孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ドイツ  増加するアフガニスタンでの犠牲者  装備強化に向かうのか、厭戦気分の高まりか?

2010-04-16 22:50:50 | 国際情勢

(4月2日の戦闘で死亡した3名のドイツ軍兵士の棺を運ぶヘリを見送るドイツ連邦軍兵士
“flickr”より By ralfmax1
http://www.flickr.com/photos/31127421@N05/4489364583/)

【犠牲増大に装備強化の動き】
アフガニスタンに派遣されているドイツ軍で、“また”死傷者が出たことが報じられています。
****アフガン治安支援活動、ドイツ兵士4人死亡*****
ドイツのDPA通信によると、アフガニスタン北部で15日、国際治安支援部隊(ISAF)として活動している独連邦軍部隊が旧支配勢力タリバンの攻撃を受け、兵士4人が死亡、5人が負傷した。
独軍基地があるクンドゥズから南に約100キロのバグラン州内でパトロール中だった。【4月16日 読売】
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“また”というのは、今月2日にも犠牲者が出て、アフガニスタン駐留のあり方の見直しが論議されたばかりだからです。
****ドイツ:アフガン駐留軍の装備強化か…3兵士死亡などで*****
アフガニスタン北部に駐留するドイツ軍が今月2日、旧支配勢力タリバンとの戦闘で兵士3人を犠牲にし、さらに混乱下で独軍がアフガン軍の車両を誤射してアフガン兵6人を死亡させた。これらをめぐり、ドイツ政界は大きく動揺。メルケル首相や閣僚は、事態の悪化した現地状況を初めて「戦争」と呼び、装備の強化などアフガン駐留のあり方を見直す構えだ。
交戦で独軍兵が一度に3人死亡したのは、独軍が戦後創設されて以来最大の犠牲という。また、アフガン兵に対する誤射は、昨年9月、独軍が米軍に依頼した空爆で市民を含む140人以上が死亡したのに続く失態。報道によると、北大西洋条約機構(NATO)軍が誤射の詳細を調査中だが、夕暮れの砂嵐の中、ドイツ軍の到来を歓迎して近づいてきたアフガン軍の車両を独軍の歩兵戦闘車が砲撃したことが判明している。
ドイツのシュミット国防政務次官は7日、カブールを訪れ、ワルダク国防相に誤射を謝罪した。

一方、メルケル首相は就任以来、参列したことがなかった独兵士の葬儀に初めて出席。さらに、首都郊外ポツダムの軍海外派遣司令部を訪れ、装備や兵士の訓練態勢を見直すよう軍幹部らに指示した。
だが、見直しの具体的な中身は未定だ。独軍はこれまで現地の治安維持を軍派遣の目的に掲げてきたため、攻撃ヘリや戦車を装備していないが、攻撃力の強い戦車などを投入する可能性が指摘され、早くも政界や軍内部から異論が出ている。タリバンは民家を攻撃拠点とすることが多く、戦車を使えば市民が今以上に巻き添えになる恐れがあるためだ。【4月13日 毎日】
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【増派決定】
“治安支援”といったレトリックではなく、「戦争」と公言して、装備強化の方向で見直し・・・ということのようですが、15日の犠牲者でこの動きが加速するのでしょうか?
ただ、世論調査によれば、国民の6割から7割はアフガニスタン派兵に反対しているとも言われ、犠牲者の増大はこうした世論の厭戦気分を強めることも考えられます。

増派・装備強化に走る政府・軍と厭戦気分の世論の間には隔たりも生じているように見えます。
政府側は2月、増派を決定しています。
****アフガン派遣、要員上限を850人引き上げ ドイツ議会*****
ドイツ連邦議会は26日、アフガニスタンへ派遣中の連邦軍の上限数を4500人から5350人に引き上げることを賛成多数で承認した。
採決では、429人が賛成し、111人が反対、46人が棄権した。討議中、左派党議員が昨年の9月にアフガン北部クンドゥズであった独連邦軍が要請した空爆で犠牲になった民間人の名前が書かれた紙を掲げて抗議し、議場から一時的に退場させられる一幕もあった。独公共放送の世論調査では約7割がアフガン派遣に反対している。
増員された850人は、500人がアフガンの治安維持や現地の軍・警察の訓練要員、350人は年内に予定される下院議会選などの状況に応じ、柔軟に対応するための追加要員。独政府は1月末にロンドンであったアフガン会議に合わせて850人の増員計画を閣議決定していた。【2月27日 朝日】
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ドイツはすでに4300人を派兵していますが、これは米英に次ぐ規模です。
ただ、派兵に消極的な国内世論にも配慮して、2011年から段階的にドイツ軍部隊を撤退させ、2014年には治安権限をアフガン側に移譲するという「出口戦略」も明らかにしています。
ドイツの増派は、アメリカ・オバマ政権からの要請にこたえたものですが、メルケル政権内においては、連立政権に参加した自由民主党党首のウェスターウェレ外相が増派に極めて慎重な姿勢を示すなど閣内の不一致も露見しているようです。【1月26日 毎日より】

