孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

ミャンマー  「スー・チー大統領」を断念 貧困層の新政権への期待と重圧

2016-03-01 20:57:57 | ミャンマー

(昼間は工場で米の籾殻の袋詰め作業をしながら、夜間小学校に通う14歳少女 貧困の連鎖を断ち切ることが期待される「教育」 【2015年3月19日 シャンティブログ https://sva.or.jp/wp/?p=13198】)

国軍との関係を優先し、無理押しを避ける
ミャンマーのスー・チー氏の大統領資格問題については、2月9日ブログ「ミャンマー 憲法効力は変えることができても、人の心は・・・」(http://blog.goo.ne.jp/azianokaze/d/20160209)で、憲法上の制約を一時的な憲法効力停止措置でかいくぐる方策を国軍と交渉していることなどを取り上げました。

その後の協議で、「スー・チー大統領」を断念することになったようです。

****スーチー大統領」を断念 政権安定へ軍との連携優先****
ミャンマー総選挙で大勝した国民民主連盟(NLD)が、3月末の新政権発足時のアウンサンスーチー党首の大統領就任を見送る方向になった。

軍政の流れをくむ現政権や国軍内で反発が強く、交渉が難航していた。安定した政権運営に不可欠な軍との連携をまず優先した形だ。

軍政下で制定された憲法には「外国籍の家族がいる人物は大統領になれない」との規定がある。スーチー氏は亡夫や息子が英国籍のため、就任できない。

昨年11月の総選挙で国会の過半数を得たNLDは、スーチー氏の大統領就任を模索。国会での大統領選出手続きを3月17日まで先送りした上で、国会の4分の1の議席を有し、国防や内務など3閣僚を送り出せるなど強い政治権限を持つ軍と交渉。軍の同意を得て特別法を制定し、憲法の大統領資格条項を一時凍結しようとした。

当局筋によると、交渉で軍側は全国に14ある州・管区政府のうち四つについて行政トップのポストを要求。NLDが応じれば「スーチー大統領」を容認する可能性を示唆していたという。だが、交渉は妥協に至らなかった模様だ。

NLD関係者によると、同党から選ばれた議長が1日の国会で、17日としてきた大統領選出手続きを「1週間程度前倒しする」と表明する。特別法の審議には「3週間程度は必要」(NLD法律顧問)で時間が足りない。「スーチー大統領」を事実上断念した形だ。

スーチー氏は、大統領に党幹部を据え、自身は外相に就任するとの観測が出ている。ただ彼女自身が「大統領の上位に立つ」と表明しており、実質的にはスーチー氏が政権を率いる形になりそうだ。【3月1日 朝日】
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ただ、完全にあきらめた訳でもなく、“年内にもスー・チー大統領の実現を目指すものとみられる”との報道もあります。

****スー・チー氏の大統領就任、当面は見送りへ****
ミャンマーからの報道によると、同国の与党、国民民主連盟(NLD)は1日、4月にも発足する新政権に合わせて党首のアウン・サン・スー・チー氏を大統領に就任させる方針を断念した。

新大統領候補にはスー・チー氏側近の幹部を擁立して“つなぎ”とし、年内にもスー・チー大統領の実現を目指すものとみられる。(後略)【3月1日 産経】
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まあ、憲法の効力を部分的・一時的に停止して・・・という方策は、法治の立場からすると、あまり筋のいい方法とは思えませんし、無理をして国軍との関係が悪化したり、あるいは国軍側に過度に譲歩を求められたりするのも、スー・チー政権の今後にとっては良い話ではありませんから、無理押しすることもないのでは・・・と思えます。

新政権に期待する貧困層
スー・チー政権の課題は、少数民族や少数派イスラム教徒との国民融和の実現、国政・経済に依然として大きな力を有する国軍との関係への配慮などがありますが、そうした制約条件下で国民の経済状況を改善していくことが求められています。

外資の参入などで急速に活気づいているミャンマー経済ではありますが、依然として多くの国民が貧困に苦しむ状況にあって、成長の恩恵はいきわたっていません。

****スー・チー氏“深刻な貧困問題”どう挑む*****
ミャンマーで去年の総選挙の結果を受けた新しい議会が招集された。過半数を占めることとなったNLD(=国民民主連盟)を率いるアウン・サン・スー・チー氏。3月にも新政権が発足する見通しだが、そこには多くの課題が残されている。

■東南アジアで最も貧困層が多い国
今月1日、アウン・サン・スー・チー氏が議場に到着する姿があった。新議会で過半数を占めるNLDの党首であるスー・チー氏。3月にも発足する見通しの新政権で、事実上のトップとしてミャンマーを率いることになる。しかし、新政権が解決すべき問題は少なくない。最大都市ヤンゴンの貧困層が多く暮らす村では―

「15日間ぐらい仕事がない。収入がなくて食べ物に困っています」

建築現場などで働くトントンウェンさんは、この村で妻と子ども5人の計7人で生活している。仕事が無い日も多く、収入は不安定で、食べるものにも困ることがあるという。国連開発計画によると、ミャンマーは東南アジアで最も貧困層が多く、トントンウェンさんのような家庭も珍しくないという。

