孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

パキスタン  タリバン指導者をかくまう? 過激派・ISI・アメリカの不思議な関係

2009-11-22 15:29:09 | 国際情勢

(パキスタン最大都市カラチのバス イスラム原理主義への支持者も多い大都会の雑踏に紛れ込んでしまえば、危険な山岳地帯より安全のようにも思えます。
“flickr”より By vond
http://www.flickr.com/photos/vond/1203284529/)

【オマル師 カラチに?】
真偽のほどはわかりませんが、タリバンの最高指導者オマル師がパキスタンの情報機関「三軍統合情報局(ISI)」の支援の下、パキスタン最大都市カラチに潜伏していると報じられています。
ISIについて言われていること、潜伏先としては攻撃もない大都会の雑踏が最適であることなどを考えると、いかにもありそうな話です。
厳格な原理主義者のオマル師が大都市カラチの猥雑さに耐えられればの話ですが。

****タリバン指導者、カラチに潜伏?=パキスタン情報機関が支援-米紙****
米紙ワシントン・タイムズ(電子版)は21日までに、アフガニスタンの反政府勢力タリバンの最高指導者オマル師がパキスタンの情報機関「三軍統合情報局(ISI)」の支援の下、同国最大都市カラチに移動し、潜伏していると報じた。米情報当局者らの話として伝えた。
オマル師は2001年のタリバン政権崩壊後、アフガン南部カンダハルから対アフガン国境に近いパキスタンのクエッタに拠点を移動し、潜伏していた。しかし、先月にカラチに移り、新たな指導評議会も発足させたという。
パキスタンの対アフガン国境の部族地域では米軍が空爆作戦を強化しており、当局者によると、過去にもタリバンを支援してきたISIがオマル師の身の安全を考え、カラチに避難させた。オバマ政権がアフガンへの増派を検討している中、これまでも指摘されてきたISIへの疑惑がさらに強まりそうだ。【11月21日 時事】
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【イスラム過激派とつながる「国家内の国家」ISI】
アフガニスタンのタリバンを軍事面および資金面で育成・支援したのが、パキスタン軍の諜報機関であるISI(パキスタン軍統合情報局)であることは周知のところです。

ISIがタリバンを支援した理由は、「パキスタンとしてはアフガニスタンに自国の傀儡政権とも言うべきターリバンを作らせておき、中央アジアにおける貿易やアフガニスタン経由のパイプラインを独占したかった。またインドとのカシミール紛争でラシュカレトイバなどイスラム原理主義過激派を投入しており、それがパキスタン国内にいたとなると国際社会から「テロ支援国家」と非難される恐れがあった。タリバンの支配下にイスラム原理主義過激派を匿いたいという目論みもあって、パキスタンはタリバンを支持した。また、インドと軍事的に対決するに当たって後背のアフガニスタンに親パキスタン政権が建設される事は、パキスタンにとっては極めて重要な関心事項であった。」【ウィキペディア】と説明されています。

ISIは「国家内の国家」と呼ばれるほど強大な権限を持ち、政府の統制も及びにくい組織です。歴史的な印パ対立の中で、対印工作を主任務としてきました。
そのISIとタリバン、更にはアルカイダなどイスラム過激派との関係は今も継続しているということも再三指摘されています。

“米メディアが、ワシントンの米政府当局者の話として伝えるところによれば、問題のパキスタンの軍情報機関は、陸海空三軍統合情報部(ISI)のS班と呼ばれる組織だ。S班は海外の情報収集作戦を任務としているが、パキスタン国内でもほとんど知られていない。
S班にはイスラム原理主義に理解を示す軍人が多く、その一部がタリバンへの燃料・弾薬など軍事物資の供給や、米国およびパキスタン政府の極秘情報の提供を行なっている可能性が強いという。
米国はブッシュ前政権のときも、ISIによるタリバン支援の疑いがあると非難したが、今回は、在イスラマバードの米軍情報機関がタリバンとISIとのやり取りを電子機器によって確認した、といわれている。
米オバマ政権はパキスタン政府に対し、実態を解明するとともに関係者の処罰を行なうよう求めた模様だ。しかし、イスラマバードの消息筋は「パキスタン政府は、タリバンとISIの関係について、今のところ証拠がないと回答した」と述べている。”【フォーサイト5月号 NEWS PROBEより】

ISIに限らず、パキスタンの多くの権力者が、アフガニスタンで高まるインドの影響力を弱めるためにもタリバンの弱体化は好ましくないと考えているとされ、ある軍高官はアメリカ国家情報長官に「アフガニスタンへの影響力を保持するために、私たちはタリバンを支援する必要がある」と語っているそうです。【11月25日 Newsweek日本版】
ISIの活動は、こうしたパキスタン指導層の考えを背景としたものでもあります。

