孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イラク  トルコ越境で“踏み絵”を迫られるアメリカ

2007-10-24 14:48:27 | 国際情勢

(トルコ Eskisehir のクルド人少女 “flickr”より By MajaHoland )

報道されているように、トルコ・クルドの状況は緊張を高めています。
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クルド労働者党(PKK)は22日夜、「トルコ軍が我々の拠点への攻撃を中止し、イラク越境攻撃計画を取り下げるならば、停戦の用意がある」との声明を同組織のウェブサイトに掲載した。声明は、クルド人であるイラクのタラバニ大統領とPKKリーダーらとの協議後に出された。事態沈静化をめざすタラバニ氏の意向が働いたとみられる。
 一方、トルコのババジャン外相は23日、バグダッドを訪問してイラク首脳らと協議。共同会見でPKKの条件付き停戦表明に言及し、「停戦とは二つの国家や軍の間の問題であり、テロ組織とは成立しない」と述べ、取り合わない考えを示した。イラクのクルド人であるジバリ外相もPKKの「脅威」除去のため、トルコ側に協力を約束した。【10月23日 朝日】
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ロイター通信によると、トルコ軍はすでにイラク北部の国境沿いに戦車や戦闘機、戦闘ヘリなど10万人の部隊を展開していますが、エルドアン首相は、侵攻は国際法に基づく個別的自衛権の行使に当たり、地上部隊による侵攻ではなくPKKの拠点だけを狙って空爆する考えを示唆しているとのこと。
【10月23日 産経】

また、エルドアン首相は23日、「イラク政府は、我々が議会から承認された越境攻撃をいかなる時でも実行できることを認識するべきだ」と警告してアメリカ・イラクにPKK対策の確実な実行を求めたうえで、「我々が標的としているのはPKKだけだ」とも指摘。
「イラクの自治権や政治的情勢を混乱させる意図はまったくない」とも話し、イラク国境を越えた攻撃を行った場合でも、イラクや国際社会に配慮する意向を示したそうです。【10月24日 朝日】
“意図”はなくても、“結果”として混乱することはおおいにありえます。

トルコの圧力に対し、イラク情勢の混乱を避けたいアメリカはブッシュ大統領やライス国務長官がトルコ首脳に電話で自制を求めています。
ただ、イラクへの補給路をトルコに頼っている事情もあります。
イラク・マリキ首相はPKKの事務所を閉鎖し、イラク国内での活動を認めないことを明らかにしました。
タラバニ大統領も「PKKにイラクを去るか武装解除するかの選択肢を与えた」と語っています。
米紙シカゴ・トリビューン(23日付)は米政府がトルコの越境攻撃を防ぐため、PKK拠点への空爆を検討していると報じています。【10月23日 毎日】

ただ、このような動きが各国指導者の思惑どおり進むかはかなり疑問です。
イラク首脳やPKKリーダーが自制しようと考えても、末端の暴走とか、偶発的なトルコ軍との衝突とか、“不測の事態”はいくらでも起こりえます。
世の中の戦争・紛争は、相手にブラフをかけている状態での“不測の事態”発生で一気にエスカレートしていくのが常です。

仮にアメリカが空爆に乗り出すにしても、すでに今現在手一杯な状況で更にクルド自治区まで範囲を広げる軍事的余力があるのか?という問題もあります。
山岳地帯に潜むPKKに対し有効な攻撃が可能か?という軍事作戦的な問題もあります。

もっと深刻なのは、仮にトルコまたはアメリカが空爆などの攻撃を実行した場合、その後の影響です。
当然PKKの抵抗が強まることが予想されます。
21日トルコ兵士12名が死亡したような事件が続発したとき、トルコ国内の世論が激高し、更に強い軍事行動を求めるような流れにはならないでしょうか。
すでにイスタンブールでは、23日も数千人が街頭でトルコ国旗を掲げて反PKKデモを展開していると聞きます。
政権にとって、激高する世論を抑えるのは至難の業です。

クルド側も同様でしょう。
限定的な空爆とは言っても、民間人の巻き添えや誤爆なども十分に起こるでしょう。
自治拡大の世論は、一気に独立へと過激化する事態もあるかも。

クルド人のイラクからの離反についてはアラブ勢力も黙視できないところでしょう。
大統領、副首相、外相などをクルド人から出して存続しているマリキ政権はどうなるのか?
衝突・混乱がエスカレートすれば、クルド人がその領有を主張する油田地帯キルクークでもクルド、トルクメン、アラブの各勢力で内紛が生じ、トルクメン人を支援するトルコ軍の侵攻ということもありうるのか?
クルド人が独立志向を強めれば、イランにも飛び火します。

そんな混乱状態にならないように、アメリカとしては慎重にバランスをとりながら微妙な舵取り・・・ということでしょうが。
「米国は、冷戦時代からの同盟国(トルコ)と、イラク戦争以降の新興同盟者(イラクのクルド人)のいずれを取るか「踏み絵」を迫られている格好だ。」【10月23日 毎日】とも表現されています。
11月にイスタンブールで開催されるイラク安定化会議まで現状を維持することもそう容易ではない状態に見えます。


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