孤帆の遠影碧空に尽き

年に3回ほどアジアの国を中心に旅行、それが時間の流れに刻む印となっています。そんな私の思うこといろいろ。

インドの「赤の回廊」  繰り返される「インド共産党毛沢東主義派」のテロ活動

2010-05-29 14:43:57 | 国際情勢

(ジャングルの中で整列する「インド共産党毛沢東主義派(ナクサル)」の部隊 “flickr”より By Pan-African News Wire File Photos
http://www.flickr.com/photos/53911892@N00/4496566637/)

【掃討作戦への報復テロ】
インドで、“また” インド共産党毛沢東主義派によると思われるテロが起きています。
****列車脱線、毛派テロか インド東部、76人死亡*****
インド東部の西ベンガル州で28日未明、何らかの原因で脱線した急行列車に、逆方向から来た貨物列車が突っ込み、PTI通信によると76人が死亡、約200人が負傷した。
同州警察は、極左武装組織のインド共産党毛沢東主義派による犯行とみている。現場には、毛派武装グループによるものとみられる周辺地域からの治安当局の撤退などを求める内容のビラが見つかったという。
脱線の原因は不明だが、線路の一部が取り外されており、破壊工作の可能性が高い。だが、爆弾による爆発との見方も残っている。

現場は同州の州都コルカタ西方約135キロのジャールグラム付近で、毛派の活動が活発な地域。毛派は同日から治安機関などに攻勢をかけると宣言していたことから、治安当局は警戒を強めていた。
毛派は、貧困層や低カースト層の解放などを掲げ、貧困地帯で強い支持基盤を持つ。治安機関などを狙った攻撃を繰り返しており、今年4月には中部チャッティスガル州で警官隊が襲われ約70人が死亡、5月にも同州で警官らが乗ったバスが爆破され、少なくとも40人が死亡した。【5月29日 産経】
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別記事によれば、
“警察幹部は地元テレビの取材に「インド共産党毛沢東主義派(ナクサル)の一部勢力が犯行声明を出した」と述べ、最初の列車の脱線について「線路の一部が撤去されていたのが原因」との見方を強調した。
ナクサルは、貧しい農民が中心となり、貧困の改善やカースト(身分制度)による差別の撤廃を要求。「社会主義革命」を掲げて武力闘争を続けており、昨年のテロ活動で市民を含む1000人近くが死んだ。ネパールの旧武装組織で最大政党「ネパール共産党毛沢東主義派」との連携が指摘されている。”【5月28日 毎日】

5月17日のバス爆破事件では、爆破装置は遠隔操作が可能なもので、道路に埋められていたとみられています。バスには40~60人が乗っており、警察官もいましたが、犠牲者のほとんどが一般の市民でした。【5月17日 朝日より】

4月6日の警官隊襲撃事件では、密林地帯を巡回していた中央警察予備隊が重武装の毛派グループ数百人に包囲され自動小銃や地雷で襲撃されました。援軍に駆けつけた警官隊の装甲車も爆破されたとのこと。【4月7日 AFPより】

上記AFP記事によれば、武装能力を一段と強化した毛派グループによる襲撃は、インド政府がインド北部から東部に広がる「赤い回廊」と呼ばれる密林地域で前年から展開している毛派掃討作戦への報復とみられています。
貧農層らの権利を掲げ毛派が1967年に西ベンガル州で開始した反政府武装闘争は、現在ではインド28州のうち、20州にまで拡大しています。

【「赤い回廊」を支配する暴力の脅威】
毛派は、50年までに国家転覆を目指しているとの報道もあります。
****50年までに国家転覆=インド極左が目標****
インドのピライ内務次官は5日、ニューデリーでの講演で、極左反政府勢力の共産党毛沢東主義派(毛派)が、2050年までに連邦政府の転覆を目指しているとの見方を明らかにした。押収した毛派の文書から判明したという。
同次官は「毛派の士気は極めて高く、高度に訓練されている」とし、武装活動で軍経験者の支援を受けている可能性が高いと指摘した。【3月6日 時事】
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ただ、現在の毛派がこうした「革命」を目指すイデオロギー集団かどうかには疑問があります。
そうした毛派は70年代の後半に完全に消滅し、90年代に入って登場した現在の毛派と直接の関係はほとんどないとも言われています。【09年5月20日号 Newsweekより】

毛派の脅迫・暴力による被害を受けている一般市民の様子、また、治安維持にあたるべき警察が全く無力な様子を上記Newsweekは次のように書いています。

“夜遅く、家の電話が鳴った。電話の主は私の妹で、声が震えていた。インド共産党毛沢東主義者を自称する極左武装勢力のメンバーから夫に電話があり、「保護料」を支払えと言われたのだと言う。要求額は米ドルに換算して1000ドル以上。警察には通報するなと、脅迫者は念押しした。
警察に通報しようなどと思う人はそもそもいない。妹夫婦が暮らすインド東部の貧しいジャルカンド州は長年、毛沢東主義派(毛派)の極左反政府武装勢力が事実上の「領土」として支配している。地元の警察官は恐怖のあまり、めったに警察署の外に出ようとすらしない。
妹は途方に暮れていた。要求金額は、中級レベルの公務員をしている夫の給料のざっと5ヵ月分。しかも夫婦がどうにか金をかき集めたとしても問題は解決しない。武装勢力が1回だけの支払いで許してくれることは少ない。
支払いを拒むという選択肢はあり得ない。支払いを渋った人のなかには、腕を切断されたり、耳や鼻をそぎ落とされた人もいる。村を離れて逃げるわけにもいかない。夫が職を失えば、一家は生活していけなくなる。”

