孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

イエメン  “出口”となるか? サレハ大統領、けが治療のためサウジアラビアに出国

2011-06-05 20:26:58 | 国際情勢

(道路を埋め尽くす反政府デモの群衆 これを見守る政府軍兵士 6月3日サヌア “flickr”より By urbancn http://www.flickr.com/photos/urbancn/5796453076/

危険な賭け
1月から反政府抗議行動が続くアラビア半島のイエメンでは、隣国サウジアラビアなどでつくる湾岸協力会議(GCC)が、サレハ大統領の30日以内の退陣と引き換えに退陣後の訴追を免除するなどとする仲介案を提示していましたが、大統領がこれを拒否。

そうしたなかで、政府の治安部隊と同国の最大部族ハシド族勢力が武力衝突して多数の犠牲者を出し、更に、先月末にはアルカイダ系武装組織が南部都市を制圧するなど混乱が拡大していました。
しかし、これは部族対立による内乱の危機を煽り、アルカイダの脅威を演出することで、自身への退陣圧力をかわす狙いの“自作自演”ではないかとの見方もあります。

****アルカーイダ系、南部の都市制圧 イエメン自ら危機演出か****
サレハ大統領への退陣圧力が強まっているイエメンで、国際テロ組織アルカーイダ系とみられる武装勢力が南部ザンジバルを制圧し「イスラム首長国」樹立を宣言、中東の衛星テレビ局アルアラビーヤによると、サレハ氏側の軍部隊は30日、同勢力に対し空爆を行った。

サレハ氏に反旗を翻している軍高官らは声明で、「政権がわざとザンジバルを明け渡した」と主張、同氏がアルカーイダの脅威を強調して危機を演出することで、イエメンの不安定化を恐れる国際社会からの退陣圧力をかわそうとしているとの見方を示している。

一方、同国第2の都市の南部タイズでは29日夜、政治犯の釈放やサレハ氏の退陣を求めて座り込みを続けていたデモ隊数千人にサレハ氏側の治安部隊が発砲し、少なくとも20人が死亡した。
同国では24日からサレハ氏側と民主化デモを支持する最大部族ハシド族との戦闘が続いていたが、28日に双方が停戦合意した。しかし、ハシド族側は「サレハが退陣しないなら戦争をする用意もある」などとしており、今後も政権側によるデモ弾圧が続けば再び戦闘が激化する可能性もある。【5月31日 産経】
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有力部族ハシド族との衝突については、“エジプト政府系シンクタンクの湾岸専門家は「サレハ氏は自ら危機を演出し自身を排除しづらい環境を作ろうとしている」と指摘。ロンドン発行の汎アラブ紙クドゥスルアラビー(電子版)は24日付で、「サレハ氏は危険な賭けに出ている」と論評している。”【5月26日 産経】とも報じられています。

サレハ大統領が権力の座に固執するのは、多くの部族勢力やアルカイダ勢力が入り乱れ、利害関係が錯綜するイエメンにあって、これをまとめられるのは自分しかいないとの自負があるとのことです。
退陣を求める国際的圧力に対しても、もし自分が退陣すれば「権力の空白」が生じて、イエメンは破滅的な混乱に陥ることを示唆して、この圧力に抗しています。

大統領、砲撃で負傷
しかし混乱拡大に歯止めがかからず、3日は大統領宮殿内のモスク(イスラム教礼拝所)に砲撃があり、サレハ大統領が頭部に軽傷を負ったほか、政権高官多数が負傷、警護員4人が死亡する事態となっています。

****大統領宮殿に砲撃 イエメン サレハ氏負傷、内戦懸念****
反サレハ大統領派と政権側との戦闘が続くイエメンの首都サヌアで3日、大統領宮殿内のモスク(イスラム教礼拝所)に砲撃があった。中東の衛星テレビ局アルアラビーヤによると、サレハ大統領が頭部に軽傷を負ったほか、政権高官多数が負傷、警護員4人が死亡した。サレハ氏と対立する最大部族ハシド族の民兵らによる攻撃の可能性がある。これにより政権側が報復・弾圧を強化し、民主化支持を表明する軍部隊をも巻き込んだ本格的な内戦に突入する懸念がいっそう強まった。

サレハ大統領のほかに負傷したのはムジャワル首相や国会議長ら。アリーミ副首相(国防・治安担当)は重体という。野党系テレビは大統領が死亡したと報じたが、与党・国民全体会議(GPC)幹部は報道を否定した。イスラム教の金曜礼拝に参加中に砲撃を受けたという。
これに先立ち、政権側は同日、野党勢力を率いるハシド族指導者の一人の自宅を重火器で攻撃していた。
GPC報道官は「ハシド族は一線を越えた」と非難、同部族への攻勢を強める姿勢を示した。一方のハシド族側の報道官は「大統領宮殿への砲撃には何の関係もない」と話している。

国内外から強い退陣圧力を受けるサレハ氏は5月下旬、自身の出身部族ながら反サレハ派に加わったハシド族指導者らの自宅を攻撃、ハシド族側も反撃に出ていた。
イエメン情勢をめぐっては、隣国サウジアラビアなどでつくる湾岸協力会議(GCC)が、サレハ氏の退陣と引き換えに退陣後の訴追を免除するなどとする仲介案を提示していた。
しかし、権力維持にこだわるサレハ氏と、訴追を通じてサレハ氏の影響力を完全に排除したい反サレハ派の双方が同案の受け入れを拒否、話し合いによる対立解消は難しい状況となっている。【6月4日 産経】
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この3日の攻撃についてサレハ氏側は「反大統領派有力部族ハシド族のサデク・アフマル部族長支持者の犯行」と主張、アフマル氏側は「大統領の自作自演」と反発しています。
砲撃後、大統領は政権にとどまる意向を改めて強調するメッセージを発表していますが、怪我の程度について憶測が広がっていました。

