放出された大量の放射能が、12日午後の南東の風に乗って飯舘村を激しく汚染したこと(福島原発事故のレベルが7に)からも、2号機圧力抑制室の破損が大規模であったことを裏付けます。

炉心溶融と圧力容器破損有無に関するシミュレーション【その1】の結論は「2号機の炉心は一部溶融プールが存在しているものの燃料域にとどまり、圧力容器破損には至らないとの結果となった」というものです。

炉心は溶融しています(地震後77時間)。海水注入の注入流量が不足したためです。
結局、「たとえ海水注入の開始時期がもっと早かったとしても、注入流量が今回程度であれば、炉心溶融を防ぐことはできなかった」ということです。
なぜ海水注入量が不足したのでしょうか。もっと注入することはできなかったのでしょうか。
今までは、「圧力容器の圧力が高すぎ、消防ポンプの能力が不足したので、目標とした注入量が確保できなかったのだろう」と推測していました。しかしその推測は崩れました。海水注入を開始するそのタイミングで、主蒸気逃がし安全弁を開放として圧力容器からガスを格納容器に逃がすことにより、圧力容器の圧力が1気圧まで下がっていたことがわかったからです。こんなに低い圧力なのに、なぜ消防ポンプは海水を十分に注入できなかったのか、その点については不明のままです。

《原子炉の挙動シミュレーション(解析)【その2】》
(仮定1-2)消防ポンプによる海水注入流量について、圧力容器の燃料域を維持できない程度の低い水位しか確保できない流量と仮定する。

シミュレーション【その2】によると、炉心溶融が起こった(地震後77時間)のみならず、「圧力容器は破損するという解析結果になった(地震後109時間)」と結論づけられます。報告書からは読み取れない何らかの解析結果から、このような結論が導かれるのでしょうが、われわれにはブラックボックスのままです。

なお、2号機では隔離時冷却系が機能を喪失するとともに主蒸気逃がし安全弁を「開放」として圧力容器圧力を下げてしまいました。そのため、その後に圧力容器に穴が開いたか否かを、圧力実測値から推測することは困難となっています。これに対して1号機については、圧力容器圧力急降下の観測結果に基づき、「この時点で圧力容器が破損した」との推測を行っています。
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