“この数日前、隣のビハール州の都市ガヤ近くの村が毛派に襲われた。武装グループはやすやすと村に押し入り、村の実力者の家を襲って略奪を行った。その後、家にいた女性たちに外に出るよう命令し(一家の主と息子たちは所用で不在だった)、ダイナマイトで家を爆破すると、どこかへ消えていった。
地元の警察署長は、通報を受けて警官隊を村に派遣したと主張しているが、村人たちによれば、警察がやって来たのは襲撃者が去ってから15時間近く後だったという。
その数日後には、夜遅くに、ジャルカンド州の都市ハザリバグ近くの村を100人近い毛派の武装グループが
襲った。襲撃者たちはある学校の教師を警察のスパイと決め付け、妻の懇願も聞き入れずに連行。木に縛り付けて拷問を続けた後に殺害した。”

中国と並ぶ新興国の雄たるインドで、なぜこんな無法がまかり通っているのか?
Newsweekでは、極度の貧困と、地方・農村の窮状に関心を持たない政治家に原因があるとしています。
“武装勢力が好き放題振る舞えるのは極度の貧困のせいだと、そのアジャイ・クマル・シンという人物は言った。「道路がないので、経済発展がほとんど進まない。道路を造ろうとしても、毛派の攻撃によってことごとく破壊されてしまう。道路が開通すれば潜伏地帯の安全が脅かされると、(武装勢力は)分かっているからだ」
それに、州政府の政治家や高官は都市に住んでいるので、貧しい村々の経済開発に熱心でないのだと、シンは指摘する。政治家がその気になれば、さすがの毛派も開発を阻止できないはずだと、シンは考えている。「人類は海底にトンネルを掘った。田舎の村に道路を通せないはずがない」”

【治安優先アプローチへの批判】
さすがに昨年から、インド政府も毛派を「国内最大の脅威」と位置づけて掃討作戦を展開していますがが、武力に偏重し、根底にある貧困問題・社会問題をなおざりにしたアプローチに対する批判もあります。

****インド 毛派テロ対策 武力行使に限界 経済へ暗雲も*****
インドの東部から中部、南部にかけての貧困地帯である「赤の回廊」で、極左武装組織「インド共産党毛沢東主義派(インド毛派)」のテロが頻発している。中部チャッティスガル州ダンテワダ地区で17日、バスが路肩爆弾によって爆破され、少なくとも40人が死亡。4月6日には同地区で警官が武装集団の襲撃を受け、76人が死亡した。同国政府はインド毛派を「国内最大の脅威」と位置づけ、掃討作戦を展開しているが、武力に偏重したアプローチには限界もある。

次期首相候補の一人と目されるチダムバラム内相の下で、インド政府は「グリーンハント作戦」と呼ばれる毛派掃討作戦を開始した。同内相は、2008年11月のムンバイ同時テロ後に任命された。しかし、武装警察を大量に動員した「鉄拳」政策には、貧困問題に取り組む市民グループだけでなく、与党「統一進歩同盟(UPA)」内部からも批判がある。

 ◆軍は消極姿勢
隣国ネパール共産党毛沢東主義派(ネパール毛派)と連携しているともいわれるインド毛派の活動の背景には、「赤の回廊」の村落に残る封建制度や同地域が経済発展から取り残されている現実がある。しかし、地域ごとに事情は異なり、中央政府が押しつける解決策よりも、地域の実情に応じたきめ細かい対応が求められる。
チダムバラム内相は治安優先のアプローチを取っている。しかし、武力行使は、根本的な経済社会問題の解決にはつながらず、問題を悪化させるだけだと懸念する者もいる。地元の警察当局者は、中央政府が派遣する武装警察部隊は地元の言葉を話せず、すべての地元住民を毛派として扱い、潜在的な敵対者と見なしていると嘆く。

内務省では、インド毛派は地方の不満から生まれた大衆運動とは考えられていない。同省の用語では、毛派は「犯罪者」や「テロリスト」と同義語であり、こうした姿勢が同派との対話の余地を狭めている。チダムバラム内相は、毛派が暴力放棄を宣言して初めて、交渉が行われるとの立場を繰り返し言明しているが、非現実的な条件だと批判する政治家は多い。

毛派への対応をめぐり、政府内にも亀裂がみられる。警察を管轄する内務省とは異なり、軍は毛派への武力行使に消極的だ。4月の警察官襲撃事件の後、政治家やアナリストらは空軍と陸軍に武力行使を求めた。しかし、軍と国防省は、武力行使は問題をこじらせるだけであり、空爆は市民の犠牲者が出るとして要求を拒んだ。
治安問題で内務省が支配的な立場を占める。経済的疎外、社会的不平等、民族の代表権問題などは他の政府機関が対応するため、包括的な対策には官僚主義の壁がある。毛派のテロは、主に農村部に限られるため、ムンバイ同時テロ後のように、中産階級から行動への圧力がかかることはない。このため、インド政府は容易に問題から注意をそらすことができる。(後略)【5月21日 オックスフォード・アナリティカ】
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経済的疎外、社会的不平等、民族の代表権問題、官僚主義、見捨てられた農村・・・すべて“新興国の雄”“世界最大の民主主義国”インドの抱える根幹的問題であり、一朝一夕には解決困難にも思えます。
(逆に言えば、これだけの問題を抱えながら驚異的発展を続けるインドの潜在力の大きさには驚嘆すべきものがあります)
「インド共産党毛沢東主義派(ナクサル)」が革命集団であるかどうかは別として、革命を目指すグループが存在しても不思議ではない状況です。



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