****イエメン:「私は無事」続投強調…大統領が音声声明****
イエメンの国営テレビは3日夜、同日の大統領府への砲撃で負傷したサレハ大統領の音声声明を放送した。サレハ大統領は「私は無事で健康状態もよい」と語り、攻撃を「権力奪取を狙ったクーデターだ」などと批判。国民に「共に危機を乗り越えよう」と呼びかけ、政権にとどまる意向を改めて強調した。しかし音声だけで姿を見せなかったため、けがの程度に関する臆測が広がり、権力基盤のさらなる弱体化も指摘されている。

声明によると、砲撃では大統領警護責任者ら7人が死亡。国会議長や首相ら複数の政府幹部も負傷したという。
サレハ大統領の負傷の程度は明らかでない。現地からの報道は「後頭部にけがをした」「入院して治療中」などと情報が交錯している。(後略)【6月4日 毎日】
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【「治療後はイエメンに戻る」】
イエメンに拠点を置くテロ組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」の勢力拡大を懸念するアメリカは、対テロ戦争の力を失ったサレハ大統領を見限り、大統領の退陣を要求しています。

****イエメン:米、改めて大統領退陣迫る 内戦回避へ対応協議****
イエメンの大統領府が砲撃され内戦化の可能性が高まっていることに対し、米政府が危機感を強めている。イエメンに拠点を置くテロ組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が混乱に乗じて勢力を拡大する恐れがあるためで、米政府は内戦回避へ向けサレハ大統領に退陣を強く求める一方、サウジアラビアなど周辺国と対応を協議している。

カーニー米大統領報道官は3日午後(日本時間4日午前)、緊急の声明を発表し、大統領府への砲撃を強く非難。1カ月以内の副大統領への権限移譲と退陣を盛り込んだ湾岸協力会議(GCC、サウジアラビアなど6カ国)の調停案の履行をサレハ大統領に求め、改めて退陣を迫った。

米政府は従来、AQAPに対抗するため米軍をイエメンに駐留させ、サレハ政権に資金援助を与えて抑圧的体制を事実上黙認してきた。だが、民主化要求デモの激化を受け、国民の支持を失ったサレハ氏にはテロ組織との「代理戦争」を続ける力がないと判断。3月下旬に退陣を求める方針に転換した。

一方、米政府はイエメン国内の反大統領派勢力について、サレハ氏退陣後に新政権を担う統治能力はないと分析。GCCの調停案をサレハ氏に受諾させて事態を軟着陸させる構想を描いたが、サレハ氏が先月22日、一度は受諾した調停案への署名を拒否したために行き詰まった。

オバマ大統領は1~3日、ブレナン大統領補佐官(国土安全保障・テロ対策担当)をGCCの中心であるサウジアラビアとアラブ首長国連邦に派遣し、対応を協議させた。ブレナン氏は声明で「暴力の停止へ向けて両国政府と緊密に連携し続ける」と述べており、両国の仲介でサレハ氏への退陣圧力を強め、内戦回避に全力を挙げる構えだ。【6月4日 毎日】
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上記のような混乱のなか、サレハ大統領がけがの治療のためサウジアラビアに出国したことが報じられています。

****イエメン大統領、サウジアラビアの病院へ搬送****
反体制勢力による3日の砲撃で負傷したイエメンのアリ・アブドラ・サレハ大統領が4日深夜、イエメンの首都サヌアからサウジアラビアのリヤドに到着した。サウジアラビア当局者によると、大統領に辞任の意志はないという。

サウジアラビア当局者は匿名を条件に、「サレハ大統領はけがの治療のために訪問しているが、治療後はイエメンに戻る」と語った。イエメンでは、33年もの間政権を握るサレハ大統領の退陣を求め、4か月に及ぶ反体制勢力の抗議デモが続いている。

サウジ政府関係者によると、サレハ大統領はサウジアラビアの医療用航空機でリヤドに到着し、すぐに軍の病院に搬送された。2機目の航空機には、大統領の家族らが搭乗していたという。イエメンの精鋭部隊である共和国防衛隊の司令官を務めているサレハ大統領の長男アハマド氏はイエメンに残った。
イエメン国営サバ通信によると、同じ砲撃で負傷したアリ・ムハンマド・ムジャワル首相も、負傷したほかの政府高官や議会指導者らととともにサウジアラビアに到着したという。
サレハ大統領不在の間は、イエメンの憲法に従ってアブドラボ・マンスール・ハディ副大統領が代理を務める。【6月5日 AFP】
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内戦状態とも言える混乱のなか、退陣を要求されている大統領が家族をつれてけが治療のため隣国へ出国・・・・。
しかも、出国先のサウジアラビアは、(自国への影響波及を恐れ)GCC中心国としてサレハ大統領に退陣を迫っていた国です。
素人考え的には、これは亡命ではないか・・・とも思えますが、イエメン国内で治療できないほど重症なのでしょうか?

これまでもサレハ大統領は、仲介案に応じる姿勢を再三みせながら、土壇場でこれを拒否するということを繰り返しています。今回の大統領出国が混乱からの“出口”となるのか、更なる混乱拡大か・・・先のことはわからないのがイエメン情勢です。


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