■学校は無料でも「バス代」がない
また、子どもたちの教育問題も深刻だ。トントンウェンさんの長女、チョースインさん(13)。彼女は、両親と建築現場などで働いていて、学校に通ったことはない。国勢調査によると、ミャンマーでは約16%の子どもが一度も学校に通ったことがないという。

学校に行きたいかとの質問に「行きたいけど…」と答えるチョースインさん。自分が働く代わりに、妹と弟はなんとか小学校に通うことができている。11歳の妹は「学校は好き」「将来は先生になりたい」と話す。しかし、その学校でも貧困問題が影を落としているという。学校の教師に聞いてみると―

教師「(Q:学校を途中でやめてしまう子どもは?)A:はい、途中でやめてしまう子どももいます」「ノートや鉛筆などが買えない子どももいます」

公立小学校の場合、基本的に学費は無料だが、学校に通わせることは簡単ではない。学校が家から離れているため、毎月バス代を払う必要があるが、このバス代を払うことすらままならない家庭も多いのが実情だ。

貧しい暮らしが続くトントンウェンさん一家。新政権に期待するトントンウェンさんは、スー・チー氏を応援するためにNLDのメンバーにもなっているという。

トントンウェンさん「政権が変われば、私たちの暮らしは変わると信じています」「生活は改善しなくても住む環境は改善すると思います」

■スー・チー氏の最側近に聞く―
こうした貧困や教育問題について、たびたび改善を訴えてきたスー・チー氏。国民から圧倒的な支持を得ているが、これらの問題に対する具体的な解決策はまだ示していない。スー・チー氏に長年寄り添い、彼女の最側近でもあるNLD創設者の1人、ティン・ウー最高顧問。彼が我々の単独取材に応じた。

「スー・チー氏がいくら有能でも、NLDだけで解決するのは難しい。国が一体となって取り組み、NGOや他国の協力も必要です」

長年にわたり続いた軍主導の統治から大きな転換点を迎えるミャンマー。スー・チー氏が国民の声にどう応えるのか、その手腕が問われている。【2月12日 NNN】
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スー・チー氏を圧倒的な力で押し上げたのは、こうした貧困層であり、よりよい暮らしを求める切実な願いです。

ただ、スー・チー氏が政権を担ったからといって、急激に生活が改善するものでもなく、大きな期待はスー・チー氏にとって重圧ともなります。

よりよい生活を求める人々の期待にどのように応えていくか・・・現実政治家としての手腕が問われます。

****ミャンマー】貧困を断ち切る夜間小学校****
今日も朝が来た。
起きてすぐ、村の仲間と一緒にピックアップトラックで精米工場まで移動する。
7時、工場で米の籾殻の袋詰め作業開始。この袋を店と工場を往復するトラックに何度も積める…。これが私の仕事。

少女の名前はネインネインテ、14歳。
仕事をする彼女は無表情で、ただ目の前の肉体労働に従事しています。

彼女は昨年、村で開催されることになった夜間小学校のプログラムに通い始めました。
昼ごはんも食べられずに3時まで働き続けたこの日、授業が始まる少し前に仕事を終えて家へ戻り、
バックを背負って急いで教室へ駆け込みました。

昨日、一昨日は仕事が長引いて授業に参加できなかったので、
休んだ分を取り戻すために一心不乱にノートとテキストに向かいます。
机が足りないので、長いすを机代わりにしながら…。

彼女は妹が生まれた時から、妹の世話のために小学校3年生で中退せざるを得なくなりました。
父親は無職、母親は自分と共に精米工場で仕事をして3年になります。

無職の父親は一体何をしているのだろうか。 噂ではアルコール中毒だという話を聞きました。
彼女が仕事に出かけている間、彼女の家を訪れ、父親に話を聞いてみました。

父、コーナインは38歳。この村で生まれ育ちました。
やはり妻・娘と同じ精米工場で働いていましたが、去年の4月に仕事を辞めざるを得なくなりました。工場でマスクを支給してもらえなかったがために肺の病気を患ってしまったそうです。

彼の両親もまたこの村で生まれ、同じく精米工場で働いていました。
彼は小学校3年生のときに中退し、精米工場で働き始め、以後30年間休みなく働き続けました。

「今の娘さんと、ほとんど同じ状況ですね」と言うと、「そうだ」と悲しそうにうなずきました。
自身の昔を回想し、今の娘の姿を自分に照らし合わせるような、しばしの沈黙がありました。

その後、ぽつりと彼はつぶやきました。
「娘には、夜間小学校を卒業した後、絶対に中学校へ進学してもらいたい。
これ以上、自分と同じ人生を歩ませたくない」

貧困は繰り返します。
狭い村の中で、三世代共に同じ工場で働き続け、後に病気になって仕事を辞めざるを得ず、その時には自分の子どもが同じ工場で働き始めている。この絶望的な連鎖を打破するもの、それは教育です

8時間工場で働き続けた後に駆け込んだ夜間小学校の授業で、
一心不乱にノートの書き取りをしていたネインネインテ。

先生へノートを見せて、丸を付けてもらった瞬間に、この日初めて顔がぱっとほころび、
ただの14歳の少女に戻りました。

この夜間小学校で2年間集中して勉強し修了試験に合格すれば、彼女は小学校卒業資格を得ることができます。【2015年3月19日 シャンティブログ https://sva.or.jp/wp/?p=13198
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