【「武器はアフガンに平和をもたらさない」】
一方、世論の動向を伝えるものとしては、教会トップの派兵批判も報じられています。
****ドイツ:教会トップがアフガン派兵を批判 年頭の説教で*****
ドイツのキリスト教プロテスタントを率いる指導者がドイツ軍のアフガニスタンでの活動を公然と批判する年頭の説教をし、政界に波紋を広げている。独政府は年初にアフガン支援を大幅に見直す予定だが、独教会トップの発言は、見直しの焦点となる増派の議論にも微妙な影響を与えそうだ。

ドイツ人口の3割を組織する独福音教会(EKD)のトップ、マルゴット・ケースマン監督(51)が東部ドレスデンと首都ベルリンの大聖堂で1日に行った説教で発言した。アフガン北部で09年9月にあった独軍の依頼による米軍空爆で多数の民間人が死亡した事件に触れ、「武器はアフガンに平和をもたらさない。我々は平和を夢見、全く違う手段で紛争を解決しなければならない」と批判した。

これに対し、政界の与野党から「発言は地位乱用だ」などと反発が出る半面、増派に慎重姿勢を取ってきたウェスターウェレ外相は「私の政治アプローチと同じだ」と称賛。一方、軍人組織の連邦軍協会、キルシュ代表は「(発言は)兵士たちに新たな心理的負担を強いただけ」と不満をあらわにしている。

ドイツのプロテスタント教会はナチス時代、多くが政権に抵抗しなかった反省があり、聖職者が年頭説教で国内外の政治問題に触れることはむしろ一般化している。EKDはキリスト教人口の半分に迫るプロテスタントの9割以上を擁し、昨年10月、EKD評議会議長に初の女性として、最年少で選出されたケースマン監督の発言はメディアから注視されていた。
ケースマン監督は説教に先立つクリスマスの独紙との会見でも「この戦争は正当化できない」などと「速やかな撤退」を求めていた。【1月5日 毎日】
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【日本同様、湾岸戦争での批判が転機】
もともとドイツは、侵略戦争・敗戦という日本と共通する歴史があるため、日本同様、海外派兵には慎重な対応をとってきました。
そして、これまた日本同様に、1991年の湾岸戦争で多国籍軍に資金面のみで参加し人的参加しなかったことから国際的批判を浴び、そのことが、海外派兵を積極化させる転機となっています。
92年には日本とともに、カンボジアでの国際連合カンボジア暫定統治機構にPKO活動として衛生部隊を派遣、その後、1999年3月のコソボ紛争では、NATO軍の一部として、ドイツ連邦軍はユーゴスラヴィア空爆に参加しています。

ドイツでは、連邦軍の任務を規定した基本法はその活動を「防衛」に限定していますが、1994年7月12日の連邦憲法裁判所判決により、基本法の「防衛」とはドイツの国境を守るだけでなく、危機への対応や紛争防止など、世界中のどこであれ広い意味でのドイツの安全を守るために必要な行動を指すと定義が拡大され、ドイツ連邦議会の事前承認によりNATO域外への派兵が認められています。【ウィキペディアより】

海外派兵にも「普通の国」として取り組むようになったドイツですが、09年9月4日に起きたドイツ軍の要請を受けてISAFが行った空爆で地元住民に多数の死者が出た問題は、ドイツ国内において海外派兵に関する大きな論議を呼びました。

****ドイツ:アフガン空爆で情報隠し 政界ゆるがす問題に****
アフガニスタン北部で多数の民間人が死亡した9月4日の米軍空爆をめぐり、空爆を依頼したドイツ軍が「民間人はいなかった」などと事実とは違う説明をしていたことが、独政界をゆるがす問題に発展している。連邦議会国防委員会は調査委員会を作り、首相や国防相など多数の参考人を呼ぶ徹底した調査を行おうとしている。

空爆現場に民間人がいた事実をメルケル首相やグッテンベルク国防相がいつ知ったかが最大の焦点だ。メルケル首相は9月末に行われた総選挙への影響を恐れて、選挙前に軍の失態を明らかにしなかったのではないかという疑念を持たれている。また、選挙後に国防相となったグッテンベルク氏は11月6日の記者会見で「空爆は軍事的に適切だった」と述べていたが、この時点で既に、真相を記した調査報告書に目を通していた疑いが省内部で指摘されている。政府首脳への報告が本当に遅かった場合、軍に対する文民統制のあり方が問われることにもなる。

空爆要請には、タリバン幹部らの殺害を狙う独陸軍の特殊部隊がかかわっていた。秘密のベールの下で戦闘行為を繰り広げていた特殊部隊の実態は、アフガン派兵への反対論も多い世論をさらに硬化させる可能性がある。この問題で国防省の事務次官と軍トップの統合幕僚長は11月26日に引責辞任。さらに、空爆時に国防相だったユング前労働相も「事実を知らされていなかった」と釈明して、翌27日に労働相を辞任した。【09年12月19日 毎日】
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アフガニスタンでの犠牲者増加に伴う議論がどういう方向に向かうのか・・・海外派兵に門戸を開き始めた日本もやがて直面するであろう問題でもありますので、その行方が注目されます。


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