そのISIとパキスタン政権中枢との関係が気になりますが、ムシャラフ前大統領時代も長官の首のすげ替えなどやっていましたが、軍トップでもあるムシャラフ大統領が関与していないのか・・・よくわかりません。
軍に基盤のない現在のザルダリ大統領は、昨年11月にISIの政治部門を廃止し、本来の任務である情報活動に人員を配置転換し「テロとの戦い」に傾注することを発表するなど、一応の改革は試みてはいます。
ただ、その報道のあった数日後には、ギラニ首相とシン・インド首相との電話協議で合意した、インド同時多発テロ事件の背景解明に向けたパシャ・ISI長官訪印について、「敵の本陣」に大将を送り込むようなものとのISIからの反発により、その数時間後に「長官の代理を訪印させる」との声明を発表し、合意を事実上取り消すなど、ISIコントロールの実効性は疑問視されています。

【TTP掃討作戦と報復テロ】
一方、パキスタン軍は10月17日、アフガニスタンと国境を接する南ワジリスタン地区で、イスラム武装勢力「パキスタン・タリバン運動」(TTP)に対する地上掃討作戦を開始し、作戦開始以来の死者数は今月中旬時点で、TTP側が485人に対し、軍は61人と、激しい戦闘を続けています。
更に、作戦への報復とみられる襲撃やテロは全土に拡大し、作戦地域以外での市民や治安部隊員の犠牲者は400人を超えています。【11月14日 朝日より】
また、13日には、パキスタン北西部ペシャワルでISIの事務所ビルを狙った自爆攻撃があり、少なくとも8人が死亡、31人が負傷しています。

こうした国軍とTTPとの激しい戦闘、ISI自体へのテロなどと、流布されているISIとイスラム過激派のつながりがどうリンクするのか、よくわからない不思議なところです。

【アメリカの苛立ち】
当然ながら、タリバン・アルカイダ勢力との戦いに苦闘し、パキスタンにもその戦いを要請しているアメリカは、ISIなどのパキスタン軍内部とイスラム過激派勢力との関係について、その改善を要請しています。
アフガニスタンに駐留する米軍と北大西洋条約機構(NATO)軍のトップ、マクリスタル司令官が、今年8月に作成した報告書では、アフガニスタン国内の主要な反政府勢力の幹部が「パキスタンのISI内部から支援を受けているという情報」についても言及されています。

また、今年10月にパキスタンを訪問したヒラリー・クリントン米国務長官は29日、「2002年以降、アルカイダはパキスタンに隠れ家を持っています」「(パキスタン政府が)本当にアルカイダを捕まえたいと思っているのにパキスタン政府の誰も彼らの所在を知らず、捕まえられないというのは信じがたいことです。本当に彼らを捕まえられないのかも知れませんが、私には分かりません・・・しかしわれわれが知る限り、彼らはパキスタンにいます」【10月30日 AFP】と、パキスタン政府への苛立ちをあらわにしています。

米政府監査院(GAO)は昨年10月、アメリカ政府が2002年以降、テロ対策名目でパキスタンに105億ドル(約1兆800億円)もの支援をつぎ込んだにもかかわらず、北西部の部族地域からテロリストを一掃するという「米国の安全保障上の目的が達成されていない」と、一帯が依然国際テロ組織アルカイダの格好の潜伏先になっていると指摘する報告書をまとめています。

また、オバマ米大統領は11月15日、パキスタンへの非軍事支援法案に署名し、年間15億ドル(約1360億円)、今後5年間で計75億ドル(約6800億円)を支援する法案が成立しました。
これは、パキスタンの文民政権の安定化を後押しし、同国内の過激派やテロ対策を強化するのが狙いとされています。
パキスタンがイスラム過激派との関係を続けているのは、核保有国であるパキスタンが不安定化するという懸念を欧米諸国に与え、アメリカなどからの巨額の財政支援を得ようとするのが狙いだ・・・という声もあります。

【それでも続くアメリカとパキスタンの連携】
こうした膨大な資金をこれまでも、これからもパキスタンに注ぎ込んでいる、そして何よりも、アフガニスタンでのタリバン・アルカイダとの戦いで多くの犠牲者を出しているアメリカにとって、闘っている敵の指導者が本当にパキスタン軍・ISIによってかくまわれているとすれば、なんとも納得できない話のはすです。
ただ、そのあたりの事情は承知しているはずのアメリカが、依然としてパキスタンと連携して戦いを進めているというのも、更に不思議なところです。


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